司書独言(153)

○月○日 オリバー・ストーンは反戦反原発の映画監督で、アメリカの歴史を他民族に対する征服戦争の連続史ととらえた歴史書を出し、来日もしたりの人だ。その人の新作ドキュメンタリー「パンドラの約束」が公開されるというニュースでこりゃいいやと思って読むと、これ原発推進の映画で、ありゃ変だと読み直したら、ストーンはストーンでもロバートで反原発から原発推進に転じた変節の男と分かった.危うし、名前はよくよく見なくちゃな。 続きを読む 司書独言(153)

司書独言152

○月○日 私は3食寿司でもいい程の寿司好きで、総合商社マンの時の楽しみの一つは、東京出張帰りの汽車の中での立ち食いの寿司だった。物の本には1961年3月1日にデビューしたサハシ153形なる列車が最初とあるが、鉄道マニアでない私には自分が食べた列車の種類はわからない。私の記憶では横浜でネタが積み込まれて開店となり、注文すると色付きのマッチ棒みたいなのが、目の前の皿に入れられて、これでネタの種類と値段が分かる様になっていた。この寿司列車,新幹線の登場で退場したとか。

○月○日 安倍がオバマを寿司屋でもてなし、オバマ曰く「人生の中で一番美味しい寿司だった」と新聞に出た。店は銀座の「すきやばし次郎」で1965年創業とか。店名を見て「ハテナ?アレカナ?」とDVD屋に出かけると、矢張りあった。「二郎は鮨の夢を見る」なる米国のデビット・ゲルブ監督のドキュメンタリー映画。野次馬根性で借りて来た。店主・小野二郎(88歳)の物語で、おまかせコースは3万円から。感想は?となれば、これがどうしてか何の感銘もない。

○月○ 戦時中の記憶もあって、私は物を食べるのに行列するのが大嫌いだ。けどこの店はナニシロ高いから行列はないので、その点はいいとして、ひっかかったのは次男の「客が親父の店で食べると緊張するっていうんですよ」なる言葉。私は物を食べるのに緊張したくない。二郎の人物感・職業感も、「仕事を好きにならなくちゃ」的な陳腐なるもので...とどのつまりは私はこの「すし屋一代記」には感動しなかった。

○月○日 北海道出身の高間響(たかまひびき)なる劇作家が「ネット右翼〕なる人間達を対照とした劇を発表して注目されている由。いい事だ。本屋に行くと、安倍の尻馬に乗った連中の「嫌中」「呆韓」の本が束になっている。なにしろ「呆韓論〕が7週連続のトップ10入り、「侮日論」「噓だらけの日韓近代史」がベスト10入りで、老舗の三省堂が恥かしげもなく専用コーナーを設ける始末。日中韓三国互いの包容力がためされる時代だと言うのに、困ったもんだと思っていたら、良心的な河出書房新社がこの事態を嘆いてか、「今、この国を考える〜“嫌”でもなく”呆”でもなく」選書フェアを全国の書店で展開し始めた由。室蘭の本屋でも共催するところがあればいいがと切に思う。

○月○日 本と言えば全国大学生協の調査で、当今の大学生の一日の読書時間はゼロが4割と出た。本を読まずに何をしているのかと言うと、スマホだと。本読まず新聞読まず、これでは図書館がいくらいい本を揃えても無駄というもの。小谷野敦に「バカのための読書術」なるいい本があるけど、本読まぬバカにはこの本も届かぬ訳だ。本は売れず、古本屋は減少し...で、何をかいわんや!だ。これだもの、学長の選挙権を教授会から奪う、大学自治崩壊を目指す法案が出されても、当の大学生達には我が事にあらずの筈だわ。

日本が誇る9条にノーベル賞をとネットで呼びかけている神奈川の主婦・高巣直美女史のネットの使い方をひまあればスマホの大学生も学んで欲しいものだ。

○月○日 知り合いの夫婦が、人生も終わりに近いからと家財道具の整理に取り掛かり、聞けば

互いの食器を1セット残してあとは皆捨てたと言う。山頭火じゃあるまいし、私は全く真似する気になれぬ。そう言えば先頃「断捨離(だんしゃり)」の著者の人生模様が某紙に出たが、私は感心しない。ところで、知り合いの若い女性3人程度が美人なのだけど。三人揃って味も素っ気もない。それが呼ばれて家にいって理由が分かったような気がした。3人の家に共通していたのは壁に一枚の絵も、玄関に、トイレに一輪の花もなく、本棚も見えぬスッカラカンと片付いた?のか本来ないのか?の家だった事。あるけどしまっているのとないのでは話しが違うが、今迄ずっとこの生活なら「情感」の育つ筈もないし、ふくろう文庫に何の反応も示さぬ訳だ。片づけたにしろ、無一物にしろ、こうなると病気みたいなもんだ。精神科医の斉藤環によると、散らかった部屋で仕事をする人の方が創造的、なるミネソタ大学の研究結果がある由。ゴミ屋敷も困るが、無一物も困る.桂離宮がスッキリしているのは物がないのではなく、しまってあるからだ。

○月○日 過ぐる4月末,コロンビアの作家ガルシア・マルケスが死んだ。去年の5月にはメキシコのカルロス・フェンテスも死んだから、ラテンアメリカ文学も寂しいことだ。マルケスの故郷はアラカタカ町だが、2006年ここをマルケスの代表作「百年の孤独」の舞台に当る架空の町マコンドに改名しようとの動きがあったが、住民投票で否決された事があった。観光客誘致からの思い付きよりは、読まれる事が作家の名誉だもんな。

