司書独言(101)

`10.2月

○月○日 昨年末,亀井静香金融担当相が言うには、12月24日に皇居での天皇と閣僚との昼食会で、「権力の象徴である江戸城(跡地)にお住まいになるのは立場上相応しくないのではないか。京都か広島にお住まいになってはどうかと、陛下に一方的に申し上げた」と。亀井の理屈は「明治期に幕府の権力の象徴の跡に入られたことが、その後の歴史で政治利用みたいな形になってしまった」そうだな。私はこの言、さほど奇矯なものには思えぬ。と言うのは、昔、天皇制を支持するか、否かの論がかまびすかった頃、一部の人達から出た論があって、それは「天皇制を支持する人達は、つまり天皇を奉る人達は天皇をかついで共和国(と言うのは変だが)、つまり天皇国を建国すればよい。例えばブラジルとかアフリカとか好みの場所に天皇教の国を造ればいい」と、まあ大略こんな事が言い出されたことがあった。言ったのは本田勝一だったか、堀田善衛だったか、はっきり覚えていないけどね。

○月○日 ちゃんとした国語辞典・漢和辞典を一冊買えば済むのに「四文字塾語」辞典などが」出るのは不見識な話だと思わぬではないが、「大安○日」の○の部分に字を入れよに対して「売」と入れたギャルがいたと言うから、ドモナラン。と思えばその一方で、「大安」やら「仏滅」を信じると言う手合が、男で33%、女で44%もいると言う。

そうした事情から、昨年のベストセラーの一つが「じゃめ、じゃめ」著の「自分の説明書、A・B・O・ABの四つの性格の分析」だと言う。4冊合わせて500万部売れたと言うから、バカバカしいにも程がある。新聞の川柳投書欄に「B型で何か迷惑かけました?」と」さめたのがあったけど、このさめた目を持てと血液型やら手相を信じてる連中に言って見たと手、聞く耳もたんだろうしな。せめて、この手の本の図書館侵入だけは願い下げにしたい。

○月○日 と思っていたら、今度は「借りたカネは返すな」の著者なる「セントラル総合研究所」の代表取締役・八木宏之が、約3400万円の脱税で逮捕された。借りたカネを返さぬのも脱税するのも悪いことで、この人は要するに「ロクデナシ」だ。その「ロクデナシ」の書いた本を買って読むのが50万人いると言うことは、まあ、愈々日本も本格的にダメになってきたと言うことか。

○月○日 40年も前にハイチの独立を果たした黒人大統領の伝記を読んだことがある。トゥサンといったけかな。その前に堀田善衛を読んでいて、このハイチやらキューバに住んでいたカリブ族(=アメリカ・インデアンに属する)が、ヨーロッパ人による植民化で絶滅したとの話を読んで唖然としたが、そのハイチで大地震が起きて、20万人に上る恐れのある死者数で、増え続ける遺体がダンプで捨てられているとの記事が出ている。トゥサンが指導する黒人の反乱が起きた頃、ハイチはフランスの植民地で、世界で、最高の品質を誇る砂糖の生産地だった。黒人達が独立を達成したのは1804年で、これは中南米の最初の独立国と言う栄誉を担ったが、20世紀には砂糖産業に手を伸ばしたアメリカの支配が強まっている。結果ハイチは目下世界の最貧困国と成り下がったが、その貧困は「世界史に置ける植民地搾取のもっとも野蛮なシステム、これと結びついた何十年にもわたる植民地解放後の組織的抑圧の直接の結果だ」とイギリスのガーディアン紙は指摘する。アメリカの肥満とハイチの貧困。この構図に甘い要素は微塵もない。

○月○日 「室蘭民報」に「除夜の鐘」と題する小学校5年生の話が載っていた。除夜の鐘をつきに行ったら、その突き代として¥500のお札を買わねばならぬと言われての小学生の反応は、108の煩悩を払うとされる除夜の鐘を突くのに金を取るとは!!!、寺の坊主が先ず最初にその煩脳を落とすべきと言うもので、誠に誠に御尤も。

大体「煩悩」なるものの根元には3つあって、それは「貪欲」「瞋恚=(しんい)いかりうらむこと」そして「愚痴」だ。これを更に分類すると108となり、それを更に分類すると、84,000の煩悩となる(と仏教では言う)。昔那智の滝へ行ったことがある。1度目は秋、ザアザア降りの日で、傘なんぞ何の役にも立たずブレザー靴共々おじゃんになった。2度目は盛夏。今度はカンカン照りの日で、汗ダクダクのサウナ状態。それはまあ天候だから仕方ないとして、呆れたのはお参りしたとの判子を押してもらおうとしたら、これが500円取られる。小学5年生の嘆きがよく分かる。

○月○日 正月休み、友人の所でテレヴィを観ていたら、歩行者に「鰹節」を見せて、これは「何か?」と問う番組があった。こんな分かり切ったことを聞いて何になるんだろうと思いきや、若い女達は皆分からなくて、中には「化石」と答える猛烈なる者もいた。まあ「パック」の時代だから原型が分からぬのも無理なしと大目に見てやるとして、大目に見てやれぬのは、老舗中の老舗「ヤマキ」と「マルトモ」のカツオ節偽装。ヤマキは工程を省いたものを「鰹節』と言い、マルモトは焼津産を枕崎産に変えていた。鰹節が、好きだったと言う福沢諭吉も地下で嘆いていることだろう。     (山下敏明)

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