第246回 吉備大臣入唐絵巻と桃太郎

`06.1月寄稿

昨年10月末「丸井今井ふくろう文庫・特別展」と銘打って、1週間開いた展示会に出品した絵巻物・画集の中で一番の人気は、「吉備大臣入唐絵巻(きびだいじんにっとうえまき)」と「平治物語絵巻・三條殿夜討巻へいじものがたりえまき・さんじょうでんやうちのまき )であった。前者は、本物同様に復元された限定880部の絵巻だから、これ全部述べ広げて観てもらうとことが出来たが、後者は、「ボストン美術館特別図録」のなかに復元されたものだから、つまりは本で、折りたたまれたその各ページを全部一度に開いて観せることは出来なかった。

前者も後者も共に、今日本にあれば、当然国宝に指定されていた筈の作品、と評価される逸物なのだが、吉備の方は1964年(昭39)東京オリンピック記念の特別展に出すために、日本に戻って来た。その時、京都の岡墨光堂(おかぼっこうどう)で補修されて、これからの保存と展示のために便ならしむる様にと、4巻に分けられた。

このあと、この絵巻は1983年(昭58)にもう一度里帰りをして展覧会に出された。この時作られた図録が「ふくろう文庫]にある訳で、この図録研究者・黒田日出男が「〜今の日本で私が見ることの出来る最高のものであり〜]と言う、善本なのである。

丸井7階の会場で、私が如上の説明をすると、聞いていた小母さんの1人が言うには、「〜惜しいことをしたねえ」「何が?」「だって直す時に、写した奴をアメリカに返して、直した方は日本に置いておけばよかったしょ。つまり、ばくっておけばよかったしょ。」と。成程、それもそうだなあ。そうすりゃ今日本に国宝が一点増えている訳で...と内心思わぬではなかったが、これ、いかにしても、キムタクの妻君とやら言う花王石鹸みたいな顔した女が言う「軽く、ヤバい」のではなかろうか。いくらブッシュのやることが好かんからと言って、これは出来んのう。因みに「ばくる]とは「取りかえる」の北海道方言であるぞ。

さて期間中、文短大の学生が15名程が観に来て、このあと11月に入ってから50名が図書館3Fの「ふくろう文庫」の部屋で、私の授業を受けた。私は「ふくろう文庫」のあらましや、絵巻の歴史やらをしゃべったあと、吉備からの連想で「桃太郎]の話もした。

桃太郎とくれば「きびだんご」だ。今は知らず、私が子供の頃は何と言っても、栗山(栗沢)の谷田の「きびだんご]だった。トランプを二まわり大きくしたような短冊型の「きびだんご」。ねっちゃら・くっちゃらと、すごい粘り具合の餅(?)で、あれ、差歯や入歯の人(私のことではない。念のため)なら、食うに苦労するのではなかろうか。

あれ、私の知る所では函館にもあって、片や北海道銘菓と名乗る「天狗堂宝船」社のもの。片や「名物]と名乗る国産製菓のもの。但し両者共上に「日本一」とついている。

ところで、本家岡山の「きびだんごは]は、上記とは違ってヤワヤワの「求肥]製で。『もち米+砂糖+あめ+黍』だ。そもそも、古代吉備地方は「黍」の産地だったから、「吉備国」と呼ばれるようになった、との説がある位で、住民は黍を常食してた。これを「きびだんご」にしたのは「広栄堂」の創始者たる武田浅次郎なる人物で、安政3年(1856)の事だと言うから大したもんだ。ナニシロ、この「きびだんご」を食べた明治天皇が明治19年に岡山で次の歌を残した言うのだから恐れ入る。

「日の本に(ひのもとに) ふたつとあらぬ吉備団子 むべ味わいに 名を得しや是」

さて又、桃太郎とくれば、犬・猿・雉だが、今噂の「八犬伝」の作者・滝沢馬琴は次の如し。「鬼が島は鬼門を表せり」で、この鬼門には字の如く鬼がウヨウヨいる。これを方角で言うと「艮(うしとら)の方角で、即ち東北=陰」。これに対する南西はと言うと、これが「申・酉・戌=陽」だ。じゃによって、陰たる鬼の退治には、陽たる猿・鳥・犬が加勢としていくのだと言う訳。もっとも、これには五行説からする反論もあって、当然のことながら一筋縄ではいかぬ。「桃太郎伝説の謎1

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因みに、登別温泉入り口の鬼が角を生やし、虎の皮のパンツをはいているのは「艮(うしとら)からの連想だ。その内に、虎の皮とは、環境破壊だ、動物保護の点からして、是からは「ユニクロ」のパンツでよしーなんてことに....なんてことは万、あり得まい。「桃太郎の運命2

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また、岡山地方には犬飼(軍用犬部隊)、鳥飼、猿飼い(猿回し)などの土豪が実在していたと言うから、話はおもしろい。

ところで、かくも有名な「桃太郎」だから、この名を持つ人は逆に少ないだろうな、と思っていたら、先頃、東町在住の○○桃太郎さんなる人が94歳で大往生との死亡広告で、私はびっくりした。私は名古屋在住の佐々木俊雄君の仲人をしたが、彼の嫁さんのお父さんが○○金太郎で、その時も、いるもんだなと感心したが、日本の代表的な昔話の主人公と同じ名の人間に、二度も出会えた、と言うのは、幸せなことかも知れぬ。

又ところで、「図書館シアター」なる毎月だ3土曜日1:30〜の催しにやってみたいものの一つに、「桃太郎・海の神兵」がある。題からして推測がつくように、海軍省の依頼で松竹動画(つまりアニメ)研究所が制作した、いわゆるプロパンダもの。

桃太郎ひきいる動物部隊が落下傘部隊で、鬼が島にいる白人海賊を襲うという筋。こう言うのもあったんだ、と言う意味で、「桃太郎」の歴史に加えたいと思っている所。

もう一つやってみたいのは、台湾で作られた新桃太郎。....超能力を持つ桃太郎が、お供を引き連れ“太陽の剣”をうばった赤鬼大魔王をこらしめる...てな筋で、ナント③まである。日本に統治されていた台湾の人達が、如何なる心情で日本を見ておるか....と言うようなことを含んでいるような映画とは思えぬけどね。

「新・桃太郎の誕生3

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大正13年、芥川竜之介が書いた桃太郎は、老夫婦から愛想づかしされた怠け者の、かつ暴れ者で、おそわれた鬼からすれば寝耳に水の、建国以来の恐怖の具現者だった。これが今、寺内孝之の画をつけて出た。私は発注したばかりだ。「岡山桃太郎4

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“冬来たりなば春遠からじ”桃の花の咲くのも、端午の節句も、もう直ぐだ。


  1. 山陽新聞社編.桃太郎伝説の謎. 山陽新聞社(1995) []
  2. 鳥越信.桃太郎の運命。NHKブックス(1983) []
  3. 野村純一.新・桃太郎の誕生。吉川弘文館(2000) []
  4. 市川俊介.岡山桃太郎。岡山リビング新聞社(1993) []

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