山下敏明さんのあんな本、こんな本

第318回 新聞の切り抜きより、

2012.4月寄稿

今回は新聞の切り抜きを整理していて、これはあの本に挟もうと思ったものの中の2.3に付いて書く事にしよう。時、日関係なしに挙げていくが、まず第一は盲人のこと。私は拙著「本の話」の第86回(1992年5月12日付)で「盲人岩橋親子の業績」と題して「社団法人日本ハイライトハウス(=灯台)と理事長の岩橋英行、それに父親の武夫のことに付いて語った.武夫は盲人ながら妹しづの協力で、これ又、緑内障で失明した英国人の詩人ジョン・ミルトンの詩についての「失楽園の詩的形而上学」なる一書を物した大変偉い人だ。しづは後、英文学者で詩人ブレイクの研究と、和紙の研究で名を成すことになる寿岳文章(じゅがく・ぶんしょう)の妻になる.武夫と文章は友達だった。

さて、この盲人について、過ぐる3月20日、私には全く初耳の事が新聞に出ていた。

それは、NHKエンタープライズで発表されたラジオドラマ「空の防人」にまつわる話しで、戦時下の視聴覚障害者を主人公にしたドラマ....これ、芸術祭ラジオ部門優秀賞受賞の由。

作者の川野秀昭によると、きっかけは愛知県図書館で見つけた昭和17年2月の新聞記事「盲人を聴音兵に、県盲校長嘆願書」だと。これは盲人を「聴音兵」として志願従軍させてくれと言うもの。

ついで又、18年12月の岐阜の新聞には、「〜生徒の熱心なる希望から、岐阜盲学校では盲人も監視哨員に採用されるようにと〜再び県当局に採用方を陳情した〜」との記事を見つけた由。思うに目の見えない分、耳が鋭くなっている盲人特性(?)を生かしての発想だったのだろうが、これ全くの初耳だ。戦時中は日本軍でもアメリカ軍でもアイヌやらインディアンやらを、そのハンターとしての能力を評価して、斥候兵(せっこうへい)などに採用したとの話しは知っていたが、太平洋戦争中に「兵士になれない者は役立たず」との考えの下に、全盲の者は差別されていた訳で、川野はその辺を「弱い立場の者が愛国心を訴える」ためだったのではないか?と、とらえる。

私はこの記事を読んであわてて本棚から盲人関係の本を取り出して当ってみたが、この事、いずれも一行も出てなかったので、この切り抜き貼付した.筆者達もきずいていなかったかもしれぬ。「盲人の生活 1

「盲人の歴史2

次に、昨年12月5日の記事。

アメリカウィスコン州で、11月22日、85歳の1人の老婆が死んだ。ラナ・ピータースさんと言っているが、私思うにこの人、実は1926年生まれのアリルエーク・スヴェトラーナの娘。1967年にソ連から亡命し、私の記憶に違いがなければ、過去4度結婚歴がある筈。

アメリカの発表によると、昨年のインタヴューで、「私はどこに行っても、父の名を背負い続ける政治的とらわれの身だわ」と発言した由。

母親のナジェージダ・アリルエークはスターリンと結婚した時、まだ16歳だった。ナジェーダの父セルゲイは革命運動家レーニンなどをかくまった人で、スターリンとも旧知だった。

このナジェーダは1932年11月8日の晩、ピストルで自殺した。原因については諸処言われているが、スターリン研究の第一人者、アイザック・ドイッチャーの「大粛正・スターリン神話3 」(大島香織・菊池正典訳/TBSブリタニカ/1985年刊/¥1,200)巻末の「本書中に登場する被粛清者一覧」の筆頭に、このナジェーダの名があると言うことは、自殺は自殺でもスターリンによって殺されるに等しい扱いを受けた結果の自殺と見た方がよかろう。

と言うのも、スターリンの同志達が「自分の近親者を手荒く扱っている」と抗議した時の、スターリンの答えは「俺の親戚も同じように容赦なく扱っている」だったからだ。

現にスヴェトラーナが作家のアレクセイ・カプラーと3度目の結婚をしたときも、スターリンはスヴェトラーナに「カプラーが作家だって!?なに抜かしやがるんだ!まともなロシア語も書けないクセに!お前もお前だ、なんでロシア人をモノにできないんだ」とののしり、ユダヤ人カプラーは結局、強制労働5年を宣告されて、スヴェトラーナと引き裂かれたのだ。

スヴェトラーナは父スターリンについて、「彼は全ての人間的な情というものを忘れてしまい〜」と言う。そんな表現がなくとも、父の建てた理想国家(?)を捨てて、敵国たるアメリカに亡命する娘の心情を思いやれば、スターリンとその国家とが人間的であった筈がない。「スターリンの大テロル4 」(岩波、1998年刊)の著者O・フレヴニュークは、序文で「ソ連における“大テロル”大量弾圧については、すでに数千もの著作が書かれた〜」と言っているが、おかげで私は書棚にも、スターリン関係が60冊程ある。

中で他に比肩するものなしの好著とされるアイザック・ドイッチーの二段組270頁の大著「スターリン5 」(上原和夫訳/みすず書房/1984年新書版)には、スヴェとアラーには一行も出て来ないので、私はこの死亡記事、「スターリンの恐怖政治6 」(三一書房)のスタンフォード大学の世界的ソ連研究家ロバート・コンクエストの本に貼ることにした。

次はいささか旧聞に属するが昨年2月28日の「作家・”綴方教室”豊田正子さん死去88歳」の記事。話しをちょっと変えるが、1973年に江馬修(えまながし)の「山の民」が北溟社から出た。この作品、大岡昇平によって「〜”山の民”を戦後維新史研究の最大の成果と認める」と評価された大作で、長いこと出版が待たれていた。初めて聞く出版社なので、電話をかけてみると、「君島ですが〜」と出た人が、私に言うには「貴方も御存知のように江馬さんはあ〜言う人ですから〜」と、江馬を難ずるのだ。全然ご存知ない私は、訳がわからずに只聞いていたがー、あとで分かったのは、電話をかけた先は「君島医院」で、そこ江馬が入院している中に、君島院長と江馬が意気投合して、院長の出身校たる旧制弘前高校の「北溟寮」の名を取った出版社を立ち上げ〜ところが本来勝手気ままな作家と院長とが仲違いして、ということだった。...で話しを元に戻すと、この作家、妻子ありながら、先の豊田正子と同居生活を続け、最後にはその妻子と豊田と江馬と関係も何も知らぬ、年齢差53の文学少女と恋をして、妻子・豊田両者を捨て...で老齢となり、君島に入院し...となる。で、その小娘が自分と江馬と豊田の修羅の生活を描いたのが、表紙に掲げた天児直美の本、と言う訳。「本の話」だい14回(2001.4.24)も併せて読まれんことを。「炎の燃えつきる時7


  1. 大隈三好.盲人の生活.雄山閣出版(1998) []
  2. 谷合侑.盲人の歴史.明石書店(1996) []
  3. アイザック・ドイッチャー.大粛正・スターリン神話.ブリタニカ(1985) []
  4. O・フレヴニューク.スターリンの大テロル.岩波新書(1998) []
  5. アイザック・ドイッチー上原和夫訳.みすず書房(1984) []
  6. ロバート・コンクエスト.スターリンの恐怖政治.三一書房(1976) []
  7. 天児直美.炎の燃えつきる時.春秋社(1985) []

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