山下敏明さんのあんな本、こんな本

第323回函館相馬哲平.市浦村の偽書.ニホンカワウソ.etc

2012.9月.3日寄稿

フランスはプザンソンの美術館が所蔵する蠣崎波響(かきざきはきょう)の「夷酋列像(いしゅうれつぞう)」里帰り展が函館であるというので行って来た。波響は松前藩の家老にして画家。列像はアイヌの古老12人の肖像画。観て満足した私は次に、旧相馬邸に行った。相馬徹平がかつて住んだ家だ。哲平は、幕末に越後から函館に来て,函館戦争で巨利を得た。戦争が始まると同時に,清酒を買い占め、これを前線に運び、政府軍・榎本軍の両者に,敵味方なく売った。双方に武器を売るのが「死の商人」だが、この哲平の行為は何と呼べばいいのか,名称はともかく,この酒のため軍規が乱れたので,榎本軍は哲平を捕らえ、「百叩き」の刑に処したが,哲平はこれに屈せず,大金持ちとなり,北海道最初の貴族院議員にまで登りつめた。しかし哲平は金の亡者ではなくて,公民官、市立図書館等の設置に,私財を投げ打って止まらなかった。

この哲平の家が荒廃の極みに達したが,市ではこれを潰して駐車場にしたいーと言ったーとか言う話しがあるが,今、実業家の東出伸司の出資によって、よみがえって公開されている。ここに今回波響の描いた「廉塾図(れんじゅくず)」が蔵された...とのニュースがあって私はそれを観に行ったのだ。「廉塾」とは,文化・文政の頃、日本屈指の詩人として名高い菅茶山(かんちゃざん)の開いた私塾で,別名を「黄葉夕陽村舎(こうようせきようそんじゃ)」と言い今も広島県の神辺にある。以上のことは一応ここでおいて、

私を案内してくれた一老婦人の解説は、新説と言うか珍説と言うか、まあ私にとっては初耳のことが、2.3にとどまらなかった。その一つを書くと、老婦人曰く「ぎんぎんぎらぎら」の歌は、この『廉塾』がモデルです」と。「ぎんぎんぎらぎら〜」は「夕日が沈む」と続くが、歌の題名は簡潔に「夕日」だ....よって、と言う訳だが、これが私には初耳だ。「夕日」は、1921年雑誌「白鳩」10月号に発表された。作者は東京高等師範=東京教育大=筑波大学出の「葛原しげる」「しげる」は神辺出身だ。聞いてて私がとっさに思ったことは、「神辺」で、誰かが「茶山」と「しげる」とを結びつけたのだーと言うこと。あとは何の共通点もない。「うたの本1 」には「茶山」の一行もなく、「茶山」の本には「しげる」の一行もない。神辺には「紅葉山」があって、茶山の「黄葉」はこれに由来する。そして、「黄葉夕陽」の四文字何やら物寂びた趣があって、「ぎんぎら」と言うのとはニュアンスが違うと私には思われる。という訳で「夕日」は「村舎」をモデルとするこの説の当否、誰ぞ私に教えて下され!!

かつて、小泉八雲を訪ねて松江に一泊した翌日、汽車に乗ると、宍道湖辺の駅のホームには、びっしりと「シジミ」が詰まった網袋が沢山出荷を待っていて、中々の風情だった。かくして島根県のシジミ漁獲量は全国一位だったが、過ぐる8月の、農林水産省の統計発表によると、宍道湖ではッ資源が枯渇したため漁獲量が激減し、青森がトップに来そうな。

