第196回 私の選書リスト

`02.2月15日寄稿

最近は変わった遊び(と言ってよいかどうか)が流行っていて,それは何かと言うと、タレントに1万円なり2万円なりを渡して,本屋をのぞかせ,その限度内で何処かで何冊、何を買ったか...をみるものだ。A誌でも、B紙(読書欄)でもやっているし,本屋で立ち読みした「さくらももこ」とやらも、同じようなことをしているから,人気がある企画なのかも知れぬ。

人が知らぬ本を沢山よんでいる、と言うことは、これはこれで愉快なことだから,私も誰かが,どんな本を見つけたか,目にとめたか、は大いに関心がある。そうしたリストを見て,私が興味を感じている分野で,露知らなかった本を知ることは嬉しい限りだ。

と言う訳で,上記の試み,もしくは遊びのひそみに習って,私もナニガシかの金を与えられ「さあ選んでいらっしゃい」と言われたつもりで,買って来た本を,次に並べてみる。と言っても私は,実際には,毎週休館日の月曜日になると、古巣の室工大に行き、大学生協書籍部によって,注文しておいた自分の本を取って来るのが常なのだが。

例えばある月曜日に受け取った本のリストは次の如し、

1) 和田芳英/ロシア文学者 昇曙夢(のぼりしょむ)&芥川竜之介論考ー/和泉書院/2500

帯の文章 ロシア文学の巨星、昇曙夢、今泉下から甦る!ロシア文学が近代日本文学に重要な役割を果たした事は学会の定説である。二葉亭四迷亡きあと、明治末年から,大正時代には武者小路実篤が語るように、「昇曙夢の時代が確かにあったのである。宇野浩二や広津和郎、芥川竜之介等大正、昭和の作家達に芸術家魂を吹込み、深甚な影響を与えている.更に魯迅も曙夢の著・訳書を購入し、重訳している。本書は奄美郷党は勿論、国文学者・ロシア文学者・比較文学者・スラヴ史研究者必携の基本図書となるであろ う。

2)今川英子/林芙美子、巴里の恋/中央公論新社/¥1900

3)堀川弘通/評伝黒沢明/毎日新聞社

4)笠井俊彌/蕎麦―江戸の食文化ー/岩波書店

5)ウイリアム・ロッシュ/エロチックな足/筑摩書房

6)四柳英子/椿と日本人/能登印刷出版部

⑦)奥村剋三他/ロシア文化と近代日本/世界思想社   全部で7冊このうち2点を紹介すると...。

私が大学生だった頃、昭和30年代前半、創元社が傾いて「創元文庫」が大量に古本屋に出た。その文庫本達は何回も返品されたためだあろうか、おそらく汚れを取り去るためと思われるのだが、天と地と小口、つまり本の背を除いた3カ所が裁断されて、一まわり小さくなっていた。サイズがどうあれ、世界の古典が安く読めるのだから色々買ったが、中でも良かったのが、 アンドレーエフ/深渕   クープリン/ヤーマ、生活の河  ソログーブ/毒の園

アルツィバーシェフ/戦慄   メルジコーフスキイ/トルストイとドスとエーフスキイ  フリーチェ/芸術社会学.

などのロシア物で、これ全て昇曙夢なる人の訳だった。この人には昭和30年(1955)喜寿記念出版の「ロシア、ソビエト文学史」なる大著があって、これは私も読んだが、同年に、第12回日本芸術院賞及び第7回読売文学賞を贈られた不朽の名著だ.と言うものの、私の見る所、この人は官学出身ではないと言うことで、(ニコライ神学校出)文学史的に無視されて来た嫌いがあって、私は大いに気になっていたが、ありがたい事に、①「ロシア文学者 昇曙夢&芥川竜之介論考ー1 」が出た。昇の業績を過不足なくたたえて、いい本だ読んで私もすっきりした。

すっきりしたと言えば②「林芙美子巴里の恋2 」でもう一つ私の疑念ははっきりとし、私はすっきりとした。疑念とは、林芙美子の「巴里日記」に出てくる恋の相手(S)氏なる人物が、建築家の神様、白井晟一であるとわかったことだ。私は14.5年前、秋田県雄勝町にある白井設計の宿に泊って感激した思い出があるが、この白井がSだったとは!!

因みに当館の「ふくろう文庫」の中には白井の素晴らしい「スケッチ集」が含まれているぞ(限定版)

次いで又、或る月曜日の購入リストは

1) アウシュヴィッツと知識人/E・トラヴェルソ/岩波書店/¥3400

2)冐瀆(ぼうとく)の歴史/アラン・ガバントウ/白水社

3)石神井書林目録/内掘弘/晶文社/¥2000

4)翻訳街道裏通り/井上健/研修社出版

5)聖なるロシアの源流/中村喜和/平凡社

6)日本の博物譜/国立科学博物館篇/東海大出版会

7)探訪.蔦屋重三郎/倉本初夫/れんが書房新社  以上7点

③「石神井書林目録3 」は「しゃくじい」と読んで東京の地名、石神井公園でボートに乗った事が、何回かある。なつかしい。さて③をあげたのは、この著者、内掘が`92に出した「ボン書店の幻ーモダニズム出版の光と影ー」がすごく面白かったからだ。内掘店を持たぬ古本屋だが、この本は昭和初頭、小さな本屋(出版社)が出した本の数々が如何に大きな影響を人々に与えたか、と言う本だった。「書林目録」は、本の話が詰まっているが、何を聞いても「だからどうした?」と言いたい様な人にはすすめてもダメな本だ。

最後に④「アウシュビッツと知識人4 」ヒトラー、ナチス、アウシュビッツ、ホロコースト、強制収容所と言った言葉がタイトル.に含まれる本を私は、極力逃さず読んでいるが、昨今のブッシュの「アメリカの優越性」丸出しの姿勢には嫌な感じしか抱けない。ヒトラーもアーリア人種のみが人間であり、アーリア文明だけが文明だと思っていた。





  1. 和田芳英.ロシア文学者 昇曙夢&芥川竜之介論考ー.和泉書院(2001) []
  2. 今川英子.林芙美子巴里の恋.中央公論新社 (2004) []
  3. 内掘弘.石神井書林目録.晶文社 (2001) []
  4. E・トラヴェルソ.アウシュビッツと知識人.岩波書店(2002) []

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