第394回(ひまわりno210)「レバノン杉のたどった道」「海を渡る蝶」「権力と新聞の大問題」「右翼の戦後史」

2018.12.8寄稿

紀元前3,000年シュメール人による都市国家を中心に栄えた文明をメソポタミア分文明と言うが、その文明で生まれたものの一つに「ギルガメシュ叙情詩」(邦訳あり)があって、その中に「彼らは山から下りて来て香柏(こうはく)を切り倒した」なる箇所がある。

香柏とはレバノン杉で、杉の名がついているけれど植物学的にはマツ科の針葉樹だ。この杉は高さ40m、幹回り10mにもなるから、大石造建築には欠かせぬ梁材だった。後のフェニキア人達はこれで外洋船を造ったし、ローマ時代には軍船の材料になった。レバノン杉は聖書にも登場するが、それはソロモン神殿の建材に使われたからだ。ちなみにこのソロモン王は、レバノンの森を最も破壊した人物で、つまりは13年かけて出来上がったソロモン神殿はレバノンの森の死を意味したと言ってもいい。この杉はまた、エジプトでミイラの腐食防止のための精油を作るのにも使われたことはプリニウスが「博物誌」にこの杉の樹液を塗布すれば死体をを保存できる、と書いてある通りだ。メソポタミアもナイルも元々緑の少ないところだったから、メソポタミアやエジプトの王達は誰もがレバノン杉を狙った。それから5,000余年が過ぎてレバノン山脈のみならずこれに連なるアンティレバノン山脈、トロス山脈はいずこもハゲ山になっている、このレバノン杉の森からハゲ山へお至る滅亡寸前の歴史を語るのが金子史朗の「レバノン杉のたどった道1 」だ。

ところで、この絶滅寸前のレバノン杉を救うのに漢方薬が使われている事を読者はご存知だろうか。これは1994年頃から始まった事業で、国際日本文化研究センターの安田喜憲教授が広島で、マツクイムシにやられた木の樹勢回復に成功した「イービーエス産興」の戎社長と組んでの杉救済事業だ。ナンデモ漢方薬と天然酵素を配合した活力材を杉の根元に注入する由。レバノン北部のブシエリ村にわずかに残るレバノン杉の森にまずとりかかる。とここまで書いてきたのは理由がある。その理由とはニッサンのゴーンだ。この男の出身はレバノンの由。レバノンでは「ゴーン」と発音せず、本来の発音は「ゴスン」だと。この男が来日して首切り始め、その挙句の高給を聞いた時、私が思ったのは、レバノン杉の再生国際事業だった。先述した安田+戎のコンビはその後寄付をつのって事業を続けている。「ゴスン」がその巨額の給料の一部と言っても、億単位の金を寄付していれば、故国レバノンの巨杉をどれだけ救えただろうかと言うことだった。獄中の「ゴスン」に誰ぞ、この本を差し入れてやる御仁は居らぬものか。ゴスンを表彰した小泉純一郎、あるいはゴスンを賛美した安倍ご両人、この役を買って出ぬものか。

DVDで、「ソ満国境−15歳の夏ー」を観た。実話だ。このタイトルと同じ本が原作。著者を始め、監督も出演者も私の知らぬ人ばかりだった。話は日本が満州を占領していた時の話。ソ連参戦となって、植民していた日本人を守ってくれる筈の関東軍がいの一番に逃げ去って、国境の援農に駆り出されていた中学生達は見捨てられ・・・と言う話だ。

ここでちょっと横道にそれるが、「援農」と言うと今の室工大生は、門沢先生が始めた日高辺りの酪農家へ1.2週間異業種体験をすること思うようだが、先の戦争中の「援農は」そんな牧歌的名ものではなくて、要は出征で取られた男達の労働力の穴埋めに中学生が配られたと言うものだ。私の兄も「室中」の時に、例えば厚真へ行かされた。私も一度兄に連れられて行ったが、確か石崎さんという大きな家だった。それが先日の地震で山が総崩れと聞いて、平な所だったが、えっ?どこが山と思ったが、新聞の写真を見て、裏山と言うべきが総崩れに連なっているのを見て、成程と納得した。閑話休題。国に見放された15歳の中学生達は今や敵地となったソ連国境の地を逃げまわり、ある村で村長の一言で救われる。そこに孤児となった朝鮮人の娘がいて...一方中学生の中に創氏改名で日本人になったけれど実は朝鮮人という子がいる。この中学生は蝶の収集家で、「人間の世界には国境があるが、蝶の世界には国境がない。ないどころか蝶は海さえ渡るんだ」と涙ながらに植民地の理不尽なことを訴える。あのうすっぺらい羽でカナダからメキシコへ、実に4,000kmの大飛行をするモナルカチョウというのがいるが、メキシコとの間に壁を造るなぞの馬鹿トランプはこの蝶を知らなかろうが、知ったらどう見るであろうか?!4,000kmには及ばぬが、日本の蝶も1,000kmは飛ぶし、津軽海峡も渡る。今の世、地図の上から国境をなくすことはできなかろうが、せめて日常の思考の上で、国境なき世界を夢みてもいいのでは!

他人の地に攻め入って、その地の民に無縁の神社を建て、日本語をしゃべらせ、名前まで変えさせる(創氏改名)なんてこと、国境を無心に超える蝶に心あらば、馬鹿な事を!と笑うに違いない。まだ続く冬の間、春来たりなば現れる蝶を待って、諸々考えるのもいいかもしれぬ。「海を渡る蝶2 」をどうぞ!!1973(第1刷蒼樹書房)1985(第8刷)

先頃室蘭でも講演した東京新聞社の望月記者とニューヨーク・タイムズ前東京支局長のマーティン・の対談集「権力と新聞の大問題3 」を前々号で紹介しょうとおもったが、貸していて書影を出せずで、いずれまたとしておいたが、戻ってきたのでここに出す。全く知らない事、薄々感付いていたことなどを含めて当節の諸々を判断するのに必要な知識が鮨詰になっている。例えば幻冬舎の見城徹社長のことが出ている。それによるとこの人安倍とお友達、そしてマスコミの人脈通、で例えばテレビ朝日の早河洋会頭と親しい....で何が起きたか。テレビ朝日は自民党政権に批判的な立場を取る局だったが、見城は安倍と早河と菅とのお食事会を度々設定して、結局早河は安倍びいきとなり、テレ朝の浜矩子、姜尚中ら安倍批判派はテレ朝から消えた云々。ゲオもツタヤも幻冬舎や飛鳥新社の本をどっさり並べるがそのからくりも以上の指摘で納得できる。読むべし。あと1点ヘイト発言を撒き散らし有害この上なしのネット右翼(ネトウヨ)を含めて、今何故右翼が大きな顔をし始めているかについて理解するのにいい本だと思われる本が出た。「右翼の戦後史4 」がそれ。読むべし!!


  1. 金子史朗.レバノン杉のたどった道.原書房(1991) []
  2. 日浦勇.海を渡る蝶.講談社学術文庫(2005) []
  3. 望月衣塑子.マーティン・ファクラー.権力と新聞の大問題 .集英社新書(2018) []
  4. 安田浩一.右翼の戦後史.講談社現代新書(2018) []

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