山下敏明さんのあんな本、こんな本

第253回 浮世絵展と「春画」

`06.11月寄稿

先日、来館した20代の女性に「浮世絵」を見せたら、きれいだ、素敵だと、感歎の台詞を口にしていたが、やや暫くして「えーっ、これ、ひょっとすると版画ですか?」と言う.版画でないとしたら何だと思ってみていたんだろう?てな、意地悪な質問を私はしなかったが、反射的に似たような出来事を思い出した。出来事と言っても、我が身に起きたことではなくて...現在,浮世絵関係の美術館に勤めている女性の学芸員が、自分が書いた浮世絵の本に告白(と言う程のものではないか?)している話...その女性は友人に誘われて,原宿の太田記念美術館ーここは浮世絵専門館ーに行って、その時まで全く関心がなかった浮世絵(本物)を見て、びっくりしたと言う。

北斎の「富嶽三十六景」の「神奈川沖浪裏」に先ず驚き....と、その結果の感想が、一緒に見ていた友人に向かって叫んだ言葉「これ全部版画なんだって!」。と言う訳で、そう「浮世絵」は総じて版画だと言ってよろしい。但し,版画は複製品であるからして、こうなると人間には2タイプあって①皆が持っているなら,私ももっていたい。②皆がもっているようなものはいらない.私だけが持っていると言うものがいい...と大体こうなる。

で、タイプ②の人はどうするかと言うと,私だけが...が条件であるから,浮世絵の絵師にその旨を伝える訳で、そこで出来上がるのが「肉筆画」なるもの...で、これまさに一点物と言うことになる。

先日読んでいた本にこれを「肉質画」と書いてあるのがあったが、そんな生々しいものがあろう筈もなく、これは誤植。肉筆画は,初期から末期まで、殆どの浮世絵師が描いたから、これはこれで、「肉筆画」として一分野足り得る訳。「浮世絵春画を読む1

ところで10月25日(水)から10月30日(月)迄、第2回丸井支援「ふくろう文庫特別展ー浮世絵特集ー」を開催した。丸井の中本さんが来て、昨年の日取りでやってくれと頼まれて決まった。浮世絵と決めたところから、色々な計画が頭の中に浮かんでは消え...と、やっていたのだが、とかくするうち、色々と分かって来たことがある。それは何か、の2.3点を次に記すのだが...

その第①が、前記したごとく「えっ、浮世絵って版画なの?」と言うもので、これで分かるのは、日本人が生んだ最大の芸術の一つたる浮世絵について、等の日本人は、案外知っていないのじゃなかろうか...と言うもの。

「浮世絵展」と聞いて、「そりゃいい。ありがたい機会だ」と言ってくれたM紙のT記者みたいな人もいるにはいるが、これは少数で、大方は「浮世絵?そんなもん。どこへ行っても見れるじゃん」なのであって、これが大いなる誤解の第一歩。

だって国内にある浮世絵のおおよそ3倍から4倍位が外国にあって、つまりこれ「在外」。くどいようだが、ひっくり返して言うと、外国にある浮世絵の1/4程度しか日本国内にはないのだと言うこと。

結果そんじょそこらで浮世絵は見ることが出来ぬのです.その結果どうなるか?。貴方、ここでちょっくら立ち止まって、落ち着いて考えてごらんなさい。「今迄、ちゃんとした浮世絵をみたことがあるかどうか」と。そう言われると、ホラ案外ないでしょう。見たつもりがお茶漬けの付録カード位だった...と言うことになりませんか、そして又その結果...もしくはフリカケをちゃんと見たことがないから、「浮世絵って版画なの]的な人が多いのです。

分かったこと②絢爛たる色刷りの浮世絵、これを多色刷り又は錦絵(錦織のようにきれいなので)と言うが、これは,10色あったら10回、色を重ねて刷って行くのであって、例えば、先に上げた北斎の「神奈川沖浪裏」、あのさかまく怒濤に翻弄される船、波のはるか向こうにちょこんと見える富士山...の図は、摺の順序を図解した本を見ると、少なくとも完成までに15回摺っている。もちろんこれ全て手作業...と知って、欧米人はブッタマゲーションであったのだが。この何回も摺ってと言うところが理解されておらんようです...と言うのが、色んな人との話のやりとりでよく分かった。

ついで分かったことの第③は、「大きな錯覚」或は「認識不足」と言うべきもので....それは何かと言うと、「浮世絵=春画」だと思っている人がいると言うこと。しかも.結構多くの人が。文化関係のおエライさんの1人が、「浮世絵」と聞いて眉をひそめ、吐き捨てるように曰く「あー春画ね!」と、これには驚いた。この程度の認識....私はゲンナリしたが、気を取り直し、ここで断固として行っておきますが、「春画」は浮世絵の一分野であるけれども、「浮世絵]イコール「春画」ではない。ついでに言っておくと「春画」イコール「あぶな絵」でもない。「春画」は字の如く、ズバリの場面を描くもの。「あぶな絵」はこれ又字の通り、見てあぶない気持ちになるもの。何?「あぶない気持ち」って何だって?。これは例えば雲に乗って飛んでいた久米の仙人が、地上で洗濯(だったか)をしている白い「もも」だったか「すね」だったかをチラリと出している女をみて、フラッフラッ=あぶない気持ちになって、雲から落ちたと言う話を思い出せば、それが答え。「春画2」 「江戸の春画3

先年ロンドンの大英博物館で、「歌麿」展が開かれた時、ポスターにも図録の表紙にも「春画」が使われた由で、日本関係者がうらやましがったとか、がらなかったとか!!

ところが過ぐる6月、熊本市現代美術館で開かれた「生人形と江戸の欲望]展では、「18歳未満おことわり」の張り紙が

貼られ、入り口に学芸員が一人座っている部屋があって、入ると「春画」がに入れられ、しかも肝心のに、黒いフェルト片が置かれていた由。彼(英国)我(熊本)の何たる差。この時のパンフレットには、このコーナーを指すと思われる『そして、此処ではいえない、ワン・モア・サプライズ!」の文句があったが、これでは何がサプライズ!!やらと言う訳で、ここ4点の本を出したが、いずれも朝日新聞他で褒められたり〜した本ばかり。真面目に読んでくれたまえ。「春画のなかの子供たち4

ドビュッシーは北斎の「神奈川沖浪裏」で霊感を受けて、名曲「海]を作った。これをピアノ曲に編曲したものを丸井の展覧会中毎日弾いてもらった。奏者は美貌のピアニスト「酒井由美子」さん。







  1. 白倉敬彦田中優子他.浮世絵春画を読む.中央公論新社 (2000) []
  2. タイモン・スクリーチ.春画.講談社(1998) []
  3. 白倉敬彦.江戸の春画.洋泉社(2002) []
  4. 早川聞多.春画のなかの子供たち.河出書房新社(2004) []

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