司書独言(224)

2020,10,5寄稿

◯月◯日/アメリカの喜劇作家ニール・サイモンは2018年の8月26日に91歳で他界した映画の三谷幸喜らが範とした人だ。「おかしな二人」が有名で私の好きな加藤健一らがこれを上演した。散らかり放題の家に住む男のところへ、潔癖性の男が転がり込んできてーという話(映画ではジャック・レモンとウォルター・マッソの名コンビがこれをやった)それを10月に女性版に変えて,ずぼら女を大地真央、潔癖女を花總まりがやる由。本当に偉いもんだ。

◯月◯日/偉いもんだ、と言えば演出家の菅尾友もすごい。何しろこれからドイツのSaザールブリュツケンに行って、ジュゼッペ・ヴェルディ作曲のオペラ「トロヴァーレ」を演出するのだという。幼少の頃から外国で暮らした人のようだが、それにしても凡人には想像もできぬ才能だなあ。ヴェルディと言えば「椿姫」だが松坂慶子と加藤健一の「椿姫」は私は邦画の中で一番好きなものだ。ビデオ屋に行くつど、探すがまだDVDにはなっていないようなのが残念だ。ところでドイツでは文科大臣が「アーティストは今、生命維持に必要不可欠な存在」と発言してコロナの間のアーティスト達の補助をしている。それに較べりゃ日本ではそんな気配もない。

◯月◯日/偉いと言えば大坂なおみ。マスクを着けたからには勝ってくれ、と心から願っていたが見事に勝った。このマスクで「色んな人がこの問題を考えてくれるきっかけになれば」と実に立派なせりふを言う。せりふと言えばもう一人感心したのはビリー・ジーン・キングの大阪へのほめ言葉。「なおみを誇りに思う。なおみは変化を促す触媒として自分の立場を生かす道を選んだ。男女を含めたアスリートのリーダーで、愛情と心で語りかけている。」(下線山下)核心を突いた素晴らしい表現だ。

◯月◯日/ このビリー・ジーン・キングとは誰と思いきや、4大大会シングルスで12度の優勝を誇る女子テニス会の強者で現在76歳。「女子テニス協会」を作り、男女の賞金格差を是正させるなどした正しく偉い人。未だ男尊女卑の立場に立つ櫻井よしこだの杉田水脈だの、在任中の死刑執行数代一位の川上陽子相などの愚女連中に比べると、その偉さが一際はっきりする。

◯月◯日/真にいい映画を観た。「世界で一番貧しい大統領。愛と闘争の男。ホセ・ムヒか」南米ウルグアイの大統領に旧ユーゴスラビア出身の映画監督エミール・クストリッツアがインタビューしたもの。ムヒカと妻のルシアは軍事政権への反対運動に参加して捕まり、実に13年間も投獄された。ムヒカは左翼ゲリラの一員、ルシアはゲリラ組織で文書偽造を担当していたそうだ。

◯月◯日/退任した日の夜、ムヒカは妻と共に夜の酒場でラム酒を飲みながら、自分たちの苦難の一生を詠ったかにみえるタンゴに耳を傾け、時には一緒に口ず寒。ムヒカについて田部井一真監督のドキュメンタリー「ムヒカ・世界で一番貧しい大統領から日本へ」もある。ムヒカは公邸に住まず郊外の貧しき我が家で休みの日には菊や野菜を育てた。子供の頃には菊を路上で売って歩いたという菊づくりは日本の移民から教わったそうで日本には感謝しているという。ムヒカの笑顔が素敵だ。較べて菅の顔の陰険なこと。

◯月◯日/ムヒカに感動して寝た翌日の朝刊のニュースは俳優の伊勢谷ナントカヤラが大麻所持で逮捕云々。この男と大麻使用で意見同じくしていたのが、安倍の細君。伊勢谷は細君がやる飲み屋にもよく行き、細君がどこやらの大麻畑を見学した時のツイターとやらには「イイネ」を連発していたと。ムヒカ夫婦と安倍夫婦。天と地だね。と較べること自体ムヒカに失礼だな。

◯月◯日/中国政府が「内モンゴル自治区」の住民に中国語の使用を強制し始めた。ここ、モンゴル本国と違って、ロシアと国境を接するところ。元来、中国内で少数民族が多いところに設置された五つの自治区の一つだ。この地区で小中学校の授業をモンゴル語で教えていたのを禁止して標準中国語を教えよとなった訳。これにモンゴル族が反対すると途端に弾圧が始まった。かつて日本も、国内では北海道の先住民たるアイヌに日本語を強制し、沖縄でも琉球語の使用を禁自他。外交では植民地にした朝鮮や台湾で同じことをやった。そして失敗した。これ程愚かな政策はない。国語というものは民族を成り立たしめている「核」なのだからこれをうばわれて黙っている民族などあろう筈がない。民族固有の言葉を使うなということは「文化の抹殺」だ。習近平は香港のみならず、此処でもバカぶりを示している訳だ。因みに「Mongol」とは伝説上の始祖「木骨ロ(門に呂)」に因む名で「勇猛な人」を意味する。その子孫がおめおめとこの愚策に従うとはとても思えない。

