第213回 松浦武四郎と北海道出版企画センター

`03.4月寄稿

当館の館報「ひわまわり」の3月号に載せた「司書独言(ししょのひとりごと)」のNo.22で、私は「松浦武四郎」のことを書いた。

要点の一つは私が「松浦武四郎研究会」の会員で、3月21日〜23日に行われる研修旅行に参加するつもりであること。それは、研修旅行の目的の一つが、「国際キリスト教大学」のキャンパス内にある、武四郎一畳の書斎「草の舎()」を観ることで、私はこれが観たいが故に参加したい....と言うことだった。蛇足ながら、松浦武四郎〔文政元年(1818)〜明治21年(1888)〕とは?に先に答えておこう。

“幕末維新の探検家。エゾ地を北海道と命名した。伊勢生まれ。維新後エゾ開拓御用掛となるも、開拓判官を最後に退き、アイヌの人権擁護に務め、多くの記述を残した。

武四郎の著述の多くを出版しているのは、「北海道出版企画センター」である。これは昭和46年(1971)野沢信義さんが始めた会社だ。野沢さんは大正6年札幌で生まれて、長じて東京の厚生閣に入社した。これが現在の恒星社厚生閣の筈だ。

後に業界紙記者をしたりしたが、先述のように出版社を起こした。昭和51年には、「北海道文化奨励賞』を受けた。同社の社員安田君が私の所に現れたのは創業直後で、もちろん本を売りに来たのだった直接販売だったのだ。

同社の本は殆ど北海道に関係あるもので。それは文句なしにありがたい、が只高い。1万円を超える本が殆どだ。最初は何の本だったか忘れたが、理工系を優先する室蘭工大に入れるにはちょっと、無理な本だったので、随分と高かったけれども自分でかった。この後、安田君は市立室蘭図書館に寄ったが、それだけ高価なものは買えない、予算ナシと断られたと、後で聞いた。もっとも、大分後に、市立図書館も何ほどかは買うようになったらしいが。

好青年・安田君は、暫く頑張った後、東京の出版社に移ったので、逆に東京にいた野沢さんの息子が呼び戻された。この息子さんは出版界にいた人ではなかったらしいが、以後父親の業を助け、かつ受け継いで今に到っている。だから、私との付き合いも、もう30年近くになっている。

この人は、新刊書が何点かたまった段階でフラット私の所に来る。彼が言うには、登別→工大→市立図書館→伊達→函館市立図書館と5カ所回るそうで、このコースで同社発行の出版物を個人購入するのは私だけだそうだ。高価なのが原因で、本馬鹿でない限り手は出すまい、と、私自身そう思う。

思うに、「アイヌ文化資料集」などを初めとして、私は同社のものを90%は購入した筈だ。と言う訳で、繰り返すが、今では松浦武四郎の著作物は、大体皆この野沢さんの「北海道出版企画センター」から出ている。「松浦武四郎研究会」の事務局も、野沢さんの社内に置かれ、息子の野沢緯三男さんが事務長の筈。

高い高いを繰り返して野沢さんの商売の邪魔をしているようだが、これは実感だから仕様がない。ただし、この高いは内実の伴った高いであって、後世には、この社の出版物が備えてあるかどうかは、郷土資料室をもつ図書館の充実度をはかる目安の一つになるに違いない。それ程いい本ばかりを出しているということだ。

創業者の信義さんは、北海道に関する本を300点も出した後、平成6年には唯一の自著である詩集「あけがたのうた」を出した。私も戴いた。さて、その信義さんが力を注いできたのが、繰り返すが、松浦武四郎であある。息子さんの引率で3月21日に一畳の書斎を観に行くのが段々楽しみになってきた。

武四郎は、生涯240種にのぼる記録、日記、そして絵図を残したが、そんな人が一畳の書斎で満足出来るものだろうか。

しかしこれは、いわゆる凡夫(ぼんぷ)の疑ぐりと言うもので、孫の孫太(これは言葉遊びをしている訳ではないぞ)が言うには、武四郎は、「『自分は一畳敷きで十分だ。どんな華美な楼閣を築こうと、後の世にはどうなるか、分かったものではない』と言っていた。書斎の床には西行法師の幅を掛け、寝起きもこの部屋でして、夏には一畳敷き一杯の蚊帳を吊った」と。

武四郎についての本は色々あるが、その中、3点出してみた。子供向けも一冊ある。

吉田武三「白い大地1 」(さ・え・ら書房/1987年刊/¥1,200,なれど絶版、これもか!)である。吉田武三は永いこと松浦武四郎の権威で、「評伝」「拾遺」「増補」といわゆる武四郎三部作の著者。そんな大家が書いた本で、子供向けの点を気にしなければ入門書としていい。もっとも吉田は、一畳敷きの書斎の最後の場所(或は行方)を。三部作を書いた時点では知らなかった。時の経過でこれは致し方ない。

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更科源蔵・吉田 豊供訳「アイヌ人物史 リー(2002))) (松浦武四郎原著『近世攘夷人物誌』)ー原日本人からのメッセージ2 」(現在は「平凡社ライブラリー¥1,300/平凡社/2002刊」で入手可能)には、「〜太平洋沿岸・日本海沿岸を含めて気質の悪い所と言えば、第伊一に室蘭、第二に長万部、第三に虻田と言われている。〜これ支配人の人格に感化された面もあろうかと思われる」とある。ヤレヤレ。この本、武四郎の優れた人権感覚を知るために必読の本だ。「タンポポ文庫」の安藤薫さんは、人間の尊厳について考える時、直ぐに同書に思いを致す由。武四郎の人間性が一番分かる本だ。

松浦武四郎研究会編「北の視覚ーシンポジューム「松浦武四郎」ー3 」(北海道出版企画センター/1990刊/¥2,136)と花崎皋平著「静かな大地ー松浦武四郎とアイヌ民族ー4 ]」(岩波書店/1988年刊/¥2,800)*絶版。何でこんないい本絶版にすんのかなあ)も読んで、興味が高じて、野沢さんの所から出ている「松浦武四郎選集」にも手を伸ばしてくれたら、勧める私も本望だ。では修学旅行に言って来ます。

* 苫小牧の「おはなしオルゴール」主宰者・墨谷真澄さんは、一畳敷きのある国際キリスト教大学裏手にある「ルーテル神学大学」の出身で、「いつも国際キリスト教大学のキャンパスまで散歩していたのに、そんなのがあるなんて気付かなかった。口惜しい!!」と言う。「ウン、口惜しいだろうな!!」


  1. 吉田武三.白い大地.さ・え・ら書房 (1972) []
  2. 更科源蔵・吉田 豊供訳.アイヌ人物史.平凡社ライブラ(2002) []
  3. 北の視覚ーシンポジューム「松浦武四郎.北海道出版企画センタ(1990) []
  4. 花崎皋平静かな大地.ー松浦武四郎とアイヌ民族。岩波書店(1988) []

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