第272回 ふくろう文庫ワンコイン美術講座

昨年7月から奇数月に「ふくろう文庫ワンコイン美術講座」なるものをやって、
この3月で無事5回めを終えた.最初から題目を並べると、7月①七夕と北斎の謎、
9月②お化けと妖怪—お化け・妖怪・幽霊の違いと、その絵画作品についてー、11月③切腹の画家・渡辺華山対脱獄の蘭学者・高野長英、1月④琳派−光琳から抱一までー、3月⑤悲恋に泣く岡倉天心・明治美術界の指導者、、、、となる毎回平均50人程の来場者がいてくれて、好評だった。


これを始めるに当たっての私の願いは,美術の楽しみを人々に共有して欲しいと言うことで、だから,教育的
授業的になることを極力さけて、聴いてくれる人が,コレクターにあらず、又芸大の学生でもないので、つまり一般大衆なので、、、先ずはその人達の興味を揺り動かし,興味を目覚めさせることを主目的として、その為には芸術論は殆ど省いて,画家とその画家が作り出した美術品の人間的側面を語ることに力点を置いた。講演に際しては
「ふくろう文庫」が所蔵している画集を使うことで、「今話している作品はこれです」と
示すことが出来て,幸いだった。作品を見せるのはそれで済んだが,芸術家の人となりや,思想遍歴や,家庭での
生活やとなると、自分が今迄蒐め読ん来た本が,矢張り一番のたよりだった。
毎回4、50冊の本を再度チエックし,と言うのはいずれも,かつて読んだ本であるから,それを
全部初めから終わり迄読み返すことはかなわぬので,記憶を掘り起こしつつ,必要な箇所をチエックした訳。チエックし終わって必要な本は全部会場に持ち込んで,本を提示しながら説明した。こうして我が家の書庫を出たり入ったりしながら思ったことは、まあ見逃していた本、買い逃していた本と、穴がないでもなかったが、
どのテーマにも必要な物の主たるものは揃っていて、「あー読んできてよかったなあ」と言うことだった。その際
役に立つのは,評伝・研究書は勿論のこと,各種展覧会の図録が大いに役立った。昔の図録はどちらかと言うと
作品を(それも白黒で)載せるだけのものが多かったが、ここ20年間程のものは,大体において,最新の情報を含む文献一覧がきちっと付いて、大いに助かる。目をこらして見て、まだ持っていない、読んでいないものは、探して入手出来るものは入手すればいい訳で、、、、しかし、図録でも本でも、出た時、展覧会が行われた時に、直ちに知って、入手するのが一番いい方法で、怠けて見逃し・見過ごしばかりしていると、あとで集めるのが大変だ。、、、で、これも展覧会そのものには行けずとも図録だけでも、と集めて来たのが大いに役立った。
展覧会の殆どは東京、大阪で開かれるので、この両都市の人は行く気になれば苦労は無かろうが、どれにも出かけて、どれの図録も買うとなれば、大変な出費をすることになるだろうから、その点地方にいて、フトコロと相談しつつ、どうしても必要な図録を集めている方が無難かもしれぬ。今回は、そう言う訳で図録に目を向けて、最近のものを紹介することにする。
先ずは①出光美術館で開かれた(2008.1/9-2/17)「王朝の恋-描かれた伊勢物語」。これは恒武天皇の孫であり、同時に又すぐれた歌人だった在原業平を、モデルにした物語で、平安初期から読み次がれて来たものだ。出品されたのは約70点で、和泉市の久保惣記念美術館所蔵で重要文化財の『伊勢物語絵巻』をメイインにして,宗達や光琳、酒井抱一などの作品が並べられた。この図録は4回め「琳派」の時に役立った。と言うのは,私は琳派のことににふれるのに、数年前に書かれた「LIMPA」展の際にもたれた「LIMPAの国際シンポジュウム」の討議事項の中から、琳派のヨーロッパへの影響を論じた点を紹介して,ウイーンから来た学者が,グスタフ・クリムトの有名な「接吻」なる名画の構図は,俵屋宗達の「伊勢物語図色紙」の中の「芥川」に影響されたものだとすることが出来たのだ。
②は川越市立美術館での、「没後100年橋本雅邦展」で、この大規模な展覧は18年ぶりとの事。雅邦は川越藩の絵師の子として生まれたけれど,幕末維新の際には、日本画が全くすたれたから、折角狩野派を学んだのに、生活は困窮を極めた。その混乱・困苦の中で妻とめは発狂したのをみても生活の悲惨さが創造出来る。
彼をその窮地からすくったのはかのフェノロサで、その因縁で彼は後に、岡倉天心と日本美術院を創設する。今は
重要文化財の「黒き猫」を描いた菱田春草の卒業作品「寡婦と孤児」を図案科教授の福地復一が「こんなのは絵じゃない」とくさした時、かばったのは雅邦だが、あとで天心についてナイコトナイコトを書き連ねた怪文書を作って
世にバラマキ、天心失脚の原因を作ったのもこの福地だ。ナイコトナイコトを告げまわる奴の心根もいやしさ!!。
この図録は「⑤悲恋に哭く岡倉天心」の講座に有益だった。
③は神奈川県立近代美術館(葉山)での「誌上のユートピア・絵画と美術雑誌の交感1889-1915」展の図録で、世紀の転換期に生まれた美術雑誌と同時代画家達との影響関係を探ったスコブルありがたい図録。私は殊にも、
琳派の末たる神坂雪佳」を楽しんだ。
④は、今や、世界の河鍋暁斎と、今では消滅した「書画会」なる美術鑑賞の場とを見せ論じたもの。第2期のワンコイン美術講座では,暁斎も取り上げたい画家だ。図録は高いが,それだけの価値はある。いつも図録入手に協力してくれる墨谷さんに多謝!!。

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