◯月◯日/米誌タイムが9月22日、恒例の「世界で最も影響力のある人100人」を発表した。日本人ではまず「先駆者」部門に伊藤詩織が入った。自身の性暴力被害を公表して日本の「#MeToo」運動を後押しした事がその理由。この部門では昨年大阪なおみが選ばれたが、その大阪が今年は「アイコン(あこがれ対象)」部門で選ばれ、連続リスト入りした。タイムの選択眼を評価せずにはいられない。これに関連して、「何故私がモレたのかしら」と安倍細君が嘆く戯れ句が新聞に投書されていたが、これには笑ったね。

◯月◯日/ タイムのリストアップによって、伊藤を「枕営業の失敗」などとおとしめた下司な杉田水脈ほか、大阪に対して「アスリートは政治を語るな」「お前それでも日本人か」などとSNSとやらで草していた卑怯な連中はさらに怒るか、落胆するかのどちらかだろう。何れにしてもタイムのまともな知見によるこの表彰が彼らの馬鹿者共の鼻を開かせてこれた事は正しいし、愉快だ。序でに一つ足す。先に大阪を褒めたビリー・ジーン・キングの名を出したが、このテニスの女王が1973年に「男性至上主義」を唱える元テニス王者から対戦を申し込まれた。男は満座の前でビリーを小馬鹿にするつもりだった。当時テニス界の優勝賞金が女は男の1/8という非道さだった。これを是正すべしとするビリーは男の挑戦を受けて立つ。この伝説の一戦を映画化したのが「バトル・オブ・セクシーズ」素晴らしい映画だ。見るべし〜

◯月◯日/9月19日、ルース・ベイダー・キングスバークが87歳で死んだ。愛称「RBG」で知られる米国至上2人目の女性最高判事だ。これは困った、ややこしい事になるなと思ったら、案の定妙な事になってきた。この人、1993年にクリントン(民主党)に指名されたリベラル派の代表格、つまり歴とした反トランプ派。米国の最高歳は9人の判事で構成されていて、目下の所、保守派(トランプ)5人、リベラル派4人だが「RBG」が死んだおかげでトランプが新しい判事に自派の人間を指名すると共和党6対民主党3となって構成が崩れる。

◯月◯日/困った事になったと言うのはこの点で、大統領戦を控えたトランプは1日も早く自分に味方する後任を決めようと動き始めた。これを止めるべく民主党も動き、又共和党も動き、又共和党の良心派たるマカウスキとかコリンズなども反対を表明している。この後どうなるか。ところで、この性差別の激しい米国で、法の下男女平等を主張して闘った「RBG」を主人公にした映画に「ビリーブ・未来への大逆転」がある.1956年24歳で既に子持ちのルースはハーバード大学法学部に入学する。学生500人中女性生徒は9人。おまけに呆れた事にこの名門大学には女子用のトイレもなかった時代だ。演ずるのはフェリシティ・ジョーンズ。映画の最後にはまだ存命だった「RBG」も姿を見せる。これ又見るべし。それにしても、安倍細君、片山さつき。とまあー名を挙げずとも、つまりは安倍やら麻生やら菅に連なる女性たちの質が劣っているのはどうしたもんだろう。

◯月◯日/実に変わった映画を観た。タイトルは「ザ・ブラ」つまりブラジャー。定年直前の機関士が運転中に突然目の前のガラス窓にどこから飛んできたのか青いブラジャーがへばりつく。機関庫へ戻った機関士はそれを自宅に持って帰り、定年後持ち主を探し始めるという筋。2時間余り、セリフ一切ナシ。身振りだけという所が変わっている。この貨物車が車庫を出て市外へ出るまでの道筋風景が又変わっている。つまり、向かい合っている家と家との間を抜けるのだが、これが貨物車のレールの幅しかない。

◯月◯日/そのレール上で、向かい合った家々の住民達がテーブルを持ち出してトランプをしていたり、洗濯をしていたりする。貨物車が来るのを見張る少年がいて、貨物車が現れると呼び笛を吹きながら貨物車の先を走って住民に注意をうながす。住民達は一斉に線路脇の各自の家に逃げ込む。この両脇の家並みがスラムなのか単なる下町なのか、皆目見当がつかない。

◯月◯日/不思議な所だな、どこの国かなと思いつつ、終わると、更におまけの制作余話があって、それによるとこの映画の舞台がアゼルバイジャンの首都バクーのシャンハイというスラムだと分かった。中国の上海ではない。政府はこの場所を国の恥として撮影許可も最後まで下りずで、現にこの映画の完成後に取っ払ったそうな。アゼルバイジャンバクーと知って驚いた。

 

 

司書独言(223)

20209.11寄稿

◯月◯日/Drone(ドローン)をカタカナ語辞典で引っっぱると、「定められたプログラムに誘導される無人飛行」とある。成程ね。そのドローンが白頭鷲に襲われて墜落する事件が8月初旬に起きた。飛ばしたのはミシガン州の「環境・五大湖・エネルギー局」(略して)「EGLE」。このドローン、ミシガン湖に水没して行方不明だと。因みに「ミシガン」は「アルゴンキン語(と言うのがあるらしい)でMIchi=大きい、gan=湖、でつまり「大湖」 続きを読む 司書独言(223)

司書独言(221)

◯月◯日/コロナ騒動で触れるのが遅くなったが、5月21日に画家の菊畑茂久馬(きくはたもぐま)が没した。85歳。私は「あんな本・こんな本」の2011年10月・11月の合併号でこん人の「天皇の美術ー近代思想と戦争画ー」(フィルムアート社1978年刊¥1,800)を取り上げたことがある。(第312回) 続きを読む 司書独言(221)