第095回 法師と法事

私がいる図書館では、9時までの夜間開館の要員として、2名の女子学生(いずれも建築工学科3年在学)をやとっているのですが、そのうちの1人が、先日、休みを呉れ、と言います。持ってきた欠勤届を見ると、理由欄に「法師のため」とかいてあります。

内心「ハハアー」と思いながら、一応「ナンダコリャ?」と聞くと、「爺ちゃんが死んで/、何年目とかで/、皆集まるので/、」—(/=語尾を上げて、かつ、のばすのです。)どうのこうのとで、彼女の言いたいことは、案の定「法事のため」とわかりました。

「フーン.それで何処までいくんだい?」「釧路まで/」「フーン.それで何か?お椀にでも乗って行くのかい?」と

ひやかしましたが、驚いたことに、「それって何の事?」ってな顔でキョトンとしています。それで改めて、—、「法師と書けばなあ、僧、出家のことだぞ!!、お前の言いたいのは、「法事」(追善、供養のために行う仏事)だろう」と言うと、「えっ?この字じゃないんですか?」と言います。

「そしてなあ!!法師と言ったら、誰でも”一寸法師”を連想しないか?」と言うと、お椀が分らぬ筈です、—「聞いたことがあるような気がするけど、よく分りません。」との返事です。これには「驚いた」を通りこして、北海道弁でいうなら、まことに、「ビックラ、コキマシタ!!」

人(ひと)有って、或いは言うかも知れません。「まあ、”一寸法師”なんて、昔話だもの、今時の若い人は知らないのも無理はない—。」と。しかし甘い顔はしていられないのです。

と言うのも、つい先日の事ですが、差し出された図書館利用証を見ると「○○古都」とあるので、「この名前は”こと”と読んでいいの?」「そうです」「優雅なもんだねえ!誰がつけたの?」「父です」「フーン、お父さんは、きっと、川端康成が好きなんだ?」—「えっ?川端康成さんて誰ですか?」

「誰って、ノーベル文学賞をもらった小説家だけど知らない?」「知りません」「フーン、じゃ、お父さんはどうしてこの字を使ったんだろう?」「父は山口百恵さんのファンだからと言ってました」(因みに今時の若者はこうして会ったこ

ともない、作家に対しても芸能人に対しても、「さん」付けをします。)川端康成原作⇒市川崑監督「古都」⇒主演、山口百恵。成る程そうか!!この女学生の父親は、原作者ではなくて、映画化された「古都」の主演者、山口百恵(因みに、これは百恵最後の出演作、’80)によってつけた訳なのです。

それにしてもまあ、「一寸法師」も「川端康成」も知らぬとは?!!いくら、理工系の学生とは言え、ひどすぎる、どもならん!!

さて、”呆れたボーイズ”じゃない、呆れた話はともかくとして、(皆が知っているであろう—とは言えない)「一寸法師について書かれたいい本が出ました。

「藤掛和美」の「一寸法師のメッセージ」です。昔話「一寸法師」の含むところの諸々、つまりは、謎を、軽快な文章で解きあかします。

含むところの謎とは?—例えば背丈一寸(3cm)の人間は可愛らしいよりも、むしろ”化け物”と言ったほうがいいのではないのか?お椀の舟に乗って、箸の櫂でこぎ、針の刀を持つと言うのは、単に彼が小さいための道具立てなのか?そ

れとも、これらのものには何か、特別の意味があるのか?そして又、策略によって宰相の姫君を手に入れる、とあっては—可愛いよりも、むしろ「悪人一寸法師」と言ってもいいのではないのか?…それとも、これにも

何かの意味があるのか?そして、ほしい物を心のままに打ち出すことが出来る宝「打ち出の小槌」の正体とは何か?おまけに、それは、そもそも誰の持ち物なのか? どうやって手に入れたのか?

これらの謎解きを「絶妙」な、今風に言うならば、ノリのいい文章にのせられて、気持ちよく読み終えると、———小さ子を主人公にしたこの物語が、その実、仲々にして、大きな内容を持った物語だと気付かされることになります。

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いや、面白い、のった方は、ついでに浅見徹の「玉手箱と打ち出の小槌」(中公新書)をどうぞ”!!

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と、ここまでほろ酔い加減で書いてきました。と言うのも、根室の友(毎日新聞記者の)本間浩昭さんから、「花咲蟹」が、ナント、10パイも届いたからで、

それを肴にビール2本、ウイスキーW2杯を飲んだからです。本間さん、サンキューSo much!!

うらやましい方は真の舌のパイオニア本間さんの名著2冊「北の味たんけん」、「北の食材たんけん」(いずれも毎日新聞社)をご覧あれ!!

もう寝よっと!!

「一寸法師のメッセージ」藤掛和美、笠間書院  ’96  ¥1,800‐

「玉手箱と打ち出の小槌」浅見徹(中公新書708) ’83  ¥540‐

「北の味たんけん」、

「北の食材たんけん」本間浩昭 毎日新聞社 いずれも  ¥2,000−


  1. 藤掛和美・一寸法師のメッセージ・笠間書院 (1996) []
  2. 浅見徹・玉手箱と打ち出の小槌・中公新書(1983) []

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