山下敏明さんのあんな本、こんな本

第067回 氷の文化史と風呂屋の富士山の本

`95.3月3日(金)寄稿

各地から、雪祭りや、氷祭りの便りが来るなと、思っていたら、先日、朝のラジオで、中国はハルピンで、氷祭りが始まり、日本からも、新潟、旭川、網走、札幌、函館の板前やら、コックやらが、数人氷像造りに参加した、とのニュースが報じられました。ハルピンは、氷点下40度にも下がる気温だ、と言うのですから、氷祭りに応わしい迫力満点の場所というものでしょう。

そのニュースを耳にしてから、学校に出た日、昼休みに「国際協力ニュース」なる冊子を見ていると、グラビア欄に、偶然にも、ハルピンの氷祭りに出品された「竜」の写真が出ていて、成る程、これは素晴らしいものでした。

中国では、北京でもこの種の祭りがあって、北京の年中行事をまとめた清時代の「燕京歳時記(えんけいさいじき)」と言う書物によると、

旧暦の1月13日から17日まで、「灯節」(ドンチェ)と呼ばれる祭りが行われますが、これは別称「灯籠の節句」で氷で造った灯籠や彫刻をほどこした氷塔が並ぶと言います。

この祭りは現在も行われていて、人々が喜こび集う新春の北京の風物詩として名高く、氷灯に夜、一勢に灯が灯ると、それは見事な物だと、言います。

...と書いて来ましたが、「燕京歳時記」の箇所は、実は田口哲世の「氷の文化史ー人と氷とのふれあいの歴史ー」からの受け売りです。

この「氷の百科」とも言うべき本、本当は、夏の盛りの話題として、8月までしまっておこう、と思いました余りに面白いので、それまで待っていられない。いっそのこと、氷祭りの感激の余熱(?)さめやらぬ、今のうちこそ、ふさわしいのではないかと思って紹介する次第です。

なにしろ、この本氷のことなら何でも出ていると言った塩梅(あんばい)で、私の見るところ、いわゆる類書(るいしょ=類似の本)がない、と言って良い本です。土台、我々は氷について、何をしっているのでしょうか。

例えば、スナックなどで、気楽に(?)「オンザロック』などと注文したりするであろう貴方は,6月1日が、「氷の日」だ、と言うことをしっていますか?

「えっ、12月の間違いじゃないの?」って。「いいえ〜間違いではありません。」6月1日は古くは「氷の朔日(ついた)」と言ったそうで、1838年天保9年に出た「東都歳時記」には...と又、受け売りですが...「6月朔日、「氷室御祝儀」(賜氷の節)、加洲屋御屋敷に氷室ありて、今日氷献上あり、町家にても、旧年寒氷を以て造したる餅を食いしてこれになぞらう」とあるそうです。「氷の文化史1

つまり、加賀藩(金沢)では、冬の間犀川(さいかわ)の上流に設けた氷室から出した氷を、将軍家に献上すべく、桐の二重の長持ちに入れ、熊笹や木の葉で包んで収め、更に、むしろとコモでくるみ...で5月末に江戸に向けて早飛脚をとばした、と言うのです。

江戸の人々も、この日は「お氷様のお通り」を一目見ようと、沿道に待ち受けたそうな。江戸屋敷では、この氷を市中の人々にもお裾分けしたと言うのですから、気持ちがいい。と紹介していたらきりがにので、ここらで止しますが、どうして、この優れて、かつ面白い本を各紙の書評で取り上げないのか(私が見落としているのか?)私にはとても不思議です。

さて、私は先頃、苫小牧は支笏湖湖畔の氷祭りを見たあと、湖辺を回って「丸駒温泉」の露天風呂に浴して、冷えた身体をあたためました。

湖面はるか彼方には、樽前山(たるまえさん)と不風死岳(ふっぷしだけ)が重々しくそびえていて、まことに圧巻です。

実に気持ちがいい。「スカットさわやか」だと悦に入っているうち、思い出した本があります。

町田忍と大竹誠共著の「風呂屋の富士山2 」です。

この本、何故、風呂屋には背景画があるのか?この背景画なるもの。いつの時代からあるのか? その画柄が、どうして、富士山一辺倒なのか?そして、その背景画を描いている人達は、どう言う人達なのか?...などなどと、改まって聞かれてみると。ハテナと思うことを論じた本です。

大竹誠は、風呂屋に富士山が描かれる理由は「スカットさわやかだから」と断じています。私が支笏湖の上に影をおとす毅然(きぜん=高くそばたつさま)たる樽前山や不風死岳を仰ぎみた時の感じににています。

さて、本書で、私が興味をそそられたのは、背景画の北限は宮城県の気仙沼だーと言う指摘です。

そう言われてみると、私が住む室蘭の各風呂屋には、確かにタイル絵はあっても、背景画はありません。本書によると、更に、そのタイル絵は、殆どが九谷焼きで、それも金沢の「鈴栄堂」なるタイル店のものが極めて多いと言うのです。これは面白い。

室蘭には27カ所の風呂屋があって、その中の何軒かに、タイル絵がありますが、絵の隅にある「銘」にまで注意してませんでした。今度行ったら、目をこらして見て来よう。...と思ったら、楽しみがふえました。



  1. 田口哲也.氷の文化史.冷凍食品新聞社(1994) []
  2. 町田忍大竹誠共著.風呂屋の富士山.ファラオ企画(1994) []

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