山下敏明さんのあんな本、こんな本

第057回 さばくのカエル.蛙百科他

`94.8月30日寄稿

新聞を開けば,猛暑、大渇水の話ばかり、ブロイラーは100万羽死ぬ,養殖のカンパチやハマチは3万匹死ぬ,銀鮭の稚魚に至っては,死んだのが105万匹。鳥、魚ばかりではない,豚も死に,時には人間も死んでいる。つまり,生きとし生けるもの,皆へとへとになっているのがこの夏です。

その暑さの中、松井孝爾(たかじ)の「さばくのカエル1 」を思い出して,再読し,改めて呆れかえりました。何故、呆れかえったか?

これはオーストラリアの砂漠に住む蛙を描いた本ですが,土台,降水量がゼロの時も間々あるという砂漠に,普通ならば水辺に住む蛙がいると,誰が想像しますか?

ところがいるのです。暑さで家畜が、バタバタ倒れると言う土地にいるのです。

雨の気配を感じると直ちに地中より現れて、同時に這い出て来るトカゲ、バッタなどを猛然と食って、久しきにわたる空腹を満たし、雨が来たらいつでも産卵可能のメスは、溜まり始めた水に待ってましたと産卵し、オスもすかさず精子を賭ける。卵は卵で10日から15日で蛙になる。日本に住む蛙が40日かかる事を知れば、彼らが如何に、砂漠に適した生活術を身につけているかがわかります。

砂漠に住む蛙の中には、背中の模様が十字架に見えるので「カソリック蛙」と呼ばれる、えらい謹厳(きんげん)そうなのもいたりして、この蛙たちの必死の営み(いとなみ)と奇妙な生体には、真底呆れかえります....と言っては失礼!!真底感歎します。それにしてもこの本は面白い。

蛙といえば、「蛙百科」と呼ぶにふさわしい碓井益雄(うすいますお)の「蛙2 」があります。その百科振りを示すと...今年の正月場所、横綱、曙に対して対戦成績9戦9敗の大関貴ノ浪が放った技は「蛙掛=かわずがけ」でした。

私の家にはテレビがないので、この技を実際に見ることは出来ません。それで翌日、新聞の写真を見たり、辞典をひいてみたりするのですが、いずれも靴の上からかゆい足をかいているようで、ピンときません。

もどかしいい気持ちで「蛙」を開くと、「蛙の相撲とかわずがけ」なる一節で、挿絵入りで、細かく説明してあって、容易に納得できます。


又当節のこの渇水、「ゲロゲロ」と蛙の方で雨を呼んでくれぬかなあ...と思ってページを繰()ると「雨乞いと蛙』なる所で、ヨーロッパ、東南アジアでの雨乞いと蛙の関係が豊富に語られています。

動物発生学が専門の著者は,あとがきで「蛙と文芸、蛙と美術、工芸、蛙と科学などについては、それだけで各一冊の書物が出来る程で、本書においてはごくかいつまんで記すにとどめた。」と言ってますが、どうして〜これは謙遜の弁と言うべきもので、人文理系にわたっての蛙の話題が、どのページにも満載で、これ又とにかく面白い。

さて、私は、この文章を島根県は松江の小泉八雲の旧居で求めた、蓮の葉にのった蛙を型取った灰皿(八雲はこれをペン皿にした由)を文鎮(ぶんちん)代わりにして書いていますが、こうした灰皿、置物、箸置き(無論蛙ばかりの)を蒐めた秋山龍(とおる)のコレクションが本になっています。「蛙 かえる カエル3

小泉八雲の灰皿は73ページにあります。又私が庭の水蓮鉢のふちに並んでいる肘枕(ひじまくら)姿の、呑気な蛙も、24ページに出てます。

全部で何点あるのか?とにかく全207ページの殆どが蛙で埋まっていて、面白くて楽し見飽きません。私は「フクロウ」を蒐めているので、蛙に手を広げる事が出来ませんが、蛙も蒐めてみたい...との気持ちを抑えるのに一苦労です。

北海道では、函館で、一時絶滅しかかった「エゾヒキガエル」の蛙合戦が今又見られるようになり、一方野幌(のっぽ)森林公園では「エゾアカガエル」が増え続けていると言います。この蛙は`92年にようやく独立した種であることが分かり、「ラナ(ラテン語で赤蛙)、ピリカ(アイヌ語で美しい)」と命名された曰(いわく)のある蛙です。

こうした明るいニュースがある一方、福岡、青森でトノサマガエルが、大阪と兵庫では、ダルマガエルが消滅したそうです。これを人間のなした環境破壊の結果かと、呆れかえるほかありません。

(つけたり)

大学院生のM子、4年生のK子がA子を批評しています。

K子...「A子なら、本当に蛙の面に水なんだから」

M子...「そう、そう、A子なら立て板に水だもんね」

説明するまでもありませんが

蛙の面に水=(蛙の面に水を注いでも平気だからという)どういう仕向けや詰責に逢っても平気な様(広辞苑)つまり図々しい。

立て板に水=弁舌のスラスラしていてよどみのない様。ついでに書くとこの反対語は「横板に雨だれ」です。

どうも話が腑に落ちないので聞いてみ増したら、M子の言うには「立て板に水」とは立っている板に、例えば、バケツでザブッと大量の水をかけても板は平気で、つまりは「蛙の面に水」どころではない図々しさを言うと思っていたと言うのです。

大学院生にしてこの国語力!!やっぱり、おどろいてひっくりかえってもいいんだろうな??




  1. 松井孝爾.さばくのカエル.新日本出版社 (1993) []
  2. 碓井益雄.蛙.法政大学出版局(1989) []
  3. 秋山龍.蛙 かえる カエル.毎日新聞社(1992) []

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