司書独言(123)

2012.月寄稿

○月○日 ジャコベッテイ(だったか?)監督の「世界残酷物語」が流行って、その多くは『やらせ』だったようだが、真似したようなものも大分出た。その頃見たもので,南洋のナニヤラ島で成人の儀式として,蔦のロープに足首を縛って滝壺に飛び込むと言うのがあって,高所恐怖症の私としては想像するだに恐ろしくて、あーこの島に生まれなくて良かったと思ったものだった。この儀式が即ちバンジー・ジャンプで、ナニヤラ?島は、ニュー・カレドニア北諸島だと今では知っている。

○月○日 これを現在の如く橋の上やらクレーン車の上から落下式にしたのは、ニュージーランドのA.J.ハケットなる物好きな人。最初エッフェル塔でやったと言うから耳を疑う。ところで1月10日の新聞によると、オーストラリアの 22歳の女がジンバブエで高さ111mのバンジージャンプに挑戦したはいいが、ロープが切れてワニがわんさといるザンベジ河にザンブと転落、あわやと思われたが、鎖骨を折った位で助かった。人類発祥の地たるアフリカにいるワニとしては、アボリジニー(元からいる人の意)を差別しているオーストラリア人には食欲がわかなかったのだろうて。

○月○日 高所恐怖症と言えば、「ふくろう文庫」に100万、いや1,000万寄付するから、山下さんやってみて、と言われても絶対お断りだと思うのは、空中遊泳。飛行機から飛び出して両手を広げて暫しのあと、パラシュートを開いてというアレ。いつだったか、ヤクザ映画の常連俳優で悪相の大男(名前知らず)が出た所、パラシュートが開かず、きりもみ状態になって危うく助かったはいいが、着地した時には冷や汗はおろか、下の方はおむつ必要状態にビビリ、チビっていて、見かけ倒しなもんだなと思ったことがあった。まあ、酒飲んで暴れたり、私語の連続で知事やら市長に一喝されるような地方の成人式には、会場入り口でこのバンジーやら空中遊泳を通過儀礼としてやれば、表だけ強面と言うのは減るかも知れんな。
○月○日 年明け7.8と2日間「第2回ふくろう文庫特別展inモルエ」をやった。出したのは12世紀に描かれた「清明上河図」で昔の中国六大都市の一つ開封(かいほう)賑わい振りをテーマとした5m余の絵巻の完全復刻版、宋の画家・張擇端作。丁度これの本物が「日中国交40周年」で中国から初めて国外出品戸言うことで「神品日本へ」との触れ込みで、東京国立博物館で開催中、おまけに8日のNHKの「日曜美術館」でこれを取り上げた、作家の浅田次郎が解説舌ものだから、10:00開店と同時にワッと人が来た。「ふくろう文庫」ではこの他に明の仇英と清の5人の画家分担による模写を2本並べたから大好評だった。
○月○日 室蘭民報の美人記者高橋結香嬢が予告記事の中で、「〜山下代表がマンダリンガウンに身を包み作品を解説する」と書いてくれたとおり、私は雰囲気作りのため黒のサテン地のそれを着て会場にいたが、何人もの人から「マンダリンガウン」の意味を訊ねられた。mandarin(ポルトガル語)とは、中国清朝の官吏のことで、その制服がマンダリンガウンだが、あと別に2つの意味がある①中国の公用語で北京官話、②は中国原産のみかんで、これは実の色がガウンと同じ色だからだ。〜と書いて私はギリシャ旅行を思い出した。食後にマンダリンが出たが、隣席の人がこれは何?と訊くと「マンダリン」と答えられて、「あら、オレンジじゃないんだ」と言ったのだ。オレンジの一種としてのマンダリンの名がまだ一般的じゃなかったと言うことかな。
○月○日 結香記者は自分も真紅のチャイナドレスを着て一日手伝ってくれて、名画3点に錦上花を添えてくれたが、この中国と聞けば皆が連想するチャイナドレスは、マンダリンガウンと較べると、その出現は史上ずっとあとだ。この辺りの服飾史についてはいずれ取り上げてみよう。因みに「ふくろうの会」の香川妙女は、正月早々上京して国立博物館に行ったが、切符を買う迄に3時間外で待たねばならぬと分かって、諦めて図録だけを買って来てくれた。これは賢明な態度と言うべきでーと言うのも2cm程の人間が、800人も描き込まれている「清明上河図」を黒山の人の背中越しに、かつウインドウの彼方に観ようと言うのは土台無理でーそれが当文庫では拡大鏡を片手に本物と寸分たがわぬものを、額をくっつけてみられる訳だからーです。
○月○日 正月だと言うのに、ヨットの学校では飛び降りるわ、台湾の留学生が殺されて犯人が自殺するわ、悪い方に賑やかだと思っていたら、京都の動物園の猿山に花火を投げ込んだ5人の馬鹿が出た。猿は鼻に火傷で、尻も赤けりゃ鼻までもでは可哀想なこと。園長は「電話でもいいから謝罪を」と言っているが、「さる者は追わず」でなくて、是非とも取っ捕まえて、先ずはサルまわ師の所に送り込み反省の態度をしこんでから、おもむろに広瀬鎮の名著「猿」(ものと人間の文化史34/法政大学出版局/¥2,472)を読ませ、かつレポートを提出させて、自分達の先祖たる猿の驚くべき偉大さを身につけさせてから、釈放とした方がいいんじゃないのかね。
○月○日 元号「平成」の典拠なる「古文尚書」なる古典が偽書と判明した、と北京日報が1月16日発表した由。これ四書五経の一つで、中国古代の王達の言辞を記録した「書教」の原本だとされていたもの。「平成」の総理大臣が押し並べてインチキな連中だったのは、典拠が偽者だったからか?イヤ典拠が本物だったとしても、彼等のインチキぶりには変化はなかったろう。

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