山下敏明さんのあんな本、こんな本

第047回 歴史の虚実を見るには?

`94.2.16寄稿

江戸城内の台所の井戸に猫が落ちて溺れ死んだ、それを助けなかったのは不届きである、とて台所の守(かみ)が八丈島に遠島になる。又、5才になる子供が、我が家の軒下に巣を造った燕を、紙筒の吹き矢で射ったのは不埒(ふらち)である、とて親子とも打ち首になる。

こんな虐政の支えになったのが前回話題にした「生類憐れみの令」でした。この悪令の発令者は「犬公方(いぬくぼう)」こと、五代将軍綱吉でしたが、彼は又、大名家取りつぶしの名人で、一代30年間に、46の大名家を断絶させたといいます。

つぶされた大名の中で有名なのが、御存知(?)「忠臣蔵」の発端を作った赤穂の大名、浅野内匠頭長矩(あさのたくみのかみながのり)です。

ここで、御存知に(?)をつけたのには訳があります。作家の森村誠一が「忠臣蔵」を書いた時に、大学性50人程に聞いてみたところ、ナント、中の20人がこの事件を知らず、おまけに「忠臣蔵(ぐら)」を「忠臣蔵(ぞう)」と読んだというのです。

私も、念のため回りの学生5.6人に聞きましたが、やはり同じで、何とも「ゾー」とする話しです。「歌舞伎、浄瑠璃をはじめ、映画、演劇、講談、小説と、あらゆるジャンルで演じ語り次がれて来た「忠臣蔵」物語」、「日本人なら誰でも知っている「忠臣蔵』物語」などと文庫本の帯にありますが、今ではそうでもなさそうで、客の入りが悪いときは「忠臣蔵」をやれば必ず当る、だから「忠臣蔵」は芝居の独参湯(どくじんとう=気付の妙薬)だ、という説も、追々通じなくなるかも知れません。

それはともかく、内匠頭に切腹を申し付けたのが綱吉なら、主君の報復を成し遂げた46人にも切腹を命ずべき、という儒学者、荻生徂徠(おぎゅうそらい)の意見をいれたのも綱吉です。

そして、46人全員が切腹して果てたのが、元禄16年(1703年)の2月4日です。何故、浅野は吉良上野介義央(きらこうずけのすけよしなか)に斬りつけたのか?、何故浅野だけが取りつぶされたのか?浅野家の家老、大石内蔵助良雄(おおいしくらのすけよしお)は、君主の仇を討つために如何なる策を練ったのか?

この幾多の謎と逸話を秘めた事件を知るのに、まこと恰好(かっこう=適当な)の本が文庫ででています。「忠臣蔵コレクション1

「忠臣蔵」を扱った小説は長短500を下らぬそうですが、その中からよりすぐった作品を蒐(あつ)めたこの2冊、面白いこと、面白いこと。

ところで幕府は46人の浪士を4人の大名に預けました。大石内蔵助以下17人を預かったのは肥後熊本の大名「細川家』で、当主網利は、浪士らの行為に感じ入って、朝夕、二汁五采の食事を出す程して、非常に優遇したそうです。

ところが、この細川家、一方では 石河自安(いしこじあん)、二村寿庵(ふたむらじゅあん)、絲屋隋右衛門(いとやじゅうえもん)、家原自元(いえはらじげん)などと言う、当時天下に聞こえた大金持ちから借金した上、そのことごとく踏み倒したので、さしもの富豪達も、全て倒産したといいます。

このため当時の人々は、細川家のことを「踏み倒しの名人」とか「不埒(ふらち=法にはずれている、けしからぬ)なお家柄と呼んでいたそうです。

この話しは、いずれが嘘(うそ)か実(まこと)か。

さて、私は日頃、歴史上の或るテーマに取りかかる時、もしそのテーマを文学かしたものがあれば、それを先に読みます。

すぐれた歴史、或いは時代小説は、歴史の多様さを理解するに大きな助けになるからです。

虚実共に含んだ文学作品を読んだあと、今度は、事実に厳正な歴史学者の著述によって、その虚実を分けて行くのも非常に面白いものです。「正史赤穂浪士2

すぐれた歴史、或いは時代小説は、歴史の多様さを理解するに大きな助けになるからです。虚実共に含んだ文学作品を読んだあと、事実に厳正な歴史学者の著述によって、その虚実を分けて行くのも非常に面白いものです。そこで、この滅法面白い文庫本のあとに、例えば、渡辺世裕、井筒調策、片山伯仙といった人達の著作もおすすめです。

この3人は、自らも、全12巻の「新.忠臣蔵3 」をものした作家.船橋聖一にいわせると「赤穂義士」についての歴史的考証の三大学者なのです。

「赤穂義士の手紙4

「ふんどしの話5

※ つけたし  越中褌は、細川越中守忠興(えちゅうのかみただおき)が始めたもの,,,という説があります。さて、歴史に名を残すには....

① 「ふんどし」によるか?

② 「踏み倒し」によるか?

③ 「悪税」によるか?       貴方ならどれによりますか。

 


  1. 縄田一男.忠臣蔵コレクション.河出文庫(1993) []
  2. 渡辺世裕.正史赤穂義士.光和堂; 新版版(1998) []
  3. 船橋聖一.新.忠臣蔵.文藝春秋(1998) []
  4. 片山伯仙.赤穂義士の手紙 .「赤穂義士の手紙」刊行会(1970) []
  5. 新穗栄蔵.ふんどしの話。JABB出版(1990) []

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