山下敏明さんのあんな本、こんな本

第109回  ジプシーローズ

‘97.3寄稿

3月の或る日の事、会議のあと席に戻ると、アシスタントのA子が2、3の市民から、「ジプシー・ローズ 」に関する本はないか・・・との電話がきていました。と言い、「ジプシー・ローズって御存知ですか? 」と聞きます。「知ってるよ、でも、どうして急にジプシーロウーズなんだ 」と聞き返すと、なんでも前夜テレビの「知ってるつもり」とやらで、このストリッパーがとりあげられたそうで、A子は「ローズさんの最後が 可哀そうで、私も、もう涙モンでした。」と、目を拭う仕草をします。

私の家には、テレビがありませんから知らずにいた訳で、「成る程そうか、俺はローズを観たことはないけどね。たしかローズ自身が書いた”裸の自叙伝;と言うのがあったし、ローズの内縁の夫で、・・・なんてナンテ言ったけなあ、苗字自体が名前みたいな男で、、、」と私が思案すると、A子が「正邦さんです。」と答えます。会ったこともない作家でも、音楽家でも、つまりは誰にでも;さん”を付けるのが、今の人のクセですから、そこは気にせずに聞き流して、「そう、そう、その正邦乙彦(と言ったかな)が、たしか、”実録ジプシーローズ”なるものを書いているし、もう一つ、これ又、たしかをつけるけど、芥川賞作家の近藤啓太郎が”裸の女神ジプシーローズ”を書いてた筈だよ」と記憶をたぐって答えたあと、”それに、女神と言えば、版画家の棟方志功が、彼女を絶賛して、”ジプシーローズの肉体は女神である。”って言ったんだよ。」と説明しているところへ、最前の市民から、又電話が来たので、「残念ながら当館には所蔵していませんが、こんな本があった筈です。」と如上の話を繰り返したことでした。

さて、「ジプシーローズ」なる名を初めて耳にしたのは、私が、大学一年の時です。大学試験を終えたばかりの私を、姉の友人だった東大の国文科生Kが、銀座のビヤホール「ミュンヘン」に誘ってくれました。

行ってみると、東大生10人ばかりの集まりで、私はここでこれも初めて 蓋付きジョッキでビールを飲んだのですが、そのときの話題の一つに、「ジプシーローズ」が出て、彼らは口々に「あのグラインドは、一見の価値ありだよな」など言っていたのです。

これはローズ特有のショウ技術出、1分間に何十回とかの早さで、腰を激しく回転させるものでした。思うに、穀を粉にひく時、臼などの柄をつかんで回すことをGrandと言いますから、そこから出た言葉でしょう。東京に慣れるにつれ、

私もストリップを観るようになって、新宿、池袋、浅草、の各座を経巡りましたが、全体に質のよかったのが有楽町の「日劇ミュージックホール」でした。

学割で、たしか、¥450だったと思いますが、或る時、私が「学生一枚」と言ってチケットをもらうと、あとから続いた男が、つられて「大工一枚」とやって、割引はないと断られたには、私も笑いをこらえるのに苦労しました。

今思い出しても、ふき出しそうになります。私が通った頃には白木みのるやジャズシンガーの柳沢真一がコメデイアンとしていましたし、坂本スミ子も、踊りの合間に歌っていて、あとから思えば、ストリップの絶頂時代でした。私のひいきは、島淳子でした。

さて、「ストリップ」と聞いて小馬鹿にする、或いはヒンシュクしてはいけません。踊り子達も素晴らしい上に、なにしろ、ストリップの幕間にやるコントに出ていた役者たちの多くが、後に日本を代表するコメデアンとして大成したのです

から。例えば、由利徹、八波むとし、南利明、脱線トリオ、佐山俊二、長門勇、そして寅さんの渥美清、谷幹一、関敬六、茶川一郎、財津一郎、三波伸介、東八郎、それにコント55の萩本欽一、サイザンスのトニー谷・・・と名を挙げてくれば、誰しもこのことに疑いをさしはさむことは出来ないでしょう。

と言う訳で、今回は、日本の芸能の一翼をになったストリップについての本を紹介します。

橋本与志夫の「ヌードさんーストリップ黄金時代」です。著者は、「内外タイムス」のいい記者を経て、’62年からフリーになった人で、資料と写真を満載した好著です。①1

もう一冊、古本屋でさがすしかありませんが、岡田恵吉の「女のシリ、シンフォニー」です。②2

岡田は長いこと、脚本、演出の二役をこなして、ストリップショーの歴史を体現しているといわれた粋人です。この本、ストリップの前史バアレスクから現在までを語った得がたい一冊です。*昨夜ビデオで観た、デミー、ムーアの「素顔のままで」は原題がStriptease=ストリップショーです。

さて、私事、このたび、:知識の宝庫”退職へ(平成9年3月26日)室蘭民報記事  室工大図書館司書の山下さん 好奇心で30年「悔いなし」

と言う訳で、この3月31日をもって引退いたしました。とは言うものの、この「あんな本、こんな本」と地元紙「室蘭民報」に連載中の「本の話」は続ける所存ですので、これからも御愛読の程を、お願いいたします


  1. 橋本与志夫.ヌードさんーストリップ黄金時代.筑摩書房 (1995) []
  2. 岡田恵吉.女のシリ、シンフォニー.学風書院(1958) []

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