司書独言(98)

`09.11月

○月○日 10月6日今月号の「あんな本・こんな本」の原稿を仕上げた2日後、また石原がやらかしてくれた。オリンピック「リオデジャネイロ発言」。今度はいかなる屁理屈で逃げるのか?

石原の言う通りならサルコジはどう弁明するのか?中々の見物だわ。そのあと、ヒロシマとナガサキが立候補と出た。「開催理念は後からいくらでもうたえる」と理不尽な事をほざいている石原より「世界平和構築」なる理念の方がはるかに上等な事は言うまでもないな。

○月○日 ダムで頑張っている前原に向かって「おれが暗殺する。8月20日決行だ」とインターネットの「2ちゃんねる」とやらに書き込んだ20歳の無職男が捕まった。これで思い出したが、以前、「道新」の「朝の食卓」欄に書いていた時、森が「神の国」発言をした。時あたかも、日本を西欧世界に紹介するに当って大いに力のあった博物学者シーボルトの収集物の「里帰り展」が開かれていて、私はこれにからめて、森の発言を批判した。すると日を置かずに函館の右翼と名乗る男から巻き紙に墨書の手紙が来て、「お前のようなインテリは生かしておけぬ」と言った内容で、私は初めてインテリ呼ばわりされて驚いたが、恐怖よりも、「居るもんだなあ」と言う不可思議な気持ちを持ったのだった。まあ、この右翼男も今回の無職男も、自分なりに気持ちがいいのだろう。巻き紙の方は、記念に取っとこうかと思ったが、ケッタクソ悪いので捨ててしまった。

○月○日 サンクト・ペテルブルクでロシア国営天然ガス独占企業が430Mの「オフタ・センター」なるものを立てようとして、市民3,000人の反対にあっている由。昔この都を訪れた時、大通りの両側に連なる石造りの建物が、訂正以来すべて同じ高さ(100m制限)に建てられていて、その整然たる美しさに感じ入ったことがある。帝政やスターリン体制は破られてしかるべきだが、「世界遺産』に指定されている景観が損なわれることは、流行の台詞ではないが「あってはならにこと」だ、と外国人の私からしてそう思う。

○月○日 景観と言えば...室蘭民報に連載中の「本の話」(第485回・200712月9日付け)で私は「秀麗な景色があぶない....」と題して、1711年に来日した朝鮮通信使達が、現福山市の「鞆の浦」の景色を「日東第一形勝」と絶賛したことを紹介し、だが、どうして「江戸期の港湾建造物が5セットも現存しているこの由緒ある地に、市長が港を埋め立て橋やらバイパス道路を計画しているとの事だが、朝鮮通信使達はこれを何と聞くのでしょう?」と結んだ。私としては曾遊(そゆう)のこの地の美しさが目に焼き付いていたので、こう書いた訳だが、過ぐる10月1日、広島地裁は「鞆の浦の景観は国民の財産』として、この事業計画を差し止めた。まあ結構な判決よ、と胸をなでおろしたのも束の間、県は控訴する方針を固めたと言う(10/12報道)。市長をはじめとする連中は、歴史に対して、少しは名を惜しむと言う態度を取れぬものかな。景観を守って名を留めるか、こわして名を折るか、の瀬戸際だ。

○月○日 某氏が来館しての話。彼、司馬遼太郎記念館に行ってきたそうな。その時20人程のアメリカの建築専攻の大学生が、教師に引率されて来ていたが、彼が訊いてみると、教師初め全員が司馬遼太郎が作家である事も、ましてや文化勲章受賞者であることも知らず、教えると「へえー」と言い、では何故ここに来たのか?と訊くと。「安藤の作品」を観に来たのだと答えた由で、某は魂消えていた。「へえ、そんなものなの?」と私も返したが、思うに半藤一利の司馬と松本清張の比較論を読むまでもなく、果たして司馬が本当に国民的作家たり得るや否や、そして何故清張は文化勲章ではないのか?と言った事供合わせてみるに、アメリカの人が司馬を知る必要もありやなしや...ではなかろうか。土台、日本の建築専攻学生とても、米のM。トウェインや、エマーソンやソローを知っているかどうか?だて。

○月○日 夏目漱石の曾孫、夏目一人(かずと)らが財団法人「夏目漱石」を設立して、「漱石に関する人格権、肖像権、意匠権その他無体財産権の管理事業」や漱石費、漱石検定を手がけると発表した(6月中旬)ら、孫の夏目夏目房之介らが「漱石という文化的存在を将来にわたって維持し、享受や批判をさかんにして再創造につなげて行くためにも、特定の者が権利を主張したり、介入したりすべきではない」と反対した、そうな。当たり前だ。

漱石の著作権は1946年に切れているのに、今更一人の言の如き論が生まれてくるのは、有り体に言えば、子々孫々爺様の成した偉業のおこぼれで食って行こうと言う事だろう。漱石の創作に関わったでああろう妻子までは著作権の恵みが届いても当然だろうが、漱石の顔すら見た事もない曾孫達が、したり顔にそれらしき理屈をつけて管理云々などとは笑わせる。浅ましいとしか言い様がない、と私は思うね。(山下敏明)

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