山下敏明さんのあんな本、こんな本

第052回 野鳥の鳴声と関連本

`94.6月1日寄稿

室蘭は一体に風の強い所ですが、殊に私の住んでいる、その名も詩的な「白鳥台」は海からわずか1200m、おまけに海抜120m余の高台ですから、風の吹かぬ日はない、と言っていい位なものです。そのため、庭に来る野鳥も中々大変で、鵯(ひよどり)などは風上に背を向けて餌台でリンゴをつついている際に、いきなり強風にさらされると、毛が逆立(さかだ)ってしまい、尻を丸出しにして―まるで、地下街から風のスカートをあおられたマリリンモンローだーつんのめりそうになり、あわてて風下にまわったりします。

雀なぞは利口なもので、餌台に舞い降りる寸前に、空中で一度Uターンをして、風上に頭を向けて、後ろから体があおられないようにとまります。この雀達,向いの物置裏に巣を造って、歌のように「チーパッパ」と整然とは鳴いてくれませんから、にぎやかさを通りこして、イヤ、そのうるさいこと〜。

「えっ、どううるさいかって?」そう聞かれても、雀の声をチチチ、或いはチュン、チュン又はチョン、チョンと書いても、どうも違います。

今の私にはそれらを足して、総体としては「ジュク、ジュク」と聞こえます。つまり鳥の鳴き声を文字にするのは難しい。山口仲美によると昔は雀は「シウシウと鳴く、と例えば平安末期の国語辞書「色葉字類抄=いろはじるいしょう」に書いてある由。

又、室町末期には「雀がやかましく鳴く」ことをその鳥の鳴き声から「JIJIMEQU(ジジメク)」と言ったことがロドリゲスの「日本大文典」に出ている様です。

山口の本「ちんちん千鳥のなく声は 1 」のようにカラスからニワトリまで、12種類の鳥の鳴き声について、古来我々が、それをどのように聞いて来たか、或いは我々にどのように聞こえて来たか、又それをどのように書き移して来たか、そして、それは日本人の生活の意識に何らかの関係があるのか、ないのかーが実に豊富な例をもって語られていますから、目を開かれる、イヤ耳を開かれること請合(うけあい)いです。

私は山口が鳥の鳴き声について語ったテープ、個性的な魅力あふれる語り口のテープ、を持っていましたが、余り何度も聞いて、切れてしまったのが残念でなりません。

さて、日本の鳥はよしとして、外国の鳥はどう鳴くのか?

例えば、英国の詩や小説でよくみるナイチンゲール、いわゆる小夜鳴鳥(さよなきどり)はどうか?釣り好きにとっての聖書「釣魚(ちょうぎょ)大全2 」の著者アイザック・ウォールトンはナイチンゲールについて「愛らしい学期さながらのようにちいさい喉から高らかな素敵な声を出し〜」と書いていますが、いくら巧みに表現されても鳴き声はやはりわかりません。

このもどかしい感じを満たしてくれる本があります。英、米,日の主要な鳥の鳴き声を修めた60分のカセットテープがついた「野鳥と文学3 」です。これが面白い。

例えば「ヒバリ」ヒバリと言えばあの上田敏の名訳で名高いロバート・ブラウニングの詩「春の朝」の「....揚雲雀(あげひばり)なのりいで、蝸牛(かたつむり)枝に這い...」とか、大伴家持(おおとものやかもち)の名歌 ”うららに照れる春の日に

雲雀あがり心かなしもひとりし思えば ”といった作品を我々は美しきものとして思い出します。

ところが、本書によると、英国人や日本人がヒバリについて書いた詩や散文は米国人には仲仲理解しがたいだろうとあります。何故ならアメリカにはヒバリ=skylarkはいないからというのです。成程なあ!!

雀についても面白いことが出ています。HouseSparrow=イエスズメは1850年にニューヨークのブルックリンに八番いが運ばれ、その後北米大陸に広がって、先住していたツグミやコガラを追い払って鳥からも人間からも嫌われるものになっている、というのです。

この話しなぞ、日本の昨今の雀事情にそっくりだといってもいいくらいです。

さて、私の机上に出たばかりの「小鳥はなぜ歌うのか4 」があります。まだ読んでいません。しかし、私はこの本は絶対面白いだろうと確信しています。

と言うのは、私は「学問の神様」としての「ふくろう」が好きで、ほんやらグッズやらを蒐めているのですが、その過程で、著者小西が雑誌「アニマ」雑誌「科学」に発表した、フクロウの視覚や聴覚についての論文をよんで、その卓抜さにおどろいた記憶があるからです。そうした研究を含めた小西の業績に対して`91年に第六回国際生物学賞が与えられたのも記憶に新しい所です。私が小西の本を楽しみにする訳がおわかりいただけたでしょうか。

最後に紹介するのは「北海道弁」のさえずりを集めたテープです。野鳥の声にも方言がある。東京で製作されたものでは、道内の鳥の声を覚えるにふさわしくない、と考えた織田敏雄の作ったものです「Voice of Hokkaido5

キビタキやらオオルリやらが、案外「ヅーヅー弁」まじりで鳴いているかも知れませんよ。

オオルリと言えば、中学生の時、父の買っていたオオルリをあやまってかごから逃がしてしまった時のおどろ悲しみを今でも思いだします。

 

 


  1.   山口仲美.ちんちん千鳥のなく声は.講談社(2008) []
  2. アイザック・ウォールトン.釣魚(ちょうぎょ)大全 .平凡社(1997) []
  3. 奥田夏子他.野鳥と文学.大修館書店(1982) []
  4. 小西正一.小鳥はなぜ歌うのか.岩波親書(1994) []
  5. 織田敏雄.Voice of Hokkaido.野生生物情報センター(1994) []

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