第386回(ひまわりno202)男色の系譜、三島、江戸川乱歩、岩田準一

平成30年3月寄稿

先日千歳のホテルで、私としては珍しく遅くまでテレビを観ていた。丸山明宏(今は美輪明宏)が出ていて、若いタレントに昔話をしていた。今81歳というから、昭和11年か12年位の生まれか?

私は丸山(美輪)について何程の知識も持っていないし、左程の関心もない。土台占いなるものを私は好まないので、それをやるらしき丸山(美輪)を、その点において好きでない。只、この人を評価する事が1つあって、それは美輪が判然とした反戦論者である点だ。もう一つ、私が評価するのは、例の「ヨイトマケの歌」。これ、昔はNHKで放送禁止歌の一つにされたらしいが、そのNHKに嫌われたという事だけでも、私は美輪を骨っぽい男(?)だと見做す。

実は私は、美輪を1mも離れぬ場所で見た事がある。大学2年の時だと記憶するが、厳島の対岸にある町から出て来た公子と2人で銀座を歩いていた時、「銀巴里」なる店の前を通りかかって、その名に魅かれて、地下にあるその店に入った。そこそこの広さの部屋に小ちゃなステージがあったと思うが,或いは床だけだったかも知れない。

今でいうワンドリンク付きでいくらだったか、オレンジジュースを頼んだ覚えがあるが、値段は忘れた。かけそばが1杯25円の時代だから、200円位かも知れぬ。とにかく一番前に座って待っていると、小柄な細い全身黒ずくめ....黒いタイツに黒い丸首の長袖シャツ(立ちカラーのオープンシャツではなかった筈)...そしてマリア•カラスを男にしたような、鋭い輪郭の顔の若い男が現れた(もっともマリア•カラスは元々どちらかといえば男顔だから、男にしたようなは余計か)。

さっき細いと言ったが、この若者はスリムを通り越して、あばら骨が見えるかと思う程に細かった。そしてこのマリア・カラスが唱い始めた。私は鼻炎を患っているような声に聞こえたが、とにかくその声で身をくねらせて唱ったが、その曲が何であったのかは記臆ナシ。どれ程の時間いたのかも、このあと誰が出たのかも、同様に記臆ナシ。とここまで書いて断っておかなきゃならぬが、この時私は「銀巴里」についても、この若者についても全く知識がなかった。暫くして、この店がシャンソン専門(ライブ)店で全黒ずくめの若者は丸山明宏なることを徐々に知ったのだが、そのあとに今店を再訪することもなかったし、丸山が美輪に変わったことも全く知らなかった。とは言え、時々新聞や雑誌に出る彼の情報くらいは、目には止めていたが。

さて、ホテルのテレビに戻ると、美輪は「銀巴里」に来た客にも触れて、すると後ろの壁に、川端、三島、そして江戸川乱歩の顔が大写しになった。それを観つつ私は成程と合点しながら、美輪とは離れた事共を思い浮かべていた。それは....、川端は知らず、美輪、三島、江戸川乱歩は「男色者」の系譜だ。で、この系譜で思い出すのは岩田準一だ。岩田準一(1900−45)は、三重県鳥羽の裕福な雑貨商の息子で、画家、男色研究家、そして民俗学者だった人だ。絵の師匠はかの竹下夢二で、準一は師によく似た画を描いた。画集も出ている。男色の研究では先学者たる大学者、かの南方熊楠に教えを受けた。民俗学者としては、渋沢敬三の自宅にあった「常民文学研究所」に席をおいて志摩の海女についての研究を物している。準一は同性愛についても関心があり、日本の文献を集めていた。

一方,三重は伊賀に生まれた本名平井太郎こと江戸川乱歩は、早稲田を出てから鳥羽にある造船所の事務員をしていた。準一より7つ上の太郎は或る時準一の絵の個展を見て準一に近付く。その後太郎は上京して作家となり、準一も上京して文化学院で学ぶ。二人は互いに同性愛について興味を持っている事に気付き、昭和2.3年から同性愛の文献を集め始める。準一の集めるのは日本の文献のみ、太郎は外国物にも手を伸ばし、結局昭和18年頃に、自分の集めた分を全部準一に渡した。結局準一は2冊の大著を残した。今私の前にあるが、「男色文献書志ー附男色異称集(男色用語辞典)」と「本朝男色考1 」がそれ、この2冊、準一の息子(と思うが)岩田貞雄が出した限定版で、私も昭和48年貞雄から直接購った。

一方準一と南方熊楠との手紙による男色談義は約180通あって、

それは熊楠の全集に所収。太郎と江戸川乱歩は「本朝男色考」は「孫引きの一つもない、忠実無比の同性愛文学史として、実に珍重すべきものである」と評価すす。

従来、男色は我が国では僧空海が最初と言われたが、準一はこれを否定して、我が国の史書に出てくる男色は、「日本書記」第9巻の神功皇后記、摂政元年の「阿豆那比(あづない)の罪」と言うのがそれだとする。

「江戸の色道2

「ホモセクシャルの世界史3

それはともかく、三島も江戸川乱歩も、銀座に丸山なる、稀なる「美童」が出現した事を知って,喜々として「銀巴里に」通ったことだろう。と言う訳で、テレビの美輪が得意気に「三島さんも、乱歩さんも〜」と語った事をいい機会に、普段は紹介することのきっかけがない男色関係の本を出しておこう。

因みに、「男色=なんしょく」=①男同士の同性愛=鶏姦(けいかん)=衆道(しゅうどう) ②=男色を売る若者=かげま」(大辞林)。かげまについては、花咲一男「江戸のかげま茶屋4 」(三樹書房/平4)なる研究書がある。

「ホモセクシャル=①同性愛②(特に男性の)同性愛者。

「ゲイ」=gay=gay boy(原語は明るい陽気な)=男の同性愛者=おかま」(カタカナ新語辞典/学研)

今の「LGBT」は①レズビアンのL、 ②ゲイのG、③同性も異性も好きのバイセクシャルのB、④Tは生まれた時の体の性別と違う性で生きるトランスジェンダー」。4つ合わせて「性的少数者の総称」だ。

 


  1. 岩田準一.本朝男色考.原書房(2002) []
  2. 蕣露庵主人.江戸の色道.葉文館出版(1996) []
  3. 海野弘.ホモセクシャルの世界史.文藝春秋(2005) []
  4. 花咲一男.江戸のかげま茶屋.三樹書房(1992) []

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