山下敏明さんのあんな本、こんな本

第208回 中薗英助の本4冊

`02.10月9日寄稿

1973年8月8日、東京は九段「グランドパレスホテル」に宿泊していた全大中(当時は、韓国新民党所属、現大統領)が何者かによって拉致された。これは、現在では、当時の朴正煕韓国大統領が、KCIAを使って全大中を殺害しようとした殺人未遂事件であって、単純な拉致事件とは異なる...ということが判然としている。しかも、これには、自衛隊の秘密組織(JCIA)も関与していた。

`94年に、金大中自身が、ワシントンのナショナルプレスクラブで行った講演会で、記者の質疑に答えて「〜当初、ホテルの部屋の風呂で殺される筈が、自分が大声を出したために彼らは諦めて,,,,今度は船で海上に運び海中に放り込もうとしたが、自分で知る限りでは、日本の航空機が上空に飛来して、警告弾を投下したため、これ又諦めた。〜これはアメリカのCIAが朴に、大中の殺害を止めるよう警告すると共に、日本政府に情報を提供したおかげである。〜」と語っている。これは誰が見ても分かるように、明らかに日本の国家主権を侵害した大事件だったが、当時の田中首相も、これに続く三木首相も、“公的機関は介在せず“とか“疑わしい結果は得られなかった”と言う朴政権の説明を鵜呑みにして、1973年11月にいわゆる“政治決着”なるものをつけたのだった。ところが、2001年の1月になって、「やっぱりな」と思わせられる事件(?)が起きた。

それは「越山会」元幹部の「ありゃーまあ」とも言うべき証言が発表されたことだ。この人物は、元自民党の、新潟県議で、木村博保氏なる当時73才の御仁。

「文芸春秋」にのった手記によると、..拉致事件の後苦しいい立場に立たされた韓国政府の意を受けて、朴政権の無任所大臣だった李(イ)乗 (ピョンヒ)が木村の所に来て、田中との面会を取り持つよう頼んだと言う。これが1973年秋。

結果、10月になって、目白の田中邸で会合がもうけられ、この時李は「大きな紙包みを入れた手提げ袋」を2ケ、持ち込み、朴大統領の親書と共に、これを田中に差し出したと言う。木村は言う「二つ合わせて4億円はくだらないと思う」と。その根拠は、木村自身が、その1年程前に、柏崎原発開発用地の売却代金として、5億円を田中邸に運んだことがあり、その時とほぼ同じ位の大きさだった」からだ,,,そうな。

ついでに書くと、当時のKCIAは、北朝鮮に奉仕する者とみなす韓国人約150人を外国で拉致した...そうな。

疑う向きはドイツからソウルに拉致されて、拷問され、死刑の宣告を受けながら、世界中からの抗議で釈放され、一命をとりとめた。韓国の世界的作曲家 尹伊桑(ユンイサン)の聞き取りをドイツの女流作家、ハイーゼ・リンザーがまとめた「傷ついた竜ー作曲家の人生と作品についての対話ー1 」/伊藤成彦訳/未来社/`81刊/¥1800を読んでみてちょうだい。

さて、この間、苫小牧まで行って坂本順治監督の映画「KT」を観て来た。これは、原作が「拉致ーKCIAと闘った大統領候補、護衛団ー2 」だ。

作者はスパイ物の先駆者、中薗英助で、この作品、つまりは「全大中事件」をテーマにしたドキメンタリー、ノベルなのだ。話の筋は、一言で言えば「朴大統領の意を体した韓国中央情報部(KCIA)の部長が、駐在大使館に命じてやらせた国家的犯罪」だ。映画のほうも力作で、傑作。是非是非観てちょうだい,,,と言いたいもの。

ところで、作者中薗英助が本年4月に81才で亡くなった。月並みなれども惜しみて余りある...。

と言う訳で、今回は、この余りベストセラー的ではない作家の作品のうち私が重要と思う物を3点紹介する。

先ずはNHK教育テレビの中国語講座にも使われたことのある歌「何日君再来(いつのひきみまたかえる3 」は日本が中国を占領したとき流行した歌として、又毛沢東が天下を取ってからは、とは蒋介石(しょうかいせき)の事で、国民党軍を慕っているのだろうとて、文化大革命の最中はもちろん歌うことさえ御法度,,,と言う悲しい歴史を持った歌だが、それでも時代の荒波をくぐり抜けて人々に歌いつがれて来た。そのルーツを扱った興味津々の物語が本書。こんなに面白い本はめったにないぞ

次は外交官.ハーバート・ノーマンの悲劇を語った「オリンポスの柱の蔭に4 」日本生まれのノーマンは外交官に対して、又すぐれた歴史学者、岩波から全4巻の全集も出ている(ハーバート・ノーマン全集)

この穏やかで、上品な学者大使が、駐エジプト大使として在任中の1957年4月4日あろうことか、カイロの「ナイル、ヴュービル」(12階建て)の屋上から身を投げて自殺を遂げた。これは、現在では1951年ころからアメリカで勢いを得ていたマッカーシズム(赤色分子摘発運動)によって、自殺に追い込まれた,,,いや...殺されたのであろう、との見方がが強い事件だ。つまりは、「非国民狩りの犠牲になった訳だが、当今のブッシュを見ていると、何やら「非国民」狩りの親玉のように見えてくるね!!

次は`95年度(平成7年)の第22回大佛次郎賞受賞の大作の「鳥居龍蔵伝5

東大を辞めて、妻とわずか1才の赤ん坊を連れて、蒙古の砂漠への探検行に出かけると言った破天荒の人生を送った人類学者の伝記.淡々たる、筆致ながら、力強いこと、無類の文章によるすぐれた伝記だ。

以上ベストセラー作家ではない中薗へのオマージュ(敬意)のつもり。



  1. 伊藤成彦訳.傷ついた竜ー作曲家の人生と作品についての対話ー.未来社(1981) []
  2. 中薗英助.拉致ーKCIAと闘った大統領候補、護衛団ー.廣済堂文庫(1988) []
  3. 中薗薗英助.何日君再来.河出書房新社(1988) []
  4. 中薗英助.オリンポスの柱の蔭に,毎日新聞社(1985) []
  5. 中薗英助.鳥居龍蔵伝.岩波書店(1995) []

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