第291回 金印(漢倭奴国王)の真贋 他ハンコの本

`09.12寄稿

室蘭民報(10月21日)に「金印・発見者特定に一歩?」なる見出しの横に、「甚兵衛の実像へ”新説“に注目」なる記事が出た。あとでSさんにこの記事のことを告げると、Sさんはチラッと見たけど読まなかったとて、「弁当の甚兵衛の事かと思った」とふざけて言って、「まさか!!」と二人して笑ったが、弁当の方はともかく、私自身は別の意味で「まさか!!」と思ったのだった。

その辺を詳しく述べると、先ずこれを読む人に、昔、日本歴史で学んだ「漢倭奴国王」(かんのわのなのこくおう)なる金印のことを思い出してもらわねばならぬ。これは国宝で、目下福岡市の博物館にある。どういうものかと言うと、「金印」とは文字通り黄金で作ったで、建武中元2年(57年)と言う大昔に,光武帝が下賜した「印綬」(いんじゅだ。光武帝は後漢の始祖で,もちろん中国人の人。それが西暦57年に倭(わ=日本)の国王に下したまわったハンコがこれだ。そして、そんな貴重なものを見つけたのが,弁当屋ならざる百姓の甚兵衛でその場所は福岡市の志賀島(しかしま)だ。

この人物はこのお宝を見つけた次第を「百姓甚兵衛口上書」なる公文書に遺している。ところが、この甚兵衛の名が,寺の過去帳にはないので、ひょっとしてひょっと実在の人物ではないのではないかとの説もある.それが,先記の室蘭民報の記事によると、この甚兵衛の身元がわかったと言う.発見者は二松学舎大学の名誉教授で歴史学者の大谷光男氏(82歳).この人は1974年「研究史・金印1 」を吉川弘文館から,1994年には編者となって,「金印研究論文集成2 」を新人物往来社から出した御仁(おひと).夢まちがっても怪しげな人物ではない。


そして、この大谷の新説とは,,,,先記の口上書には,甚兵衛は「抱田地(かかえでんち)叶の崎」で金印を発見したと言っている。そしてこの「抱田地」なるものは従来、単に「所有する農地」と解釈されて来たが,実は遠隔地から所有する・管理する農地のことではないか?

とすると、甚兵衛は発見現場の志賀島南部ではなくて,同島の西部や山部の集落に住んでいた可能性もある,,,故に,発見者は甚兵衛その人ではなく、実は甚兵衛の小作人だったのだが,文書には地主の名が記され、つまりは遠隔地に居住の甚兵衛だからとて、地元の寺の過去帳には載っておらぬのだ云々。

この説については,地元「志賀島歴史研究会」の岡本顕実理事長は「甚兵衛の実像や金印が志賀島にあった理由など、多くの謎の解明につながるだろう」と期待している...云々。

果たしてそうか?、私は全然そうは思わんね。ここのところが,私が記事を読んだ途端に「まさか!!」と思ったところで....どうしてかと言うと,私は3年前に三浦佑之の『金印偽造事件ー漢倭奴国王のまぼろしー』を読んでいたからだ。

私の本棚には,既に三浦が第1回角川財団学芸賞を受賞した「口語訳古事記完全版3 」や「浦島太郎の文学史4 」などの彼の著書が数冊あって,と言うことは,三浦は私が信頼する学者なのだが、その三浦が「金印」は偽造だとして,種々論を張っていて、私はいかなる大家の老学者にしても、この三浦の偽造の論拠をつき崩すことは難しかろうと思う訳。


「金印偽造事件5


三浦は,過去に何回かあった金印の真贋論争に触れつつ、自己の論を展開し、最後には、この国宝を偽造した人間を特定し、その人物が何故偽造に踏み切ったのかの理由を明らかにする。

それが誰で、その理由は何かをここで明らかにするのは、推理小説の犯人を先に明かすのに同じだから、私はただ、どうぞ三浦の本を読んで下され!とだけいっておく。

只言っておきたいのは、この本、面白くて面白くて、とてものこと途中で止められぬ。途中で止められぬのはカッパエビセンだけではござらぬよ。

と言うような話を、甚兵衛の文字だけ見て弁当屋の話か?と思い違いをしたSさんに話したら「面白い。もっと聞かせて、他のハンコの話も」と言うので、今回はハンコの本を4冊

ところで、見ようによっては、今時のタレントのサインよりもはるかに下手(なのか?)に見える、武士や公家やらが残した「花押(かおう)」なるものがある。「花押」とは「花のようにきれいに書いてある署名」なる意(とてものことそう見えぬが)だが、あの書き方には五種あって、1つは上の字の扁(へん)と下の字の旁(つくり)を合わせてこれを左右に並べる.私の場合だと【毎】と【月】を並べる訳だ。understand?

ところでもう一つ、『丸井』の「ふくろう文庫展」に黄庭堅の「松風閣詩」書巻を出したら、これにベタベタ押してあるハンコは何だ?と質問があった。これは皇帝他の高官が「我は感歎したぞよ」とて押すもの。

だからとて、貴方や私の如き下賤の者がこれをまねて、むさくるしき認印だの実印だのを押したんでは、「文化財破壊」とて「御用」となるから、うかつなことはやるまいて!!為念!!

「印判の歴史6 」   「ハンコロジー事始め7

「はんこと日本人8

  1. 大谷光男.研究史・金印.吉川弘文館(1974) []
  2. 大谷光男編.金印研究論文集成.新人物往来(1994) []
  3. 三浦佑之.口語訳古事記完全版.文芸春秋(2002) []
  4. 三浦佑之.浦島太郎の文学史.五柳書院 (1989) []
  5. 三浦佑之.金印偽造事件.幻冬舎(2006) []
  6. 石井良助.印判の歴史.明石書店(1991) []
  7. 新関欽哉.ハンコロジー事始め.日本放送出版協会(1991) []
  8. 門田誠一.はんこと日本人.大巧社(1997) []

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