`00.8.31寄稿
つい先日、室蘭工業大学のドイツ語の教授Oから電話がきた。用向きは・・・ベートーヴェンの「第九交響曲」についてで、何でも「新日本フィル」が北海道公演の時、有名なかの「歓喜の歌」のところで、歌詞を変えて歌ったことがあるらしい。つまり、「お〜、喜びよ(=Freude=フロイデ)」とやるべき所を、「お〜、自由よ(=Freiheit=フライハイト)」とやったらしい・・・。が、本当か?
そしてOが言うには、シラーの精神からしても、ここは「喜びよ」と言うよりも、「自由よ」と呼び掛けるのが正しいのかも知れない。
Oはこのことを「新日本フィル」の事務局に電話して聞いてみたが、電話に出た人の応答がはかばかしくないので、私に聞いてきたと言う訳だった。
この難問、まだ解答をだしていないのだが、丁度読みはじめていたのが①1 だ。
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著者の西原は、日本人は「ベートーヴェンの音楽の中に、崇高で、倫理的で、ある絶対的なものを聞き取る態度」続けてきたと言い、それは「ロマン・ロランのベートーヴェンを題材にした小説や彼の評伝が翻訳され、修養主義の見地から、理想主義的なベートーヴェン像が注目されるからだ」と言う。
私個人の体験からしても、これはうなずける論だ。私としても、ロマン・ロランの本の中で、王侯貴族と出会ったベートーヴェンが昂然として道を譲らず、かえって貴族の方が身を引いた、と言うような光景に心を踊らせた記憶があるからだ。
当今では、全国各地で「第九」が演奏され、「第九と日本人2 」なる本すらある程だが、明治に導入されたベートーヴェンが大正デモクラシー、昭和の日本主義、そして戦後と、その理解のされ方がどのような奇跡を描いてきたかで語るこの本、すこぶる面白い。私自身のベートーヴェン理解は「修養主義」から抜けていないと気付かされた・・・だけでも面白かった。
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子供の頃の若松賎子(しずこ)訳「小公子」、森田思軒の「十五少年」、佐々木邦(くに)訳の「トム・ソーヤの冒険」・・・と、今でも忘れられない読書体験が沢山ある。余談だが、明治学院大学の英文科に入ったら、この佐々木邦が英文学を講じていたのには吃驚した。もっとも、この人の授業をとらなかったのを今では惜しかったと思っているが。
中学生の時の翻訳物の体験で、一番の長大作は、三年の時読んだ大久保康雄訳の「風と共に去りぬ」で、三笠文庫で全8巻だった。高校二年生になると、三笠書房と新潮社からその名も同じ「世界文学全集」が出たから、これは読んだ。スタインベック・コールドウェルのアメリカものが、殊に面白かった。ロシアからアメリカに亡命したナボコフの「ロリータ」ももちろん読んだ。大久保康雄の訳だった。
と言う訳で、今迄どれ程沢山の翻訳家のおかげで、外国文学を楽しんできたか。その翻訳家達の人間像のあれこれを語る、実に面白い本が出た.3 本書によると、「ロリータ」の訳も実は大久保にあらず、高橋豊なる人で、大久保は翻訳工場の主だったとわかる。
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余計なことだが、私はこの翻訳家群像の中で、「我が秘密の生涯」全11巻を自宅裏の退職高校長に下訳させたと言う田村隆一なる詩人の行動が全般的に好きでは無い。いわゆるパフォーマンスに見えるのだ。
昨年、「スウィング・キッズ −引き裂かれた青春−」なる`93年アメリカ作のビデオを観た。
ナチが台頭し始めた30年代のハンブルグでの物語・・・で、ジャズに情熱を燃やす若者達が嫌っている「ヒトラー・ユーゲント(ヒトラー青少年団)」に入団を勧誘され、それを断ると・・・という、中々苦い味の物だった。
ヒトラーの国を逃れてアメリカに亡命したノーベル賞作家トーマス・マンの娘、エーリカ・マンはその著「ナチズムの下の子供達」(法政大刊)の中で、ナチスの政治にがんじがらめにされる子供達を描いたが、③を読むとそうした厳しい状況の中で逸脱反抗したグループがいたことがわかる。 ヒトラー・ユーゲント体制 先述の「スウィング・キッズ(スウィング青年団)」、ルール地方の「エーデルワイス海賊団」、ライプチッヒの「モイテン(猟犬団)」などが、それだ。しかしこうした反抗分子をも含めて、ナチスの教育思想が青少年をいかに害したか、その結果、国がいかなる末路をたどったか、を刻明に調べたのが4 だ。得る所、多い本だ。
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学生時代、東大農学部前に下宿していて、上野に抜けるのに赤門前から裏道を通ると、見上げるような高い石塀の「岩崎弥太郎邸」があり、「はあ、ここがキャノン機関のあったところか」といつも思ったものだ。
「キャノン機関」=アメリカのスパイ機関で、戦後ここに作家の「鹿地亘(かじわたる)5 」が拉致・監禁されていたのは有名だが、その全貌を語る本がようやく出た。読むべし!
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