山下敏明さんのあんな本、こんな本

司書独言 (107)  複製美術館

2010.07月寄稿

○月○日  今年の3月、ローマで「カラバッジョ没後400年記念展」が開かれた。カラバッジョ(1573-1610)は、言葉遊びをするわけではないが、カラバッジョに生まれたヴィットーレなる画家の事で、生まれた場所が性になっているのは、私の知る限り、あとダ・ヴィンチ村に生まれたレオナルドしかいない.バロック最大の画家となるこの男は、ルネサンス様式から抜け出せずにいた絵画の世界に新しいスタイルを確立した最初の画家と言われる。

○月○日  だが、そうしたことは今おいて、この展覧会を観た人の面白い感想がある。観たのはジャーナリストの西川恵なる人で、展覧会場迄行った所、1日は並ばされそうな長蛇の列で、あきらめた西川は帰ろうとして別のポスターを目にする。標題は「カラヴァッジョ別展」。この「別展」なる意味は、こっちの展覧会に並べられたカラヴァッジョの作品は、ナント原寸大の写真コピーだったのだ。しかし西川によると「これが予想外によかった」そうな。

○月○日 と言うのは、西川が聞く所によると「本物」を展示した「本展」の方は、作品の劣化を防ぐために照明を落としてあるので、作品が見にくい、つまり暗過ぎて何が何やらよく分からん訳だ.それが、コピーの方となると、ゆっくり鑑賞出来る.コピーもコピーとは思えぬ迫力で、つまりは、このコピー展に満足かつ関心した、と言うのが西川の結論だ。

○月○日  ここで、話を変えるが、「ふくろう文庫」に雪舟の国宝「秋冬山水」を完全に復刻した軸物が加わった。K夫妻の「父親追悼」とての寄金で買えたものだ。言うまでもなく原寸大原色の本物と瓜二つの複製画だが、これについて解説を担当した美術史家の鈴木進が面白いことを書いている。その論旨は、複製美術品はこれから絶対に必要となる云々....日本では、文化財保護法で、例えばこの雪舟の作品などは年に2.3週間が限度という展示をする.出しっ放しにはしない。それは、カンバスと油絵の具と言う長持ちする画材で作る油絵と違って、紙やら、絹やらで作る日本そして、東洋の絵は、厳しい上に厳しく大切に保管せねば、永の年月を生き延びることが出来ないからだ。しかし、この保存のための保管と言う点だけで言えば、見せず.触れさせず.虫干し以外は函の闇に寝せておくのが最上の手段ということ言うことになりかねない.となると、鑑賞イコール公開と言う点からは甚だ遠いものになる。この見せたいと、見せたくない傷つけたくない、の立場の差を埋めるにはどうすればよいのか。

○月○日  ここで登場するのが、複製品=レプリカなる手段だ。しまっておくべきものの代わりに、長の鑑賞に耐え得る実物そのままの複製=そっくりさんを出す手段だ。となると決まって、ナンダ、複製か!ナンダ、複写か!とこのそっくりさんを一段低くみようとする手合いが必ず出てくる.こう言う態度を取り続ける限り、法隆寺の壁画もナンダ、複写か、となってしまう。しかし、これは大間違いだ。今では、当の制作者である 画家本人でさえが見分けのつかぬ程に、複製は精巧になっている。よくしたり顔に、これはドコソコの美術館で見たのとは違う(このどこそこは大抵の場合、ルーヴルとかプラドだ)、とのたまう人がいる.丸井での特別展にも必ずそう言う人はいた。この手合いは、要するに言いたいのだ。しかしそれは「ふくろう文庫」のものが複製だと言う先立つ知識がさせる事であって、本人の確たる知識・感性からから出たものではない.つまり、黙って出しておけば分かるまい。

○月○日  と言う訳で、何百年も風雪に耐えて来た美術品を守るために複製に頼らざるを得ないのが現状だ。そして又、と言う訳で、これからは複製から成り立つ美術館と言う点から、逆に「複製美術館』が主流になるだろう。となれば「ふくろう文庫」は既にそれに先駆けていると言える存在になって来ているのである。

○月○日  「ふくろう文庫」では、先述の雪舟に加えて、同じく雪舟の国宝で16余の絵巻「山水長巻」も入手した。本来所有者が別別の国宝が、複製品なるが故に、こうして2点揃え得た。これぞ複製美術品の強みだ。既存の美術館が個々に別別に所蔵している、国宝・重要美術品の類が、複製される事によって新たに一堂に集められ、展示が可能となる訳だ.複製品の持つ意味が納得出来たであろうか。

○月○日 ここで「ふくろう文庫」の最新収の画幅1点を紹介しておこう。武元直(ぶげんちょく)画の巻子本「赤壁図」だ。上下52cm、長さ凡そ7mと言うもの.御存知 蘇東破の名詩篇「赤壁賦」に基づく雄大な一作だ。これ10月末のポスフールでの特別展に出すつもり.本物は台北の故宮にある。「これ故宮で見たのと色が違うなあ」イイフリコキタイ方は、あらかじめ10月末迄に台湾へ行って見て来て下され。!!間違いないのでござるよ。と憎まれ口をたたいておく。

○月○日  9月の「ワンコイン美術講座」は、前にやった「秋田蘭が」の主役・小田野直武の師となるべく運命づけられた、奇才・平賀源内の話だ。乞・ご期待

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