第306回 グルジアの画家「ピロスマニ」

2011.2月寄稿

中学生の時に読んで、感銘した「幼年時代」はトルストイの処女作で、コーカサス砲兵旅団の士官候補生としての勤務のかたわらに書き上げたものだった。ここで、コーカサスと言うのは、グルジアなどを含む黒海と、カスピ海とに挟まれた地域を指す。「カフカス」の英語読みだ。因みに、この「カフカス』とは、古代ギリシャ語で「氷で輝いている」との意味で、なにしろカフカス山脈の最高峰エルブルース山は5,642mで、この山には氷河があるから、至極もっともな名とうなずける。

大相撲に「黒海」てのがいるが、これは彼がグルジア出身で、グルジアが黒海に面している所から来た四股名(しこ)だ。黒海という変わった名も、トルコ語のカラ・デニーズ(黒海)を訳したもので、ロシア語でも、この海をチェルノ・モール(黒い海)と言う。序に言うと、俗称「裏海(うらうみ)」のカスピ海の名の由来は、ここに先住していたのが、「カスピ族」だたからだ。さて、ふくろう文庫ワンコイン講座」の第21回目(3月26日)として、グルジアの放浪画家「ピロスマニ」を取上げる。「グルジア」なる名は、家畜と番犬の守護聖人たる「Seint George=聖ジョージ」のロシア語読みだ。この人、4世紀に殉教した。

世界の長寿国として知られるグルジアの名産は御存知ワインだ。私はかってロシア、いやソ連の国営(だろう)売店「白樺」を通して、グリジアのワインの全銘柄を順次取り寄せて吞んでみたことがあるが、一番うまいと思ったのは,赤ワインの「サペラヴィ」だった。辛口だ。因みに、グルジア人は「乾杯」する時に、「ガンバルジョ」と言う由。意味は正しく「頑張ろう」だと言うから明瞭この上ない。「ピロスマニ」の本名は、物の本によると「ニコライ・アスラノヴィチピロスマナシヴィリ」略して「ニコ・ピロスマニ」。グルジアの人は人の名の最後に皆このシヴィリ(シビリ)が付くようで、かの世紀の悪党スターリンの本名は、「イオシフ・ヴィサリオのヴィッチ・シュガシヴィリ」だ。この悪魔的人物、ゴリの靴屋の息子で、元グルジア正教の神学校の生徒だ。この殺人者、キリスト教から何を学んだのやら?

そう言えば、2003年に「バラの革命」なる政権交代で、親米政権の主となった大統領の名も「サーカシビリ」だった。しかし、シヴィリ、シヴィリと書いていると、読者も、本題はまだかヤ?としびれを切らすだろうから。「ピロスマニ」に戻るとして、私がこの画家の作品(実物)を目にしたのは1986年のことだった。池袋の西部武術館で(5/17-6/30)初の展覧会があったのだ。参考までにその時の入場券を出しておく。

50枚出された絵の中かで、とりわけ一目を引いたのは図録No23の「女優マルガリータ」(117cm×94cm)。この絵、普段はグルジアの首都トビリシの国立美術館にある。この美術館は、元神学校で、先述のスターリンが神学生としていた場所。

さて、この「女優マルガリータ」が世上有名なのは、その出来事もさることながら、この女優がかの「百万本のバラ」なる歌と関係があると見做されているからで・・・と言うのは、加藤登紀子が訳し(?)歌うところの「小さな家とキャンパス、他には何もない貧しい絵かきが、女優に恋をした」なる歌詞の「貧しい絵かき」とは「ニコ・ピロスマニ」で、「恋した女優」は、即ち「マルガリータ」だと言う俗説(?)があるからだ。

私は加藤より早く、ソ連の歌姫アー・プガチョワのレコードで聴いていた。今回、そのレコードを載せようと思ったが、CDの世になって以来400枚余ももっているレコD−は全部棚の奥の奥にしまい込んで出し様がない。残念!!。ついでに言うと、私がその頃使っていたレコード・プレーヤーは竪型(つまりレコードを置く場所が竪になったもの)だった。レコードはともかく、この話し、つまり恋愛譚は本当か、つくりばなしか?。

かって「朝日」が報じたところによると、1969年、パリの装飾美術館で「ピロスマニ」の西欧世界へのデビュー展たるこの展覧会の会場に、マルガリータ本人が3日間通い続けて、絵の前で涙を流していたと言うのだ???。何だか時々世にある「おさがわせ綺談」のような気がせぬでもないが、真偽の程は分からぬ。只今分かっていることは、この歌の元歌の歌詞はピロスマニには全く関係なくて、原題を「マーラが与えた人生」なるリオン・ブリディエスによるものだ。それは...「子供の頃泣かされると/母に寄り添って/なぐさめてもらった/そんなとき母は笑みをうかべてささやいた。マーラは娘に生を与えたけれど、幸せはあげ忘れた」云々で...で、もともとはラトヴィア歌手アイヤ・ククレが歌ったものの由。

これをこれを収めたのが、室蘭でも歌ったラトヴィアのスクリデ三姉妹によるCDだ

このCDは1998年、川上管内の東川町ラトビア音楽交流協会の製造・販売による物で、同町の米屋山が扱ったものを室蘭の平和運動のガンバリ手の増岡さんが取り寄せてくれたもの。ついでに私の好きな「百万本のバラ」をもう一枚出しておく。

「音の印象派」と呼ばれるピアニスト、フランスのピエール・ポルトによるもの。聞くだに身にしみて切ない。

と言う訳で、美術講座では、如上の事柄をも含めて、ピロスマニの諸々を話すつもり。会場の「ぷらっと・てついち」では、このCD2枚を変わり変わりジャンジャンかけておきます。その歌をたよりにご来場の程を。ポスターの女人が即ち「女優マルガリータ」です。因みに「赤いバラ」はグルジアでは「愛」のシンボルの由。

大事なことを一つ忘れるとこだった。2003年作韓国のキム・ユジン監督、チェン・ジュヨン主演の刑事物「ワイルド・カード」を是非御覧あれ。2人組の刑事の片割が、張り込み中、追走中、と、いつでも「百万本のバラ」が好きでたまらず、ガナリ続ける。これ傑作。相棒がボヤイテ「百万回聴くつもりか?」と。


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