第294回 道立美術館シャガール展

`10.3月寄稿

「ふくろう文庫ワンコイン美術講座」なるものを続けて来て、先日第15回目を終えた。昨年9月頃には「松前の応挙」と言われる「蠣崎波響(かきざきはきょう)」を取り上げたので、それを記念に「波響」の作品をみるべく函館は船見町の「高竜寺」へ出かけようと計画したが、所蔵する波響の作品は、四月でなければ公開しないとのことなので、「では、それ迄」と延ばすことにして、今回は講義したばかりの「山下りん」の作品を見ようと、バスを仕立てて34人で出かけた。誦経者・菅原武昭さんの案内で「リん」の作品を観たあとは、同氏の聖歌と祈りの言葉を聞かせてもらい、一同大満足で、次なる予定の道立美術館へ向かった。りんの話はいずれ。

特別展「土+炎=?」展、常設展「シャガールとパスキン」。「土+炎」は近・現代の作家達(無題と言うのが多かったが)のものより「ハニワ」の方が断然良かった、だけで片づけて今回はシャガールをテーマとしよう。

入って直ぐにあったのは、ニコライ・ゴーゴリの小説「死せる魂」の挿絵。シャガールはゴーゴリとブロークを愛読した人だ。次はギリシャのロンゴス作「ダフニスとクロエ」の挿絵、これ全42枚ものだが、道立美術館が何枚持っているか知らぬ。只これ、1989年10月に東京西部百貨店で開かれた、日本初のサザンビースのオークションで、ナント予想額の2倍の7,260万円で落札されたもの(落札者は知らぬ)。へえ、これがそうかと感じ入りながら次に進むと「ヤヤヤ、これはこれは!!」と言う感じで現れてくるのが約100号の大作、油絵「パリの空に花』1967年作。青空の中男女のカップルが抱き合って舞っている。「出会い1 」「シャガールと旧約聖書2 」       

この空飛ぶ人間、ナンデモ、シャガール一家が信仰していた奇跡を重視する神秘的ユダヤ教たる「ハシディズム」の信仰から出るもので、地上から遊離していることを表すのではなくて、神聖な存在(天空)への接近を意味するのだそうな。

それが当っているかどうかは別として、この大作、道立美術館が実に、3億4,760万円と言う値段で入手したもの。1996(平成6年)1月のことだ。

この値段は道の美術品購入額では最高で、私の知るところでは、以後、これ以上の値のものを買ったという景気のいい話は聞いたことがないから、未だにこれが一番の値のはった作品と言ってよいのではなかろうか。

お金のことばかり言っちゃ品がないと言われるかも知れぬ(私自身はそう思わぬ)が、この常設展、65歳以上は只、そう無料!!なのだ。たった2点で4億を超す作品を無料で観ることが出来るとは、何たる幸せだろう。年は取るもんだと、つくづく思う。「シャガールとの日々3

お金と言えば、シャガールは1985年3月27日、フランスはサンポール・ド・バンスなる地で、97歳の生を終えた。老衰だった。シャガールは元々、ロシアに生まれたユダヤ人だが、1937年にフランスに帰化しているので、フランス国家がシャガールの遺族に課した相続税は、おおよそ100億フラン(当時の邦貨で2,300億円超)余りの高額で、遺族は支払い困難とて「物納」と話がついて、1903年から1981年迄の作品464点が政府に収められた。

これ、オークションに出せば400億フラン(約9,200億円)になる筈のものだとか。この内訳は、油絵46点、ガッシュ(アラビアゴムなどの膠着剤(こうちゃくざい)で練った不透明な水彩絵の具)151点、デッサン229点ーだと。

このシャガール、スターリンのソ連では「イスラエルの議会に絵を描いた奴」「究極のシオニスト=ユダや民族主義者だ」「幻想的で不条理な作品を描く奴」と相手にされなかった。

まともなシャガール展がソ連で開かれたのは、ソ連が例のグラスノスチ=情報公開政策を取ってからで、1987年、シャガール誕生100年を記念してのもので、モスクワはプーシキン美術館でのことだった。

ソ連がシャガールを否定したとは言っても、シャガール本人は最初から革命に反対していた訳ではない。その証拠に1917年の革命後、彼は故郷ヴィテブスクで美術学校を創り、校長として革命祝祭日の衣装を担当し、ソ連中から画家や詩人、おまけにサラサーテや、ハイフェッツエなどの音楽家まで集め、交響楽団まで作ったと言う話だ。この職、批評家・ルナチャルスキーの推挙だったと言う。

ユダヤ人たるシャガールの家は貧しかったらしい。貧乏人の子沢山でシャガールを頭に8人子供がいると言うのに、父親はニシン倉庫で働く人夫だったと言うからさもありなん。とは言うものの、シャガールの自伝も気をつけて読まねばならぬらしい。一例をあげるなら、最初のパリへの留学でも、本人は貧しさを強調するけれど、その実はユダや人の帝国議会議員のヴィナヴェールに学資を出してもらったと言うからね。

「夢のかげに4」この本については、拙著「本の話5 」の第177話も読まれたし.

ところで、シャガールの恋人達はどれも詩情あふれるロマンチックなものだが、シャガールが言うには、非常に裕福な宝石商である妻ベラの両親は貧しいシャガールに満足せず、為に、シャガールとベラは心情的に実に苦しかったそうで、となると、つまり、幸せなカップルの図はシャガール自身の夢の一種なのだーと私は思う。

最後になるが、道立美術館で、シャガールの解説をしてくれた人に感謝。非常にいい解説だった。



  1. ベラ・シャガール池田香世子訳.出会い.都市出版社(1972) []
  2. H・ロータムント.シャガールと旧約聖書.図書新聞; 新版版 (2008) []
  3. バージニア・ハガード.シャガールとの日々。西村書店(1990) []
  4. 中山省三郎.夢のかげに.創元社(1953) []
  5. 山下敏明.本の話。室蘭民報社刊(2004) []

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