第104回 招き猫の文化

‘97.1.14寄稿

果物に目がない私は、毎日弁当を使た後も、必ず季節季節のものをたべているのですが、今の時期に好きなのは、やはり柿です。先日も、樽柿をみつけて、樽の懐かしさも加わって、一樽買ってきたところです。干柿も大好きです。干柿は、

普通「ころがき」と言いますが、それは一旦干した柿を、型を整えるために、すだれ、ムシロの上で転がすのですが、その時の「ころころ」させる様子を取って、かく言うのだそうです。

「枯露柿」なる言葉が、既に400年も前の古記録にあるそうで、何人かは知らず、「ころ」なる動きに、この詩的な字を宛てた才覚には、ほとほと感嘆させられます。

ところで、岐阜でとれるものに「蜂屋柿」と言う種類があって、何でも、関ヶ原合戦の折、美濃大垣を攻略すべく陣を構えた家康に、近隣の「瑞林寺」(ずいりんじ)の住職が、この柿の大きなころ柿を陣中見舞として献上したところ、家康

は欣嬉(きんき=喜ぶ)して、”大柿(=大垣)我が手に入る。吉祥(きっしょう=よいしるし)なり”と言い、天下をとったあとは、瑞林寺に「柿寺」なる名を与えた上、蜂屋柿を産する一帯の地に対して、諸役(諸役=種々の雑税)を免じて、米の代わりに柿を持って、年貢としてよし、、、、と許したそうです。

因に、「ころがき一個」に対して「米、一升」と計算したそうな。昔の殿様は、こうして、何らかの形で、礼をしたもんだな、、、と思いながら、殿様のお礼、或いは恩返しと言えば、「豪徳寺(ごうとくじ)」の話もそうだな、、、と思い出しました。

東京は世田谷区にある豪徳寺に、万治年間(1658〜)の或る日、鷹狩りの帰りの武士たちが訪れました。何事かと驚く住職に、武士は門前を通ったら、白猫がいてしきりと手招きするので寄ったのだと言います。

一行が和尚に導かれ奥に通った途端、雷鳴を伴って沛然(はいぜん=さかんに)たる雨がきました。雨が止むまで、和尚の説法を聞いたあと武士は、雨をしのいだ上に結構な説法を聞けたのも、仏のおかげである、として深く感謝し、これからは、この寺を菩台所(ぼだいしょ=一家累代の寺)と定めよう、と言って去ったそうです。

このことがあって後、この寺は大いに栄えたそうで、吉運を招いた猫の為の猫塚も出来た由、因に、この武士は、井伊(いい)掃部頭(かもんのかみ)直孝(なおた)でした。そして、一説によると、これが「招き猫」の誕生だ、と言うのです。

さて、新年を迎えて、今年は、或いは今年も「福」が、来てくれるのか、どうか、、、、大いに気になるところですが、そういう気分の人に、うってつけの、それもまことに面白い本があります。「来る福、招き猫手帳」がそれです、

「来る福、招き猫手帳」 荒川/板東著、情報センター出版局`96刊 ¥1600①1

この本、その名も「日本招き猫倶楽部」世話人の荒川/坂東の御両人がつくったもので、これが矢鱈と面白い。なにしろ、その表情、姿態の面白さ、繰り返し見ても、全然、飽きが来ない招き猫を、何体(匹)も見せられて心から笑ったあとへ更に、招き猫を集めている、これ又面白い面々が紹介され、加えて招き猫を専門に創っているアーチストやら、窯元(かまもと)やら、そして、それを売っている招き猫専門店までの案内が続きます。

その上、「招き猫学会」の報告として、民族学やら形態学の蘊蓄(蘊蓄=深く積んだ学問)が披露されます。この本が余りに面白いので、私もつられて,この本で知った「招き猫の文化誌」(青弓社)を注文した位です。と言う訳で、猫無関心派、猫大嫌い派、etcにも、この本は気に入る筈(と思います)です。②2

さて、折角の楽しい話のあとに、苦い話をしたくありませんが、猫となると、是非にも知っていて欲しい話があります。それは何かと言うと、猫の餌(えさ)の話です。

私も、子供の頃、タロと名付けた猫を13年間飼いましたが、今考えてみると、その間、猫用として、特別に用意した餌をやった覚えがありません。おそらくは、毎食、家族の食べ残しか、冷や飯に、「だし」を取った後の煮干しを置いて味噌汁をかけてやった位のものだったでしょう。

それに、昔の猫は、自給自足で、大いにネズミを捕っていたものです。ところが今は、猫缶が全盛です。問題はこれで、猫缶の原料の、マグロの産地のインドネシアとフィリピンでは、人間の口に入るべきマグロが、輸出用の猫缶の中味となるという問題です。

これを論じた上智大学生の労作「アジアを食べる猫」…きつい書名ですが読んでみて下さい。さて、猫のみならず、動物好きの人に参考になるリストが出ました。

雑誌「鳩よ!」の’96年12月号「動物の本特集号」です。本好きにも読書欲をそそられること必定です。


  1. 荒川/板東.来る福、招き猫手帳.情報センター出版局(1996) []
  2. 菊地 真招き猫の文化誌.日本招猫倶楽部 (2001) []

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