第389回(ひまわりno205)東洋陶磁美術館、 南蛮美術、「否定と肯定」

2018.7.16寄稿

昨年春、建築家の西方君夫婦らと奈良、京都、大阪の美術館巡りをした。西方君の仕事仲間で、大阪に事務所を構える天野さんの車で動いたので,迷うことなく、すこぶる効率よく、6、7館も見る事ができた。

最後に寄ったのは「大阪市立東洋陶磁美術館館」。「曜変天目茶碗(ようへんてんもくちゃわん)を観るためだこの茶碗、現存が確認されている3点共国宝。ところが、例の「〜なんでも鑑定団」とやらに、徳島のラーメン屋の主人が、自分の曽祖父が戦国武将、三好長慶(美好町系)の子孫の屋敷移築を請け負った際、買い受けたものとして持ち込んだ茶碗を、例のチョビヒゲの鑑定師が4点目の国宝だときめつけて話題となった・・・はいいが、この後、中国の◯◯地方(忘れた)土産屋のオバサンが、あれは私が作って1500円程度で売ったものと名乗り出、これを四国の天目研究家が認めて...さて、どうなることやら?私は、あれはラーメン屋が土産に買ってきたラーメン丼だと思う。まあ、それはともかく「「東洋陶磁美術館」には、かの「安宅(あたか)コレクション」が一括して収まっている。これは言わずと知れた商社の「安宅産業」が社運を危うくしてまで蒐集した東洋陶磁の名品の一群。現に安宅は倒産してしまったが、この時このコレククションの散逸を恐れて、それを防ぐべく市の一括取得を大阪市長に進言して、このコレクションを救ったのは教育委員長だった北村芳郎だ。この人何者かと言えば、大阪中津で「南蛮文化館」なる私設美術館を営む人。元中津一帯の大地主の子孫。

京都大学在学中兵隊にとられ満州に行っている間に大阪空襲で家も家族も失った悲運の人。戦後は土地改革のあおりを受けながら事業を始め、40歳過ぎてから南蛮美術品の収集を始めた.因みに南蛮美術とは、安土桃山時代から江戸にかけてポルトガル、スペインなどから渡米した、またそれを日本人がまねて描いたい異国風の絵画、芸術品のこと。今では250点を収蔵する「南蛮文化館」だが、その収集運営にあたって、北村が参考にしたのは池長猛(はじめ)だと言う。ではこの池長とは誰か。今「神戸私立文書館」となっている「旧池長美術館」と共に全資産を投じて集めた南蛮美術の全てを神戸市に委譲した人だ。私は昔、此処で平賀源内の「西洋婦人像」を見たことがある。池長の全コレクションを受けるに際して、市長にその価値を訴えて実現したのは、当時市経済局長の宮崎長雄。安宅コレクションを散逸させるなと市長に訴えたのは先記の如く教育委員長の北村。この2人の意を理解した大阪、神戸の両市長もえらい...役者が揃わねばこの2大コレクション散る所だった.いずこの市の市長も教育委員会の面々も学ぶべきことではなかろうか。高見澤たか子の「金箔の港〜コレクター池長猛の生涯ー1 」を多くに人に読んでもらいたい。今秋中津の「南蛮文化館」へ行く心算だ。

栃木県立美術館での「国吉康雄と清水登之(とし)ーふたつの道〜」展が6月中旬に終った。2人共20世紀初頭渡米した人。国吉康雄について私は2006年(平24)9月22日に、「第28回ふくろう文庫ワンコイン美術講座」で「哀愁の社会派画家、国吉康雄ー日米の架け橋として活躍した画家」と題して語った。国吉も清水も人種差別にさらされた。なにしろ、太平洋戦争中の米大統領トルーマンは「日本人は人間ではなく獣(けもの)だ。だから私は原爆を落とした」と公言する程の、それこそ獣。その獣が国吉の「休んでいるサーカスの女」について、「あれが芸術なら、私はホッテントットだ」と言うのだから、トランプといい勝負。しかしホッテントットは蔑称だから、トルーマンは自分で自分をさげすんでいることになる。並の知識人ならこのアフリカ南西部のナミビアに居住する遊牧民族の正式名はコイ.コイ(Khoi  khoi)でこれは「人間」と言う意味だと知っている筈。これはアイヌが「人間」と言う意味と同じことだ。(萱野茂のアイヌ語辞典)

「アメリカ美術と国吉康2

ー一方清水登之も自伝で「〜日本人はひどく排斥され~町に遊びに出るには石の礫を覚悟しなければならなかった」と書くように国吉同様差別された。アメリカで暮らして画家として成功したのに市民権を得ることが出来なかった国吉。日本に帰って太平洋戦争中いっ時、軍部に協力せざるを得なかった汚点を持つ清水、清水には学徒出陣した長男が戦死すると言うおまけが付く。「ふくろう文庫」にはこの2人の大部な画集がある。「アメリカ・ファースト」を唱えるおろかなトランプの下、未だに人種差別の火が消えぬアメリカと言う国に関わっていながら、アメリカ美術史に名の載らないこの2人の生涯を通じてアメリカについて考えてみるのも今必要でなかろうか。

私の本棚に阿部良男の「ヒトラーとは何者だったのか?ー厳選220冊から読み解くー」(学研M文庫2008年刊)がある。これは1995年に「ヒトラーを読む3,000冊」を出した阿部がその後集めた本も加えて、その中から文字通り厳選した220冊を並べたもので、私も大体読んできたが、今回これに是非加えたい本が出た。アメリカはジョージア州エモリー大学の教授でユダヤ学研究所長のデボラ・E・リップシュタットの「否定と肯定ーホロコーストの真実をめぐる闘いー3 」がそれ。

イギリスににディヴィット・アーヴィングなる歴史学者がいる。歴史学者と言ってもこの男、修正主義者で、つまり、ヒトラーはユダヤ人を虐殺してはいない、アウシュビッツにはガス室はなかったetcと言う立場の男だ。デボラは当然のことにこのインチキ学者を自著の中で否定する。すると厚かましくもこの男はデボラを名誉毀損で訴える。で、受けて立ったデボラは...その裁判闘争の一部始終を記録したのが本著。そして、グレイ裁判官の判決は「〜アーヴィング氏の史実の扱いは歪曲と間違いがひどすぎて、〜氏は意図的に史実を歪曲して、自分の政治信念に合う形にしてきたのです」で、インチキ学者の完敗だった。全581Pの本書を読む気力のない人はせめてデボラ役=レイチェル・ワイズの映画「否定と肯定」をDVDで観られんことを!!

画家香月泰雄、彫刻家佐藤忠良と並んでシベリア抑留組芸術家3本柱の一人たる宮崎進が亡くなった。多摩美術大美術館の名誉館長だった。宮崎は書く。「私たちにとっての”戦争とは何か”という問いは”人間にとって戦争は何か”という思いに変わり、そのことを離れて仕事をすることはなくなていった」。追悼の意で私の好きな

「鳥のようにーシベリア記憶の大地〜4 」を出す。

付け足し1つ、「ふくろう文庫」に「安宅コレクション東洋陶器名品図録」なる大冊がある。


  1. 高見澤たか子.金箔の港〜コレクター池長猛の生涯ー.筑摩書房(1989) []
  2. 山口泰二.アメリカ美術と国吉康.NHKブックス(2004) []
  3. デボラ・E・リップシュタット.否定と肯定ーホロコーストの真実をめぐる闘いー.ハーバーブックス.(2017) []
  4. 宮崎進.鳥のようにーシベリア記憶の大地〜.岩波書店(2007) []

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