第224回 買春、売春を考える本

`04.2月24寄稿

今出たばかりの「近代帝国日本のセクシュアリティ1 」なる本を読みにかかっている。

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著者は中村茂樹。明治の政治家達の蓄妾(ちくしょう)問題から始めて、書名通り、近代日本が、帝国主義的植民地政策を押しすすめていく過程で、行った先々、中国やら朝鮮やら、台湾やらで、日本の男達が、現地の女性達に如何なる態度を取ったかを論じ、合わせて、日本にいた外国人と日本の女性との関わり方にも言及し、つまりは、男達の「性」に対する諸々を論難する...と言った趣の、すこぶる真面目な本で説得力満点の感じだ。因みにセクシュアリティ=Sexualityは「ジーニアス英和」では「(強い)性的関心」と訳されている。

「売春婦の社会史2

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明治、大正の大新聞記者で、「鉄仮面」や「巌窟王」や「噫(ああ)無情」を訳した黒岩涙香(るいこう)は,余りに筆鋒(ひっぽう)鋭く論じ、かつしつっこいので、諸人から「まむしの周六」と恐れられた、と言う話は有名だが,昔「弊風一斑(へいういっぱん)蓄妾の実例」を書いて,明治の高官達の私生活を激しく攻撃した。因みに弊風とは悪い習慣。周六とは涙香の実名。そして,この本は現代教養文庫に入ったが,発行元の社会思想社が昨年つぶれたので今はナシ。

さて,明治の政治家達はどのお方も妾をかかえるはおろか、妻妾同居(さいしょうどうきょ)なんてのもざらにいた(らしい)が、別に明治と時代を限らずとも、当代でも、山崎○○なんかは...ナンゾと言う何やらきな臭い話は止すとして、この本を読みながら私が思い出していたのは、昨年の9月(だったか)中国広東省珠海市のホテルに泊まった日本人団体客の、いわゆる「集団買春事件」だ。何でも、この時、日本企業の世話役は、パーティ―に300人の(一説には、500人とも)中国女性を集め、パーティ―開始前に売春費用についての説明会をしていた...と言うから、まあ、念の入った話だが、結果、売春行為をした女性185人に対して約380万円を一括で払ったと言う。

さて、これが表沙汰になって、中国外務省は「日本政府は、国民の教育に力を入れろ」といきまいたとか。

この事件で各紙は色々と論評したが、一紙だけが、私がいだいた感想と同じものをもらしてくれていた。それは、日本人のやったことは、弁護の余地はは毛頭ないが、それはそれとして、「〜一言だけいいたい。そもそも、なんで広東省はそんなに大勢の風俗嬢が存在しているのか。中国男性の教育も必要である。」云々。

この論で、私は20年もの昔最初室工大に来た中国人留学生2人の事を思い出した。上海と、北京からのとも40代だった男性だが、中国の事情を語る時に、北京の方は、断然きれいごとの建前論をしゃべるのが普通で、上海の方は、万事アッケラカンと現状を説明するのが常だった。で風俗事情となると。北京は「社会主義国の中国で、売春なんぞは絶えてない」と青筋たてて力説し、対して上海は「そんなことはない。上海には売春婦はゾロゾロいる。もっとも私には体験がないが」と北京をはねつけるのだった。

話が横道にそれたが、一体人はこの「売春」なる物について何を知り、何を考えているのだろうか。中国くんだりまで出かけて大勢でよってたかって、タクランケなことをした。この連中はそんなことは考えたことも又考える材料も持たないのだろう...と一人怒っても始まらぬ。「売春」はよくないことだと言うためには、知るべきこと、考えるべきことは沢山ある。その沢山のことを知る為に、これくらいは読んでみてちょうだい、と言う目的であげるのが今回の4冊だ。

ソルボンヌ大学の歴史学の教授アラン・コルバンの本は、公認された娼家があるフランスと言う国の19世紀後半から20世紀前半までの売春を扱った本で、少々難しいかも知れぬ。「娼婦3

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ブローの本は「売春は悪い、だが必要だ」と言うこれまでさんざん述べられかつ、容認されて来た思想に果敢に反論を述べているものだ。やはりちょっぴり難しいが、売春の何たるかを知るにはさけて通れぬ本だ。「売春の社会史4

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吉見の本はでもねえ他の国のことは、分かりづらい。それよりも自国のことを知りたいと願う人には入りやすい本だ。アルバートのことはアメリカの実情だがこれは、これで参考になる。

こうした本のあとで最初にあげた中村の本に戻れば....そして、それが又そんじょそこらの、下手すれば、タクランケ団体のおじさん族の一人になりかねないようなおじさん達が、心して読んで呉れると言う奇跡がおこれば、今の”援交”とやらも含めて事態も少しは変わって来るかも知れぬとは言うものの、今どきのおじさん達は本は読まんわな。

「公認売春宿5

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ところで、昔アムステルダムの有名な「飾り窓の女」...で私は忘れ得ない一つの光景がある。人種も様々な「窓の女」の前を通り過ぎていた時、或る窓の中で、ナント男親とおぼしき1人の男が、2.3才の男の児を連れて入って来て、男は手に、ワインのびんとバスケットをさげていて、すると女は、カーテンをしめるでもなく、そのまま男の児を自分のひざに抱き上げて、男はバスケットを開き、パンだ、ハムだと取り出して、ワインを注ぎ、そして3人は通りを行き交う人間を何ら気にせず、ナント和やかに(と思えたが)食事を始めたのである。

これは一家なのか...そうだとすると男の心理はと言ったものは?いや、将又子供は何なのか?と色々疑念が湧いたが、今に至っているも、脳裏にはっきり写るのは、楽しみに満ちた3人の表情で...月並みながら、思ったことは、あっ、ここにいるのはまぎれもない人間であって、売春婦でもヒモでもない。と言う事だったのだが、我ながら不思議な光景を見たものよ!!

  1. 中村茂樹.近代帝国日本のセクシュアリティ.明石書店 (2004) []
  2. 吉見周子.売娼の社会史.雄山閣出版; 増補改訂版版 (1992) []
  3. アラン・コルバン.娼婦.藤原書店(1991) []
  4. バーンボニー・ブロー.売春の社会史.筑摩書房(1991) []
  5. アレクサ・アルバート.公認売春宿.講談社(2002) []

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