第148回 トンデモ本の世界 

神武(じんむ)天皇は紀元前、7世紀に即位した第1代の天皇だ。と言っても、これは記紀伝承,つまり,古事記と日本書紀で伝えられた、まあ、いわば 架空の話だ。

言わずもがなだが,古事記は神話と伝説と歌から成る日本最古の本だ。日本書紀も同様に,神話,伝説、記録をとりまぜた漢文の本で奈良時代に出来た。とここまではいい。だが・・・・神武天皇は,即位後、世界の偉大な宗教指導者と結んで・・・結果、おどろくなかれ、あのモーゼ.釈迦,老子、孔子、キリスト、マホメットなどが、日本に留学して,学成った後、各々の出身地に戻って、「道」を説いた、のだそうな。実にデカイ話で、これに較べると,N・Sのコロンビア大学留学などスケールの小さい話だなあ。①1

まあ、N・S女史の留学説はともかく,貴方、このキリストさんも,お釈迦様も、マホメットさんも、全部神武天皇の教え子だ、と言う話、どう思う??

どう思うって??、どうもこうも、まさかのカサマでとんでもない話だ・・・と恐らくはなると思うのだけど、そこで、この”手”の本を「トンデモ本」と当節は言うのです。ところでこの「トンデモ本」そうはあるまいと思いきや、これが実にたくさんあって、その証拠に「トンデモ本の世界」なる本が「と学会」の編で出た程。この「と学会」とは「トンデモ本」を研究するグループだ。このグループは「トンデモ本」をとりあげて一つ一つ、その書く所、説く所に反論を加えて、その本がいかにトンデモなくデタラメであるかを明らかにするのだけど、そのいい所は,声高にトンデモ著者をやり込めるのではなく、笑殺するところにある。笑うなんて失礼な!!と言うなかれ、余りバカバカしくて笑う外には反応の仕様がないのです、この「手」の本にたいしては。

さてこの「トンデモ本」の世界には「ユダヤ陰謀本」とも呼ぶべき分野があって、この分野の特徴は、世の中,ナニがナンデモ、悪いことが起きると、それは即ち、世界を征服しようと企んでいるユダヤ人のせいだ、と結論づけることだ。

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この分野の大物U()氏の本には”アメリカの教育委員会はユダヤ人に支配されており、性教育を実施することによって子供達に性に対する興味を持たせ、堕落させている”などとのたまわれていて、イヤハヤだが、更に又、”ハンバーガーの肉に女性ホルモンが大量に含まれているため、それを食べ続けた大衆がおとなしくなり、それで〜てなこともかかれている。

こうしたバカゲタ話は、一見小さなことの様だが、決して小さくはなくて、何でもユダヤ人のせいにしてしまう、つまり、悪いのは全部ユダヤ人だ、と言う「反ユダヤ主義』の根は、深く長く、そのもたらす害悪も、決して無視出来ぬものだ。U氏の本のようなトンデモ本がどうしてかくも読まれるのか、を理解したい貴方(かどうかはわからぬけれど)に是非すすめたいのがグッドマンの本です.内容、注釈共にすばらしい、正しく理知の本です。読めば諸悪の根源はユダヤ人ではなくて、無知から来る迷妄(めいもう=物事の道理に暗く、実体のないものを真実のように思い込むこと)だとわかります。

「トンデモ本」はこの位にして、前回、絵本についての話はおかげさまで好評で、かつ質問も来たので、改めて、2点を紹介します。先づは、「イギリス挿絵史」。これは今の所,我が国で望み得る最高のイギリス挿絵史の全体像です。読書会のお母さん方、座右に置いてしかるべき本の一冊ですぞ。一方質問はグリム童話の語り手の代表格「マリー」が誰かを突きとめた人は?で、答えはハインツレレケ、そこでレレケの「グリム兄弟のメルヒェン」と「マリー」の正体を論じたレレケの論文がのっている「現代に生きるグリム」岩波書店なぞの2冊を読んでみて下さい `99.7.16

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  1. と学会:編・トンデモ本の世界・宝島社(1999) []
  2.  宮澤正典・ユダヤ人陰謀説・講談社(1999) []
  3. 平田家就・イギリスの挿絵史・研究出版社 (1995) []
  4. ハインツレレケ小澤俊夫訳・グリム兄弟のメルヒェン・岩波書店 (1990) []

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