第159回 ウサンクサイ名作と、バートランド・ラッセル

`00.2.18寄稿

「ビルマの竪琴」それに「コタンの口笛」両者とも名作とされて久しいが、私はこの2名作を読み終えた時に、奇妙な感じを受けた。各々、色々感じたの

だが、奇妙な感じと言うのは、この2作に対して一致した感想が一つあった、と言う意味である。その一致した感想とは、一言で言えば、この2つなんとなく「ウサンクサイナ」などと言うものであった。

その感じを余り深くは考えずにいて、暫くして、私は上野英信の「天皇陛下万歳−爆弾三勇士序説−1 」を読んだ。

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するとその中に、「コタンの口笛」の作者、石森が、戦中に、国定教科書の作製にたずさわっていて、それも、一種の検閲官めいたような仕事をしていた言々の記述があった。「ハハア、これがウサンクサイ」の素だなと私は思ったが、又暫くして、私は、当の石森の話=講演を聞く機会をもった。それは、前日に、人類が初めて月世界に降り立った時で(と言うと、何年前になるのだろう)石森は当然のように、その話から始めた。この講演会は、そもそも室蘭にある「文化女子大学室蘭短期大学」が、何か集中講議のようにして開いたもので、たまたま日高地方にマンローの調査に来た帰りの石森が出たと言う形のものであったようだ。

石森は人類が初めて月面に立ったことの意義を生涯ロマンにあこがれて来た(と私には思える)人らしい感傷の味付けで話した。この時にも私は「ウサンクサイ」、ものを感じた。

と言うのも、丁度、その頃、私は英国の思想家、バートランド・ラッセル2 を読んでいて、彼の「宇宙開発は、むしろ軍事的な面で悪用される恐れなしとは言えぬ」と言った主旨の論にうなづいていたので、石森程にロマンチックにこの月面到達を喜べぬ気持ちでいたからであろう。

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話は一寸変わるが、或る年、全国図書館大会が札幌で開かれた。大学図書館は余りこの種の大会には顔を出さぬのだが(その年は旅費でも余っていたのだろう)私が行かされた。主講演は宇宙から戻って来たばかり、(或いはこれからかも)の毛利氏だった。毛利氏は開口一番「今日お集りの皆さんは、司書と言うことだが、皆さんは死んだ知識を盛った書物と言うものを扱っている。それに対して、私は、今、現在、生きている知識を扱い、それに触れている、皆さんも生きた知識を相手にするようガンバッテ欲しい」と言うようなことを言った。

「死んだ知識を盛った書物」だと!!この前代未聞の見解に私は呆れたが、おかげで宇宙開発なるものに更に大いなる異和感をいだいた。話を元に戻すと、私が石森の話を聞きながら、一番気になったのは、その「つめたい目の光」であった。年をとって疲れていたのだろうが、何も感動してない人が感動したような素振りで話をしている異様さ・・・。石森は、そのあと日高、二風谷でアイヌの医療にあたった英国人マンローについて語り、時過ぎて「梨の花」と言う創作とも伝記ともつかぬマンローについてのつまらぬ本を出したが、

さて、本題である。それは、私が感じた石森の「ウサンクササ」は何に由来するものか・・・それを説き明かしてくれたのが 「皇国の姿」を追って3 である。戦中戦後、石森が如何に変わらなかったか、(無論、良い意味ではない)つまる所したたかな文部官僚=文部省図書監修館であった(とみえる)石森の実の姿が目に見えてくる。ウサンクサイ著だ。

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この本、小説や童話を読むような具合は、スラスラとは行かぬだろうが、第一部の「石森国語の成立と満州」だけは、石森先生大好き!!の幸せなお母さん達に是非読んでもらいたい。

次は新潟の女性監禁事件。「PTSD=心的外傷後ストレス障害4 」なるものが問題になっているが、 強姦の歴史 には「心の傷」として「彼女(たち)の中で非常に重要な何かが殺されたそれは自分には価値があるという感覚、自分についての認識、女性としての存在・・・」なる言葉が出てくる。新潟の男は、現行法では5年以下の刑と言うが男女を問わずこの本も読んで欲しい。

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給食のトマトから 「トマトが野菜になった日」5 」 について語るつもりが紙幅が尽きた。まあ、食べて、いや、読んでみてください。

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  1. 上野英信.天皇陛下万歳−爆弾三勇士序説.筑摩書房 (1989) []
  2. バートランド・ラッセル.ラッセルのパラドクス―世界を読み換える哲学.(岩波新書 新赤版) []
  3. 磯田一雄. 皇国の姿を追って.皓星社(1999) []
  4. 金吉晴他.PTSD=心的外傷後ストレス障害.星和書店(2004) []
  5. 橘みのり.トマトが野菜になった日.草思社(1999) []

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