それで思い出したのが「十三湖」を訪ねた時の「シジミ汁」。イヤという程、出されて、いやと言う程、吞んだ(食べた)。

「十三湖』とは、日本海側・津軽半島北西部の「市浦(しうら)」にある、岩木川河口の汽水湖(半塩湖)で、湖週20km、最大水深3m、中世には「とさ」、近世以降は「じゅうさん」と呼ぶ。何でも津軽氏三代藩主の土佐の守信義に遠慮しての変化なそうな。この湖口の十三溱(とさみなと)は、日本七港の一つ、北国第一、江戸時代は米・木材の積出港として栄えた。この湖の名産が「シジミ」で先述の通り。この「十三湖」の所在地の市浦村はかつて「村史」を出すにあたって大失敗をやらかした。天下の偽書「東日流外三郡誌(つがるそとさんぐんし)」の記述を正式なものとして、「村史」の一部に引用したのだ。無論、これはだました方が悪い。

「市浦その史跡を訪ねて(( 葛西安十朗.市浦その史跡を訪ねて.西北刊行会(1985))) 」

この書、古代東北に神武天皇に対立する王国が営まれていたとするもので、その王国を築いたのは、神武に追われた長髄彦(ながすねひこ)とその兄の安日彦(あびひこ)....で、天皇家中心の日本歴史を書き換える東日本中心史書。五所川原在住の和田喜八朗の家の天井裏から出たものと称されたが、これが真っ赤な偽書だった。かつて私も「本の話」でこの偽書を取り上げたが、詳しくは齊藤光政の「偽書”東日流外三郡誌”事件』(人物往来社刊)参照のこと。津軽の豪族、安東(安藤)家に突いてのインチキ歴史の面白さ、シジミ汁を飲みながら、しみじみ味わられよ!!。あっそうだ、しみじみで思い出した。十三湖辺りを舞台にした映画「津軽じょんがら節」を観るべし。江波杏子主演、齊藤真一の「ごぜ」の絵と絡まって、観ているのが辛い位だが、しみじみ切ない映画だ。BGMはもちろん「竹山」と「軍八朗」

「ホルシチロンヌプ」なる語は釧路地方のアイヌの方言だ。意味は「水中にどっさりいるケモノ」。このケモノは実は「イタチ科のニホンカワウソ」。昔は北海道から九州まで川、沼、池に沢山いた、と言うもの。昭和元年以来、本道では未確認とされていたのが、平成元年の6月下旬、神居古潭辺で発見か?なんぞとの新聞記事があるところを見ると、「どっさり」いたのは大昔と言っていいだろう。江戸時代は肝が肺病の特効薬とされたし、内蔵も便秘、生理不順にいいとされて、乱獲された。カワウソにしてみればいい迷惑だったろう。それが、とうとう環境省によって「絶滅種」と決まった。「ニッポンカワウソのすべて2

急に妙な話しをするが、今我々人間の生殖器は股間にある。しかしアイヌの神話によると、創造神コタンカルカムイが、人間を創ったはいいが、この生殖器の場所に迷い,天上神に聞いて来いとカワウソを使いに出したところ,天上神の答えは,意外や意外「おでこにつけろ」で、...ところがカワウソは地上で戻る途中でこれを忘れ,独断で「股間」と答えたのだそうな。しかし、これでよかったのではないかしらん。いくらなんでも「おでこ」にあってはなあ!!。

さてこれ書いている今日は9月3日(月)。昨日まで美術館で一週間「浜口陽三」の作品やら、「朗世寧」の掛軸など50点余を展示した。連日28-30度c...で不図,涼みたいと心底思ったところへ、暑い夏にふさわしい怪談とて、柳家さん喬の「死神」独演の記事がでている。それで、この「死神」は本当に日本独自のネタなのか、外国種かを論じた「落語『死神』の世界3 」(表紙記載)を書庫から出して来て再読と決めた。読んだからとて涼しくはないだろうがね。落語が外国ネタ??まさか!!と思う人はどうぞ。


  1. 宮田悦男.うたの里を行く.舵社(1996) []
  2. 清水栄盛.ニッポンカワウソのすべて.愛媛新聞社(1975) []
  3. 西本晃二.落語『死神』の世界.青蛙房(2002) []

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