第038回 足田輝一の本はまさに「いい本」

`93.08.04寄稿

今日は休日。朝刊を開くと「“メロンと一緒に500万円” ハザマ竹内知事夫人に渡す」の見出しが目に入りました。「フーン」と読んでいる所へ、宅急便が来て、秋田は能代に住む西方君から、名産のアムスメロンが届きました。「ほんとにメロンだけか?』何か妙なものが入っていないか?」と箱をひっくり返して、底を叩いて調べましたが、500円札はおろか、5円玉も出て来ません。「よし、これはワイロではあらず」と清々しい気持ちで賞味しました。そのうまいこと。うまいこと!!

食べ終えて、書庫から、つい先頃読んで、いまだ感興(かんきょう=面白がること)さめず、という本を出してきました。

足田輝一「シルクロードからの博物誌1 」です。「どうしてこの本か?って?」実は、この本の8章目が「メロンとマクワウリの再会」と題するもので、「ちょっと前まで、メロンという果物は私達の口にはめったに入らぬ高価な食品であった。病人の見舞いに進物にするか、或いは、西洋料理のコースのなかで一切れ出てくるか、家庭の食卓の日常には登場しなかったものだ」と始まります。

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これは確かにそうで、私などでも子供時代に食べていたのは、北海道で「味瓜(あじうり)」と呼ばれる、つまりは”マクワウリ”でした。これはこれで美味しかったものですが、メロン相手では所詮(しょせん−つまる所)勝負になりません。

ところで、マクワウリと言うのは、美濃国本巣群真桑村(岐阜県真正町)の特産で天正3年(1575)6月29日織田信長がこの「美濃の真桑(まくわ)ウリ」を二篭(かご)宮廷に献上したという記録が「お湯殿のうへの日記」なる古記録にあると足田は書きます。

この本はその他に「スイカを最初に食べた人」とか「ゾウをいつから知っていたか」とか聞くだに面白げな話題が14もあって、その一つ一つが全て、“まだまだあるぞ」と言う感じの博引旁証(はくいんぼうしょう−多くの例を引き全て証拠を示すこと)振りで、読むものの知的好奇心を、心地良く満たしてくれます。

その上、本好きに取ってたまらないのは、巻末に惜しげもなく、ゴシャマン(北海道弁で沢山どっさり)とあげられた数数の文献です。これは面白そうだという本がズラリと並んで、読書欲をそそられること、そそられること。此所まで書いたら、二週間余りも続いていた雨が上がったので、外に出てみると、隣家のオンコ(イチイの木)の木下の“ホタルブクロ」が満開です。

それを見て思い出したのが、これ又、足田の「ホタルブクロで子供の遊ぶこと」なる文章です。底で、直ぐさま家に入って書棚から出したのがこの文章が収められた「草木夜ばなし、今や昔2 」です。同書によれば、梅雨のころに咲きはじめるこの「蛍袋」を信州では「アメツプリバナ」と呼ぶそうな。

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他に,「タンポポは室町から描かれたこと』やら「クルミを宮澤賢治がみつけること」など、全部で20話を収めたこの本での巻末の厖大(ぼうだい=多量な文献のあげ方も,先の本と変わりません。

足田自身が,調べ,語ることを心から楽しんでいる様子が、よくわかりますから、その語り口も,文献の羅列(られつ=ずらりと並べること)も、ちっとも衒学的(げんがくてき=知識をみせびらかす)には見えず,読む側には、むしろ、ありがたいくらいです。

私は、常々、読み終えたあと、あれも読みたい、これも読みたい...という気を起こさせてくれる本を、「いい本」の第一条件にしていますが、足田の本はそういう意味で、本当にいい本です。

知ることの楽しさを、こんなにも味わわせてくれるほんは、そうざらにはあるものではありません。

「つけたし」

① 「ゴシャマン」、(北海道弁で沢山、どっさり)と書いたあと、気になって何人かの人に聞いてみると、室蘭の人には通じますが、他はそうでもないようです。あわてて、石垣福雄「北海道方言辞典』、渡辺茂「北海道方言集」を見ましたがナシ。今度は小学館「日本方言辞典」、明治書院「現代日本方言大辞典」を見ましたがやはり、出ていません。

すると、この「ゴシャマン」、室蘭だけの言葉か知らん。

「つけたし」

② (その2)の終わりのところで、「二週間余も続いた雨が〜」と書きましたが、これは台風のせいもないではありませんが、道南の室蘭辺りで俗にいう「えぞ梅雨」です。

北海道には梅雨はないと言われ、新任の室蘭気象台長さんも「えぞ梅雨」は、「気象学的な意味では梅雨と言えない」と説明していますが、住んでいる身には、これを「梅雨と言わずして、なんというのか」という感じです。この時期,我が庭で元気なのは「あわふきむし」位のものです。

「つけたし」

③ メロンを送ってくれた西方君は,室蘭工業大学出身で、各種コンペで入賞している木造住宅専門の中堅建築士です。長男が生まれると,彼は、光栄にも、頼まれ仲人役をつとめた私の名をとって「敏明」と名付けました。嬉しくもありがたいことです。ところがです。

この「敏明」がすこぶるヤンチャ坊主で、例えば、一緒に食事をすると、行儀が甚だ悪い、そこで、何かやらかすと、奥さんのケイコさんが、間髪(かんぱつ)いれず(=すぐに)「敏明ッ!!」とやる。

しかし、肝心の(かんじんの)「敏明」は平然たるもので、逆に、本家の「敏明」こと私が「ビクッ」とする。何故かならば、遠い昔わが母親に「敏明ッ!!」とやられた記憶が瞬時にしてよみがえるからです。イヤ、コレは心臓によくない。そこで「お願い...敏明、行儀良くして」敏明

 

  1. 足田輝一.シルクロードからの博物誌。朝日新聞社(1993) []
  2. 足田輝一.草木夜ばなし、今や昔.草思社(1989) []

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