司書独言(111)

`10.11月寄稿

○月○日「ふくろう文庫特別展inのぼりべつ」が無事終わった。1週間、会場にに座ってくれた「ふくろう文庫ウオッチャーズ」の面々に感謝する。今回の会場(登別ポスフール)は色々な点で丸井と違うので、大分頭を使った。先ず天井が丸井よりは1m余りも高い。

次に壁面積が丸井より格段に広い。丸井は7階エスカレーターから下りのエスカレーターから出てエレベーターへ続くL型の空間に壁がない。又上がりエスカレーターから下りのエスカレーター迄がやはり壁がない。パネルを立てるにしても面積は実に狭いものだ。又丸井には4本の柱があったが、今回の所には0だ。そして、決定的なのは今回の場所は16m四方とほぼ正方形で、しかも出入り口は一つ。

○月○日 と言う訳で。要するに展示面積は2倍はおろか、3倍はあろうか、となって、展示する物の数がふくれることになった。掛け軸は2m余を8本、1.5m余を3本、3mを1本出したが、3mのものは2m余の天井の丸井では無理だった。因みに、この3mの掛け軸とは、明代中期の文人にして画家の沈周の「廬山高図(ろさん)だ。この人、文人画の一派たる呉派を興し、「南宋文人画中期の祖」と言われる人。台北故宮所蔵の逸品だ。これだけの掛け軸を並べても、壁の余白が目立つので、そこには私のコレクションの梟の版画やら何やらの額を並べて賑やかにした。

○月○日 一方テーブルの配置も大変で、と言うのは、暖房の吹き出し口の前にテーブルを置いたのでは、上に並べた物が反ってしまう。これは一度丸井で、天井からの吹き出し気付かず掛け軸を掛けたら途中で妙に反って来て、ありゃとあわてて暖房を止めた事があったくらいだ。絵巻物を並べるために長テーブルを70台余も使ったろうか。長さが各各違う絵巻の塩梅も苦労した一つだ。とまあこうして、予定した物は1点を除いて全部並び得た。除いた1点とは「屏風絵集」でこれは受付の机上において要望がある都度、開陳したから、予告に偽りはなかった訳で、一応満点と言うことにしてよかろう。

○月○日 今回の展示での特徴は、観に来た人達の滞留(と言うと変だが)時間の長さだ。さーと一回りで帰る人もいないではなかったが、大方は略々(ほぼ)1〜2時間かけて、実にゆっくりと丹念に観ていた。天眼鏡片手に皆勤賞だった人も2.3人にとどまらぬ。換言すれば観る気で来た人ばかりだったことになり、これは、つまり、いいものを観たい人がやはりこれだけいるんだなあ、という嬉しい実感だった。そして又思うことは、他人事ながら、これ観ない人は損したな、と言うことだった。

○月○日 登別の教育委員会のメンバーが、委員長を先頭に揃って観に来た事を書いておかねばならぬ。一般の人は勿論のことながら、そう言う任に座っている人にこそ観てもらいたいと日頃思っているからだ.兎にも角にも観た人達は真正に復元されたものの持つ力を十分に感じとり、その持つ意味を理解してくれたものと確信している。

○月○日 登別教育委員会の面々の働きも見事だった.何を頼んでも嫌な顔一つせず機敏に立ちまわり、その上それらの動きに、美術品を敬愛する気持ちから出る粗略でない感じがあって嬉しかった。

○月○日 総じて、去年の秋頃から始まった登別展の計画が、上々の首尾を迎えられた事を自他共に喜び勝つ感謝したい。その内伊達市も入れて3市をめぐる巡回展と言う企画はどうだろうか、との話も漏れ聞くが。そうしたことの実現の為にも今回の特別展は力を発揮したと思う。あと、感謝したい事が2つある.一つは陶芸の田村トシ子さんが今回の展示のために時間を掛けて、特大のみみずくを作ってくれたこと.寄贈の題字は時田昭子さんが書いてくれた由。もう一つは今回の特別展を企画した登別市の内藤教育部長と私の40年以上にわたる友情に感謝する。

○月○日 特別展のあとと11月7日の白老での「国民読書年」を記念しての講演を終えた後、私は例年の如く、室工大卒業生の法事を兼ねての旅行に行って来た.いつもの如く、美術館,博物館ばかりを巡る旅だったが、歩いた中の3.4館が成功した人が社会還元の意味で建てた美術館だった。これは別に目新しい事ではない。ブリジストン美術館にせよ、大原美術館にせよ、横浜の三渓園にしろ、出だしは個人のコレクションだ。よく、欧米ではキリスト教の社会奉仕の精神からして、寄付が盛んで、云々と言うような意見を吐く人がいるが、日本とて大してひけをとるものではない.今挙げたような美術館の他にも、個人の蒐集が発端を成した美術館は沢山あるし、今も増えている。

○月○日 只、問題はそれを支え続ける事の難しさだ.フェルメールと言えば何十万人が押し寄せ、阿修羅と言えば数十万人がつめかけ、と何やらマスコミにあおられた展覧会ばかりでなく、我々が無知故に見過ごしている美術家達にも、一般人がもっと注意しておく事が必要だ.例えば12月の道立美術館での「長谷川潾二郎展」を道民の何人が観にいったか?。見過ごしたことは一つの不幸だと私は思う。コレクションを育てるのは、不断にして、普段の一般市民の美的好奇心の発露だ。

知らなきゃ何も目にとまらぬ。色々な画家を知ってもらうための「ワンコイン美術講座」を来年も続けなくちゃと思う所以だ。

付け足して一つ。会場に飾られた1尺〜2尺と言う大物のこけしを楽しんでいた人も多い筈.あれ、全部内藤さんのコレクション、見事!!と言う外ない。


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください