第284回 文学とカステラと抵抗

最近の映画2本に刺激されて本4冊上げる。先ず山田洋次監督+吉永小百合主演の「母べい」を観た。私は最近の小百合には、何だか優等生的色彩が強くなり過ぎて、あまり好きではない感じでいるのだが、まあこれは黙ってみた。

一カ所話につまされる所がある。それは、獄中の夫から、先生の所に行ってドイツ語の本を借りて来てくれとの手紙が来て、「母べい」は幼い娘を連れて、夫の恩師たる、鈴木瑞穂扮する大学教授の所へ行く。そこでの問答が小百合の母べいには予想もせぬもので、この恩師は自分の教え子のしたことを、つまり、思想犯とることを「佳し」とせぬ。恩師の理屈はこうだ。「悪法と言えども法はは法、それを破った方が悪い」と言うもの。この場で言う悪法とは「治安維持法」で、悪法の最たるものと言えるものだが、とにかく恩師はそう言う。

「悪法は悪法でも、法であること間違いないから、その方に従う」てなことをのたもうて、毒杯をあおったのは御存知ソクラテスであったが、「母べい」でのこの場面には実は、実在のモデルと、同じ出来事があって、それを、この映画が出来たあとで、山田洋次と原作者が対談(岩波「世界」)で語っていたのを覚えている。恩師たる人間は確か哲学者田辺元、教え子の方はこれ又哲学者の久野収で、この両者の間の出来事な筈だ。

私が話につまされて涙が出そうにになったのは、この場で教授の妻君が、カステラを出す。飢えている娘はこれを食べたい。しかしながら、師たる者から思わぬ言葉で我が夫を侮辱された「母べい」は、決然として娘を連れてその場を立つ。カステラはどうなったか?、不穏な空気を察した教授の妻君は、カステラを包んで母娘のあとを追い玄関先で娘に手渡すのだが、、、。

ところで我が人生でカステラを始めて食べたのは何時か?これが全く記憶がない。第二次大戦後、小学3年生の頃、甘味に飢えた我々は何を食べたか。父親が市立病院の薬局長(?)だった石田が皆に持って来た「ザラメ」は記憶にある。あと干しバナナ、干しりんご・・・まあそれはともかくとして、ここに珍しいと私が思う「カステラ〕2冊をあげる。①1

「カステラ」と言えば長崎、その長崎でのカステラの元祖は「福砂屋」で、この屋号は、この店が砂糖を商っていたからではないか?、と言うのも、当時の砂糖は、大方、中国・福州が産地であったからそれをもたらす福州船に因んで付けたのではないか・・・との由。この福砂屋の創業は寛永元年(1624)で、「殿村某、ポルトガル人より本品製法を伝授され・・・」と記録にある由。カステラの名の元は元スペインの「ビスコッチョ」で、と言った話になると、本一冊分になるから①を読んでもらうことにして、福砂屋から遅れること57年、元和元年(1681)創業の「松翁軒」が出した味のある一冊② 2   これ、長崎新聞に連載されたカステラ談義(本来は広告を兼ねたもの)を集めたもの。明治・大正から昭和にかけての文学作品にあらわれたカステラのエピソードを書きつらねたもの。

一読泣ける話がワンサとつまっている。例えば食通でなった、かの池波正太郎の数ある「食」の本に、カステラは全く登場しない由・・・何故とならば、父母離婚のために、小学校卒でいきなり株屋に奉公した正太郎少年の好物「どんどん焼き」(お好み焼きのことらしい)が2銭の時代に、カステラは一斤80銭であって、これでは文字通り「高値の花」だ。この面白い本に気付いた私に協力して、そちこちにTEL氏て入手可能としてくれたのは、「探書道」の「妙手」墨谷真澄さんだ。

ところで、2.3年前に亡くなった室工大のドイツ語教師の坂西先生が出した「野バラ」と「エッケ・ホモ」の2冊に私は文献の点で協力した。前者は、ゲーテの詩「野バラ」に曲を付けた人達の研究。後者は、ポーランドの「絶滅収容所」に閉じ込められた子供たちが描いた画集で、私は前者について世界各国の文献集めを、後者では参考文献表をつくったのだった。その坂西先生から,或る時、ドイツ語を勉強している女子大院生がいて、「ヒトラー暗殺」を調べにドイツに行くのだが、その前に「何を読むべきか〕その相談にのってくれとのTELが来て、私はその女子大生に会った。私はその時、必読5冊を示したが、その中にはアレン・ダレスの本も一冊あった。意外に思われるか知らぬが、あのダレスは実はスパイの大親玉なのであって、彼の諜報に関する本はその分野での名著(?)なのだった。その女子大生はそのあとドイツに行って、ハガキを寄越したが、その内容は驚くべきもので、シュトットガルツ(だったか)で片っ端から、ヒトラー暗殺の主役たる人物と同じ名の人へ電話を掛けまくった所、その中の一人が市長で、ナンとその主役たる人物の直系だった、と言う話なのだった。

さて、その主役と言うのは、名門貴族出身のシュタウヘンベルク大佐で、この男はヒトラーへの批判者であって・・・しかし皮肉なことにアフリカ戦線で右手・左目・左手指の2本を失う・・・ヒトラー暗殺と死後の新生ドイツの夢を抱いて、クーデターを起こす。このシュタウヘンベルク大佐に扮したのが、トム・クルーズで、その映画は目下「室劇」で上映中の「ワルキューレ作戦」だ。

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因みに「ワルキューレ作戦」とは、ヒトラーが自己の身を守るために作った危機監理システムの名。この映画を作るとき、トムクルーズが何やらオカルト的な宗教団体に属していることが判明して、ドイツ当局が作製への協力を拒んだとかのニュースが流れたが、無事できた訳だ。

最近「戦争ゴッコ」をしたがる連中が増えている気がするが、とんでもない話だ。一旦「悪」の台頭を許してしまうとその排除にどれだけの犠牲を払わねばならぬか・・・を考えたいものだて。  ④    4


  1. 平凡社・カステラ文化誌全書・平凡社(1995) []
  2. 明坂英二+下谷二助・カステラ文学館これくしょん・松翁軒・(    []
  3. 山下公子・ヒトラー暗殺計画と抵抗運動・講談社・(    ) []
  4. ハンス・ロートフェルス・第三帝国への抵抗・弘文堂・(1963) []

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