第237回 ユダヤ人とナチスと現在

`05.4月寄稿

室蘭工業大学で教鞭をとっていた坂西八郎先生が(ドイツ語)が、過ぐる2月に逝去された.私は先生には、3つの事で思い出がある。

1つは「野バラ」の本のこと。先生はゲーテの詩・野バラに、世界各国の作曲家達がつけた曲を蒐めたが、その手伝いをしたのである。大学図書館の参考係として、内外の大学や研究所で所蔵している楽譜を蒐める手伝いである。手始めは先ず、この詩に対する邦訳を蒐めることだった.野バラを最初に訳した日本人は近藤朔風で、私はこの人の出身校の後身である東京外国語大学に、何度も手紙を出したものだ。国立音楽大学にも大分お世話になった.結果として、90を超える(だったと思うが)楽譜が集ったのは、脇役ながら嬉しいことだった。

2つ目は、ナチ支配下の強制収容所で殺された子供達が遺した画を集めた「エッケ・ホモ」なる画集の参考文献を作ったことだ。 私は以前から、ナチスの文献を蒐めていたから、出版の打ち合わせで上京した先生から文献リストの作製をたのむ、と電話が来た時には、自分の家のナチス本の棚を想起しながら承諾したのだった。

3つ目は、先生の知り合いに、北大の大学院の女子学生がいて、この人がヒトラー暗殺(ヒトラーが殺すのではなくて、ヒトラーが殺される側)を調べていてドイツに行くのだが、渡独の前に、読んでいくべき本を最低5冊教えてやって呉れぬか、と言う頼みだった。

ヒトラーの暗殺事件と言うのは、ドイツ国内軍参謀長の肩書きを持つシュタウンベルグ大佐が、総統会議室への爆弾を仕掛けたものの失敗に終わった事件を指すのだが、頼まれた私は、丁度、道立美術館へ行く用事があったので、そこで彼女と会い、アレン・ダレスーあの悪名高いCIAの長官だった男ーの本を含む4・5冊と、その他のリストを渡した、いや貸したのだった。

細かいことは、もう忘却の彼方と言った所だが、渡独した彼女がウイーンだかで、電話帳から関係者の名前と同じものを見つけて、片端から掛けまくった結果、当時の市長がシュタウンベルク大佐のナントカで驚いた、との葉書が来た。そのあとは音沙汰なし,,,で、大分日が経って坂西さんに会った時、「あの件はどうなりましたか?」と聞かれたので、かくかくしかじか、で音沙汰なし、まで話したら、「今時の若いものは、そう言うことは本当にだらしない.私からも言っときましょう」と言って呉れたが、音沙汰なしは変化しなかった。まあ本が返って来ただけ良かった、と言うところか。

とここまで書いて来て、ウイーンの市長云々は、ひょっとしてシュトットガルトの市長・ロンメル(息子の方)のことだったかも知れぬ、と思いかえした。ロンメルと言えば「砂漠のキツネ」と呼ばれて、連合軍から恐れられたドイツの名将だ。まあその中、彼女からの葉書が出てくればわかることだろう。

さて、世の中には馬鹿と呼んで差し支えのなさそうな人間は結構いて、その一人は、あのダイアナ妃の.20歳になるヘンリーと言う息子だ.この王子(なんて呼ぶのももったいないが)、何トチ狂ったか、やるに事欠いて、仮想パーティーで、ナチスの制服を着て現れたと言うのだ。世のヒンシュクを買ったのは言うまでもない。

そこで父親のチャールズは、ヘンリーと、弟のふざけた振る舞いを止めようとしなかった兄のウイリアムとに、『アウシュビッツに行って、ホロコーストについて勉強してこい.1200人のユダヤ人を救った実話を元にした「シンドラーのリスト」も観てこい』とやった言う。当たり前の話だ。

馬鹿はイギリスの若造だけかと思ったら、フランスでは、ルペンなる男が、ナチスのガス室について、「それは第二次大戦史のささいな問題」と発言して、罰金刑をくらった。この男、フランスの極右政党「国民戦線」(FN)の党首だと言うから、さもありなんと言う発言だが、まあ馬鹿の見本みたいなもんだなあ。

その見本氏にいくらの罰金が課されたかは知らんが、フランスでは、ユダヤ人大量虐殺などを含めて「人道に対する罪の存在を否定する」と処罰される。これ、法律の提案者であるジャンクロード・ゲソーの名をとって「ゲソー法」と言う。最高一年の禁固と約600万円の罰金が、この法律によって科される。

ドイツとて同じで、「反ファジズム法」なるものがあり。カギ十字をつかったり、あのギプスをはめたように右手をピンと伸ばし、「ハイル・ヒトラー」と呼ぶ形の敬礼は禁止されている。なのに、ベルリンの北の森の中、常緑樹の中に、落葉樹のカラマツを植えてー60m四方の広さーで、そらからみたらカギ十字に見える植林をした馬鹿が出た。植林は大分前のことらしいが、環境のみならす思想の汚染とでも言うべきか。

ところで今年は、強制収容所・アウシュビッツが解放されてから60周年の節目の年だ.ヒトラーのナチスは,ユダヤ人600万人、ロマ人.同性愛者、共産主義者など数十万人を殺したとされているが、この歴史を受けてフランスのシラク大統領は,アウシュビッツの解放は、「歴史の最も暗い1ページを閉じたものだった」と評価した。馬鹿のルペンとは雲泥の差だ。

と言う訳で,ナチス関係の本を並べてみた。期せずして大澤武男の本が3冊も入ったが,つまり,大澤の本は,読む側にとって非常に明快だと言うことになろうか。殊に「ローマ教皇とナチス1 」は長年の疑問が氷解すると言うところがあった。

「ヒトラーとユダヤ人 2

「ユダヤ人とドイツ3

まあ,ユダヤ人は主キリストを密告し,殺したと言うことから,キリスト教徒の嫌う所となり...と言う理屈はこの際おくとして、それにしても「汝殺すなかれ」のキリスト教の最高責任者が,『何故ナチスに,ユダヤ人絶滅について抗議しなかったか,,,」

このことについては,劇作家R・ホーホフートの「神の代理人」なる素晴らしい戯曲が既にあるが,大澤のこの本読んで、本名「パチェリ」こと「ピウス12世」なるローマ教皇がーこの男は「ヒトラーの教皇」と呼ばれたがー根っからのドイツびいきで,ドイツ留学を心底楽しみ,偉くなってからも、身の囲りの世話をドイツ人の修道女にさせていたなどを知れば、ナンジャラホイと思いつつ、成る程な、と納得するのである。

「ナチスの国の過去と現在4 」望田の本からも.多くを教えられる。

ドイツの最高裁の判事はスクーターで出勤する由.日本は?って?、もちろん黒塗りの高級車!!。

市民に遠いのか、近いか?。この違いは大きいなあ!!


  1. 大澤武男.ローマ教皇とナチス.文春新書(2004) []
  2. 大澤武男.ヒトラーとユダヤ人.講談社現代新書(1995) []
  3. 大澤武男.ユダヤ人とドイツ.講談社現代新書(1991) []
  4. 望田幸男.ナチスの国の過去と現在.新日本出版社 (2004) []

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