第381回(ひまわりno197) 「ストーンヘンジ」 「雪舟はどう語られてきたか」「KKKの正体」

2017.9月29寄稿

2002年(だったと思うが)に、「読書への誘い」と言う意味を込めて、私が講師となり「英仏文学の面白さ」(だったか)と題して、室蘭と苫小牧の図書館を会場に、連続12回の文学講演をした事がある.英仏、英仏と月代わりで順にやったのだが、大体70〜100人の人が聞いて呉れて、これは成功だったと思う。

話すテーマ毎に参考文献の一覧表を作り、購入希望者は書名の下に◯印を付け、それを会場で進藤書店が集めて、後で各自に宅配すると言う形にしたので、これも好評だった。とここまで書いて、あれから15年も経ったのか、時の過ぎるのは早いものだと言うが、本当だ、と実感している。まあそれはおいて、私はフランス文学ではエミール・ゾラが、英文学ではトマス・ハーディがよく読んだ作家だと思う。一番好きで一番多く読んだと言っていい作家だから、この2人は当然、この講座で取り上げた.ゾラは今おいて、ハーディで好きなのは「帰郷」だが、今日は「テス」を語る。

その前にトマス・ハーディ(1840−1928)イギリスの詩人・小説家。ヴィクトリア朝後期の文豪.1891作「ダーバーヴィル家のテス」略して一般に「テス」は、貧しい農夫の娘テスの悲劇の一生を描いたもの。これ、映画になった時、ナスターシャ・キンスキーがテス役になった。テスは富農の息子に犯され、私生児を生み...で始まり、これを隠して牧師の息子と結婚するも...で、最後に殺人を犯して逃亡の末、捕まる訳だが、この逮捕劇の場所が「ストーンヘンジ」、で今回語りたいのは実はこの「ストーンヘンジ1 」。この「Stone   henge」、イギリス南部にあるウィルトシャーにある新石器時代の巨大な石像遺跡。一時古代ケルトの神殿跡とみられたが、今では太古の太陽崇拝の習俗と関係あある場所だろうとされている。直径110mの溝の内側に巨大石柱が四重の輪を成して並ぶ。此処に追い込まれたテスが絶望の極みに達する箇所を読んだ時は、思わず涙したものだった。

さて、今日は9月29日(金)、昨日「ひまわり」10月号が届いたばかり...でこれを書き始めたのだが、つい先の9月21日に「ストーンヘンジ付近にトンネル」との呆れた記事が出た。何でも、英政府が慢性的な渋滞の緩和を目的として「ストーンヘンジ」の近くに全長2.9kmのトンネルを作る、予算2.300億云々。世界遺産に指定されているというのに何たる暴挙。考古学者らが反対しているようだが当たり前だ。極東日本の、しかも室蘭で反対の声をあげてもどうにもならぬが、「テス」で「ストーンヘンジ」を知った私としては黙過するにはしのびないので、せめて本でも紹介して憂さを晴らしたい。と言う訳で、何冊もある関連書の中から入手しやすい中公文庫のR・J・O・アトキンソンの「ストーンヘンジ」をどうぞ。

それにしても行政というものは洋の東西を問わず馬鹿をしでかすものだ。余計なお世話と言われるやも知れぬが、森町の「鷲の木」や上磯のストーンサークルは、その後どうなっているのだろう。付け足し、欧州での大学教科書というジューリオ・マリの「古代文明に刻まれた宇宙」が出て、ストーンヘンジも出ている由。青土社/¥2,800。

2006年に山口県立美術館で、雪舟没後500年記念「雪舟への旅」展が開かれ、国宝指定の雪舟作品全6点が展示された。この機会を逃しては雪舟を一度に見ることは出来ないから、私は勇んで出かけて、ついでに日本海に抜けて益田へ行き、雪舟関係の「萬福寺」や「医光寺」をも見てきた。その旅のことは2007年1月7日「本の話」第461回に書いておいた。

