第103回 鉄の話と正月用読書本

‘96.12月寄稿

東京工業大学で「たたらサミット」が開かれる云々の記事が新聞に出た朝、市議会議員のSさんから、それについての質問が来ました。本学でも、昨年、共通講座(昔でいう教養課程)のT教授が中心になって、市内のイタンキ浜と呼ばれる海岸の砂鉄をつかって「たたら」の実験が試みられ、無事成功したというニュースが新聞に出たことがありました。

「たたら」とは、「何人かが足で踏んで空気を送る、大型のふいご」(新明解国語辞典)のことです。そして、「たたら吹き」と言うと、「砂鉄、木炭を原料とし、たたら(=ふいご)を用いて行う「和鉄製錬法(広辞苑)のことです。

この製鉄法は、古代から近代に至るまで、わが国で行われたものですが、その最大の産地は、中国地方(特に出雲)と東北地方(特に久慈)で、この両地は、共に良質の砂鉄の産地でした。出雲の「たたら」に関しては司馬遼太郎が、その著「街道を行く7」所収の「砂鉄のみち」で明解に語っていますが、「和鋼博物館」がある安東市で作られる鋼は、硬さとねばりに富んでいるため、切削用の工具や、電磁気材料、又は刃物鋼としては最上のものだと言います。

現在でも、YSS(ヤスキハガネ)と呼ばれて珍重されている原鋼の半分が、アメリカのジレット社に納められて、カミソリ刃になっている由。おまけに、1トンで100万枚の刃がとれるというのですから、これは仲々愉快な話です。

昔から銘刀と言われる日本刀には玉鋼(たまはがね=モトの鋼)が使われていたのですが、カミソリにまで使われていたとは!!という訳で、今回は砂鉄の本、それも地方で出版されたために、あまり知られていない、と思われる本2点を紹介しましょう。「たたら、だの、砂鉄、だのには興味はないよ」などと言うなかれ…思ったよりはずっと面白くて、読み終えたあとは、鉄が金属の王者だと言うことがよくよく分かります。そう、鉄は、「金の王なる哉(=かな)・鐡・鉄の旧字体」なのです。一冊目は、島津邦弘著「山陽、山陰、鉄学の旅」です。

文字通り、足で書かれた労作です。「たたら」とは「大型のふいご」と先に書きましたが、この「ふいご」を踏む労働者を「番子」と呼んだそうで、たたら仕事の中では最も重労働、一時間半で交代したそうです…そして今、我々が遊びにせよ、仕事にせよ、交代交代でするときに使う「かわりばんこにしよう」の「かわりばんこ」のルーツはどうもここらしい。というような話を含めて、イヤ、知らなかったなあ…の連続。島津邦弘『山陽、山陰、鉄学の旅』中国新聞社 ’94刊 ¥2000 ①1

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二冊目は、これ又労作の田村栄一郎著「みちのくの砂鉄いまいずこ」②2

東工大の飯田賢一によると、延暦6年(787)の「官符」なるものに、東北のえぞ人は「冑鉄ーかぶとの鉄ーで農具を造った」という記録があるそうで、意味は、大和朝廷側が捨てた冑を打ち変えて農具にしたということで、つまり・700年代にはみちのくとさげすまれていた東北に、実はすぐれた製鉄文化があったとなる訳で、この本は、この説が絵空事ではないことを証してくれます。

さて、雑誌、新聞でさかんに「今年の収穫3冊」などとやっていますが、私の方はそれはやめて、年末年始に読もう…と机上に積んであるものを気ままに何点か挙げて、皆さんの読書欲を刺激することにします。

・P.コレット「ヨーロッパ人の奇妙なしぐさ」   草思社  ¥2266③3

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・佐野真一 「旅する巨人ー宮本常一と渋沢敬三ー」 文芸春秋 ¥1800 ④4

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・栗田奏二 「うし小百科」  博品社  ¥1648  ⑤5

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・増田精一「日本馬事文化の源流」 芙蓉書房出版 ¥2500⑥6

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・竹井成美 「南蛮音楽その光と影ーザビエルが伝えた祈りの歌」音楽之友社¥2300  ⑦7

次回は’97、1、14(火)です。では、よいお年を!!

ー田村栄一郎「みちのくの砂鉄いまいずこ」 久慈(くじ)郷土史刊行会、

平成3、刊 ¥300  ・0194-53-3886

  1. 島津邦弘.山陽、山陰、鉄学の旅.中国新聞社(1994) []
  2. 田村栄一郎.みちのくの砂鉄いまいずこ.久慈(くじ)郷土史刊行会、(1991) []
  3. P.コレット.ヨーロッパ人の奇妙なしぐさ.草思社(1996) []
  4. 佐野真一.旅する巨人ー宮本常一と渋沢敬三.文芸春秋(1996) []
  5. 栗田奏二.うし小百科.博品社(1997) []
  6. 増田精一.日本馬事文化の源流.芙蓉書房出版(1996) []
  7. 竹井成美.南蛮音楽その光と影ーザビエルが伝えた祈りの歌.音楽之友社(1996) []

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