昨年5月、義母を伴っての上京中に、上野の国立西洋美術館で、「聖なるかたち-後期ゴシックの木彫と板絵-」展を観ました。ドイツのアーヘン市立ズエルモント=ルートヴィヒ美術館所蔵のものです。
14世紀から16世紀初頭にかけて、ドイツとネーデルランドで生み出されたカトリック美術を蒐めたものですから、言うまでもなく、木彫55点、板絵21点、石彫1点、の全てが、これ、キリストや聖母、聖人達の像ばかりです。
義母は禅宗で、キリスト教については何の知識も持ちませんし、足が弱っているので、興味なかろう、疲れてつらかろうと思い、悪いけれど入り口で待ってもらおうと思いましたら、意外や、観たいと言います。
そこで、車椅子にのせて一巡となりました。ところが義母にとっては全てが奇妙で不思議なものに見えたらしく、しきりに説明を求めるので、わかるかぎりの説明をしたところ、これ又、意外なことに、大いに興味を示すのでした。
さて、事は仏教美術でも同じでしょうが、キリスト教の知識がなければ、キリスト教美術の理解は容易ではありません。
美しいもの、崇高なものは見ればわかる・・・と言うのも理屈ですが、描かれている人なり、物なりが「何を表はしているのか」の約束事を知らねば、理解が半端になります。
むずかしく言うと、「キリスト教図像学」なる知識が必要なのです。
そして、この「図像学」なるものに関する本、事典は迷うほどに色々あるのですが、代表的と思われる2点を実際に見てみましょう。
例として有名な(と言っても禅宗の人は知らぬかも・・)「最後の晩餐(ばんさん)」の図をあげます。読み、かつ見くらべて下さい。
(1)1は、J.ホール著、高階秀爾監修訳「西洋美術解読事典」で河出書房新社、’88刊¥3,900・・・但し、現在は絶版です。
この本、原書には挿図が一切ありません、と言うのも、J.ホールが言うには特定の絵から読者が固定的なイメージを抱いてしまうことを恐れるから・・・つまり、たとえば十字架上のイエスのイメージは読者が個々に持てばよい・・・と言うことなのですが、それではそれこそ話が見えて来ませんから、邦訳者の考えで約200点の図がつけられました。これはとてもありがたい配慮ですが、いかんせん解説の文章がこの調子ではいささか面倒くさいという感じがします。
(2)2は、柳宗玄、中森義宗編「キリスト教美術図典」で、吉川弘文館’90刊¥8,800です。
これは実に26年がかりで出来たもので、484p.挿図700点という大冊にして労作です。J.ホールと違って、編者は各図像の祖型を示す作例を可能な限り蒐ています。
そして解説文も読みやすくわかりやすい。唯一の難点といえば価格です。これでは一般の人には仲々手が出ません。
まあ、(1)(2)とも図書館で・・・ということになります。
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さて、(3)3です。視覚デザイン研究所編刊「マリアのウインク-聖書の名シーン集-」’95刊¥1,800この本が類書中、私が一番感心した本です。
私はこの本、画期的ないい本だと思います。「~別れのディナーで問題発言」などというと、謹厳な聖書学者はまゆをひそめるかも知れませんが、歯切れの言い分わかりやすい文章がいい、図も豊富で、解説が的確無比で、価格が妥当・・・よって、おすすめする次第。これ、携えて美術館に行くべし!!・・・・と言うことになります。
名画にどんどん矢印やら丸印をつけて、これのおかげで一目瞭然、かと思えば「三位一体って何だ?」として、「三重神格?~二十数人のビリーを理解するよりもはるかに難解~」と、関心、疑問のあり場所、が限りなく一般の人の目の高さにあるのがいい・・・と、感心していてはきりがない。
夏休み、楽しんだでしょうか。次回は’95.9.14(木)とします。それでは、又。