○月○日 私は機会に信を置かないので、電子書籍にも一切関心がない。それで何年か前に電子書籍の得失をめぐって、「表現の巾が広がる」とてこれを喜ぶ積極派と、「海賊版などのリスクが多い〕とて賛同出来ぬ慎重派とが論争したときも、全く無関心でいた。それが今年に入って「買った電子書籍の蔵書が消える」との問題が起きた。機械に関心のない私には、その理屈を説明する責任はないが、何でも利用している電子書店が撤退すると、それ迄買った蔵書(これ蔵書と言うか?)が消える由。私の感想は単純で、「それ見た事か、いわないこっちゃ」だ。○月○日 今時の犯罪見ていると皆ケータイ・ネットがらみだ。聞くたびに私が思うことはこれ又単純で、そんなもの持っているからで、電話がなきゃ「俺俺」もかけようがなく、ネットがなけりゃ闇の諸々にも巻き込まれずに済む訳だ。昔フランス文学者の辰野隆は「鉄の固まりが飛ぶのはおかしい」との理屈で汽車で帰宅したら、乗るのを拒否した飛行機が墜落したと言う事件があった。機械は回転寿し位が一番平和だ、と能天気にも私は思うね。

 

司書独言(148)

2014.2月寄稿

○月○日 ハンニバルと言えばローマを苦しめたカルタゴの将軍、カルタゴはフェニキア人の要塞都市で守護神が女神チュニス、この「チュニスの国」がなまって今のチュニジアだが、1月26日に新憲法法案が通って、ベンジャアフル議長曰く、「今日は誇りをもって歴史に刻まれる日となった」と。この憲法中々goodなものだとのこと。極東の我が国では「世界文化遺産」に、との声も出る程の誇るべき憲法を改正、と「もったいない」ことをしようとしている。変な国だ。 続きを読む 司書独言(148)

司書独言(150)

2014.4月寄稿

○月○日 四国八十八ヶ所をまわり切った韓国女性が、道中の地元のおもてなしに感動し、其の感動を自国の人にも伝えたいとて、許可を得て、韓国語「同行二人」の道案内を各所に貼った所、「日本の遍路道を守ろう会」なるものが「大切な遍路道を朝鮮人の手から守りましょう」「礼儀知らずな朝鮮人達が気持ち悪いシールを貼っています、見つけ次第はがしましょう」とやった。これを憂える人に対して、石原の息子が「人種差別って、そんなに広がっているんですか」と脳天気なことを言う。ヘイトスピーチが法で禁止されたことを知らないのだろうか。おまけに、その人種差別の最たる人間が自分の父親で、あおりそそのかしている張本人だ、という自覚がないのだろうか。

○月○日 父親の方は相も変わらず、慰安婦問題で韓国大統領は「薄っぺら」と言ったり、中国に対して「あんまり日本をなめない方がいいぞと言った方がいい」なぞと言っているが、呆れたことにこの舌禍居士が、「大阪御堂筋を規制緩和するから、財界人は高級マンションを造って愛人のニ,三人を囲って経済活性化を計ってもらいたい」との話しをした失言居士の橋本に、「言葉を考えて選ばなきゃいかん、時々ハラハラする」と注告?したが、本人自身が「人の振り見て我が振り直せ」ではなかろうか。

○月○日 脳天気と言えば8%upの安倍総理が、新宿御苑での花見で「給料の上がりし春は八重桜」なる一句をひねり、早速「脳天気風が身に染む八重桜」とツイッターとやらで返された。庶民事情を察知せぬ安倍の脳天気は,この句にもう一点あって、俳句ではしてはならぬ「季重なり俳句」をやっていること。つまり、八重桜に春と季語が重なっていることで、これ、「季語は必ず一つ」の俳句の大原則についての無知の現われ。俳句「ベからず」集の趣のある名著、その名も阿部二人(にひと)の「俳句ー四合目からの出発ー」位読んでおいてくれないと、字が異なるとは言え同族(=あべ)に失礼になるのではないかしらん。

○月○日 今年の本屋大賞が和田竜の「村上海賊の娘」に決まった。先年は、NHKの理事に抜擢されて、世の中からヒンシュクを買ったエンタメ右翼・百田直樹の「海賊と呼ばれた男」を選ぶと言う、さっぱり世のタメにならぬ結果を出来させてくれたが、今年は大丈夫のようだ。和田の「のぼうの城」、原作は読まず映画で観たが、期待した程面白くなく、だったが、この作家、さるインタビューに答えて、「自分は浦和周辺に住んでるが、それでも 『その小さな共同体のために命を捨てるのは尊い』と上から言われれば『大きなお世話だ』と言うでしょう。自分の生き死にぐらいは自分で決めたいものです。」と断言する。この態度、調子こきの国のためには命を捨てろ式の百田直樹とは雲泥の差で、信用していいい人物の様に思える。という訳で、今年の本屋大賞は”まとも”かも知れん。

○月○日 朗報、朗報!!野口観光の野口秀夫社長は、「創業50周年」記念の一環として「ふくろう文庫」に50万円を寄付して下さった。同社長は45周年の時にも45万円を寄付してくれるなど、これまで数回の寄付があり、「ふくろう文庫」には野口社長の善意の結果,下記表の如き善本・良書が揃っている。今回。野口社長は取材に対して”「ふくろう文庫」は寄付の結果がはっきりと目に見える所が素晴らしい。これからも支援する”と語ってくれた。感謝の他ない。

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