司書独言(134)

2012.12.16寄稿

○月○日 私は昨年10月28日付き「本の話」の第610回で「人体博物展」に触れ、展示されている人体=死体は中国の司法・警察の協力で、本人やら関係者の献体の同意なしに,闇の世界を通して提供されているのであること、して又解剖学者の養老猛司がその日本展に深く関わっているのみならず,自信もドイツからそうした死体を入手したことなどを語って,死体輸出が今や「儲かる」産業になっている事を語った。

○月○日 ところが先日、韓国映画の傑作、イ・ジョンホム主演「アジョシ」を観ていると,中で中国のヤクザが,へまをした弟分をとっちめるのに吐いた言葉に驚いた。どやしつけた言葉が、「こんなんじゃ,テメエも殺して人体博物展に出しちゃうぞ」だった。実はこの「アジョシ」、余りに面白いのでそちこちに勧めた後,もう一回観たもので,「冬の小鳥」に出た名子役に又も泣かされたが、この「せりふ」前にはとりわけて気付かなんだ。2度観るもんだとつくづく思った。

○月○日 映画の中のせりふと言えばもう一つ。やはり「本の話」(1月6日付け,第616回)で取り上げたが,その際,ドイツに協力したいわゆる対独協力の文学者の一人としてロベール・ブラジャックの名を挙げた。ところが,12月9日(日)にクロード・ミレール監督、セジル・ドゥ、フランス主演の「ある秘密」なるユダヤ人一家の歴史が主題のものを観ていると「ここは自由の国フランスだから、ユダヤ人狩りなんてない」と楽観する主人公の男に脇役の男が「ブラジャックは、ユダヤ人を全員殺(ヤ)れ、子供も見逃すなと言ってるぞ」と注意を促すせりふが出て来て,私はハッとした。ボヤーとみてはいられない。このせりふ一つで,ブラックジャックが反ユダヤだと言うことが明白な訳だもんな。

○月○日 今日は投票日の12月16日、朝食終えてこれを書いている。昨夕は、読む,書くの連続の目の疲れから肩が凝りに凝って、で行きつけの按摩にいってさっぱりして出てくると、迎えに来た我妻さんが「アメリカで又銃乱射よ」と言う帰宅して夕刊を見ると,涙を拭くオバマの写真があって、コネティカットでの事件がでている。オバマは「政治は度外視し,再発防止に有意義な行動を起こす」と言うが、まずできないだろう。

○月○日 鈴木透「性と暴力のアメリカ1 」(中公新書)を見て下さい。

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なにしろ「ベン・ハー」のチャールトン・ヘストン(もう死んだかな?まだ生きているよな?)を会長に頂く、「全米ライフル協会」とやらが、「はい、銃は捨てましょう」なんて言う筈はないからだ。これだけ自由に銃と弾が手に入り,更にイランだイラクだ他だで、精神を病んで,反社会的になっている若者が増える一方と来ては、相乗作用でこうした事件が減る筈はなかろう。一言にして言えば、アメリカは今や「文明国」にあらずして、「野蛮国」に成り下がっているのではなかろうか。進化論を信ぜず,今どき聖書の創世神話を信ずるような輩が行政の中枢に居座っている国は,文化的だの,文明的だのとは言える筈もなかろう,と思うがね。堀内一史「アメリカと宗教2 」を読んでみてください。

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○月○日 12月15日の報道によると、そのアメリカで白人人口が2043年には過半数割れとの発表が出た。国政調査局が米人口の推移を分析した結果だそうで,今人口の63%を占める白人が、いずれ43%になるだろうとのこと。こうなるとイタリア、メキシコ、アジア系移民を目の敵にする白人主義のKKKなどの狂信者共の暴力沙汰も、今以上にエスカレートするだろう。

○月○日 と思っていたら,同じく12月15日付けの記事によると,例の暴走老人が、「近世になって、有色人種の中で日本だけが近代国家を造った。これは日本人の英知、努力のせいだ」と又暴言を吐いている。まあ、日本を褒めてくれるのは日本人として悪い気はせぬが、しかし、これはやはりおかしな論じゃないの、と思うし、その折角良くなったと言う日本を、今ダメにしているのは貴君じゃないの、と思っちゃうよね。こうゆう思考傾向はこの男の勉強不足からくるのだろうけど、その言葉使いをみると、やはりこの男は三文文士だなと思わせられちゃうね。

○月○日 さっきアメリカでの人口比率を話したが,有色の中南米系のヒスパニックが将来1/3を占めるとの予測だから,暴走老人の暴論を当てはめると、日本以外の有色人種たるヒスパニックが占めるアメリカは劣等となる訳で、となるとやはりアメリカは野蛮国へ落ちて行く訳だ。

○月○日 知って吹き出した話しがある。ノーベル賞の山中教授が受賞の知らせが来た時、「洗濯機がガタガタいっているのを直そうとしていた」との談話を聞いた田中眞紀子が、これを新しい洗濯機が買えぬ「生活苦」の弁ととったと見えて,閣僚の頭割り5,00〜10,000円位でカンパしようと言い出し、全閣僚が賛成したと言うのだ。この金額のミミッチサにも呆れるが、この話し自体変でない?こう言うの、室蘭弁でいうなら、言った方も賛成した方も「ハンカクサイ」のではないか知らん。研究費を増やそうてんなら分からないでもないけどね。

  1. 鈴木透.性と暴力のアメリカ.中央公論新社 (2006) []
  2. 堀内一史.アメリカと宗教.中央公論新社.(2010) []

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