さて、9月2日山口県立美術館は、84年間所在不明となっていた雪舟の幻の水墨画、うちわ型の「倣夏珪山水図」(縦30.1cm、横30.8cm)が見つかり、同館に寄託されたとの記事を出した。これ、「ほうかけい」と読む。「倣=ほう」とはならうこと、つまりすでにある物事を手本として行う、まねること。夏珪(かけい)とは生没年不詳の中国宋代の画家で、南宋の宮廷画院を代表する山水画家。室町中期以降の日本の山水画に影響を与えた...で雪舟も真似た訳だ。雪舟60歳前後の作品で、ナンデモ雪舟は中国の古典を真似て12の作品を描き、これを称して「倣古画シリーズ」。今まで6点確認されている由。今度見つかったのは、1993年売りに出された記録はあるものの、所在不明であったと言う。複数の研究者が鑑定したそうだが、その中の一人、山下裕二は「見たとたん雪舟と分かった」と言う。で、その山下の「雪舟はどう語られてきたか2 」を出す。これ、2002年の「雪舟展」のために出た本。


序でに言うと「ふくろう文庫」には、既に2点の雪舟がある。①は義弟の藤倉裕志・恵子夫妻からの寄金で買えた、国宝の「山水長巻」。②は小林重和・靖子夫妻の寄金で買えた、国宝の「秋冬山水二幅」。この2点、いつぞやモルエで展示した。序でにもう一つ。台北・故宮博物院蔵の夏珪「渓山清遠図」が函館の国際的版画家・敦沢紀恵子女史の寄金によって「ふくろう文庫」にある。10m余りの大作だ。「ふくろう文庫も」仲々のもんでしょう。おわかりかなワトソン君!!

ここで一つ書き忘れ.最初のT.ハーディは我が谷崎潤一郎や菊池寛や広津和郎の父の広津柳浪にも影響を与えた人。

字を覚えたての3歳の孫がカルタも覚えて、「テレビにカルタの人が出ているよ」というので見たら、トランプ大統領が出てた....との投書が出てたが、そのトランプ、「問題ない」連発の菅と大違いに、「問題あり」の発言ばかりしている。「資産1兆円」と自称するも、経済専門家の推計によると、実際は半分以下だと言うから、まあ、徹底して「ホラ吹き」なのだろう。その「ホラ吹き」の人種差別が又ひどい。最近もプロバスケット選手と揉めている。バージニア州シャーロッツビルで起きた、白人至上主義者と反対派の衝突の際の発言「双方に非がある」が非難の的。そのあとアメリカ上下両院は、白人至上主義者で作る「クー・クラックス・クラン3 」(KKK)やネオ・ナチを非難する合同決議を提出し、全会一致で可決したので、トランプもこれに署名せざるを得なくなって、9月14日に署名した。あたかもよし、目だけ出した三角マスクというのか三角帽子をかぶって、リンチをやらかす、この卑劣極まりない謎の白人集団についての日本で初めての研究書が出た。読むべし。

昨年9月、生まれた子に「渾」とつけて出生届けを出したところ、常用漢字ではないとて受理されず....で、親が家庭裁判所に不服申し立てをして、結果この9月末、法務省はこの字を人名漢字に追加して、許可と出た。親は「こん」と読ませるのか、或いは他の読み方をするのか、大いに関心があるところだ。自分の子に好きな漢字をつかて何が悪い??なる親の立場と、社会的な意味で、すぐには読めぬような字は困るという立場が、円満に分かり合えるためにはどうしたら??と考えてみるのも一つの勉強だ。死亡欄と出生欄。いろんな姓名があるぞー。「人名用漢字の戦後史4 」もどうぞ。

  1. R・J・Cアトキンソン.ストーンヘンジ.中公文庫(1986) []
  2. 山下裕二.雪舟はどう語られてきたか.平凡社ライブラリー(2002) []
  3. 浜本隆三.クー・クラックス・クラン.平凡社新書(2016) []
  4. 円満字二郎.人名用漢字の戦後史.岩波新書(2005) []

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