`004月26日寄稿
もう40年余前の大昔、大学生活と相成って上京した。下宿には既に兄と姉とが住んでいた。東大は農学部前の西片町。十番地への15号。下宿へ荷物をおろして直ぐに、私は、あこがれの街、古本の街、「神田」へ直行した。直行といっても、省線の「神田」で下車すればいいのだろう...と出かけたので、えらい遠回りをしたが、まあ道を聞き、聞き着くには着いた。で小川町の方から始めて九段の方へと、高鳴る胸を押さえつつ、見て行きつつ、結果「原書店」なる所で、鴎外の全集を買った。戦前の岩波版で、¥15,000 嬉しさで、上気し、本の重さで汗をかいて、今度は最短距離で帰宿したが、その晩、兄にしこたましぼられた。無駄使いをするな!と言う訳だ。
因みにその時、1ヶ月の生活費(ナニヤカニヤを含めて)として親が呉れると約束してくれた金額は¥12,000だから確かに
¥15,000は高かった。何でこんなお金を持っていたか?と言うと、お祝いやら、餞別が丁度これだけあったのである。
さて、兄は私に説教をたれた後、“一体¥15,000で酒を何升買えると思うんだ!!”と妙なことを言った 酒好きの兄(今では私もそうだが)らしい視点だとは思ったが「鴎外』と「酒」の比較は一寸無理だ。
それでも、私は兄を立てて、だまって聞いていた。このあと私は1ヶ月程かけて鴎外の「翻訳編」10巻余全巻を読了したが、面白かったこと.面白かったこと!!
それから私は鴎外についての本を蒐め始めたが、高くて手が届かぬのが一点あった。鴎外の妹の小金井喜美子著「鴎外の思い出」だ。この本を私は水道橋の「日本書店」でみつけてはいたが、買えなかった。それが今度岩波文庫に入った。解説で森まゆみは“本書は古書価も高く、いま手に入りにくい”と言っているが、ナニ昔からたかかったのだ。それが660円で出たとはまことにありがたい。「鴎外の思いで1 」
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ありがたい本と言えば ゾラの「制作2 」上下もそうだ。カバーには画家セザンヌの「男たちの水浴』が使われている。何故セザンヌかと言うと、この小説はクロード・ランチェなる画家が主人公で、セザンヌがモデルだと、従来されてきたからだ。[tmkm-amazon]4003254554[/tmkm-amazon]
おまけに、ランチェは絵画の革新に失敗して、自ら首をくくって死ぬのだが、モデルとされたセザンヌは、これを面白からぬ(そりゃそうだろう)として以来ゾラと絶交した...。と言う話を生んだ小説なのだ。
これは、明治43年(つまり有珠山が爆発して四十三山(よそみさん)を生んだ時だ)に高村光太郎が妙訳し、次いで大正11年に井上勇の全訳が出たが、ナニシロ80年前の訳だから一般読者は読むことができなんだ。
それが「ゾラと世紀末3 」の名著の著者、清水正和の完訳で出た。ありがたい。
因みに、今年に入って、セザンヌとゾラの絶交と言うのは、それを言い出した、ジョン・リ.ウォルドのこじつけ的見解である...とする本が出た。新関公子の「セザンヌとゾラ4」(ブリュッケ刊)だ。[tmkm-amazon]4795216797[/tmkm-amazon]
この事についてもっと知りたい人は来る5月9日「室蘭民報」の「本の話」大91回を読んで下さい。
(「制作」は毎週図書館にボランティアでお花を生けてくれる、佐坂さんが貸してくれた感謝。)
「近世風俗志5 」もありがたい本だ。喜田川守貞が1852年頃(嘉永5)に書いたものだから、別名「守貞漫稿(もりさだまんこう)」ともいう。全5巻
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「広辞苑」を借りると「〜自ら見聞した風俗を整理分類し、図を加えて解説、近世風俗研究に不可欠の書」。と言うと何やらむずかしげだが、つまる所、これは一種の百科事典だ。
例えば「さぼん玉売り」...これはシャボン玉売りのことで、...「さぼん粉(粉石けん)を水に浸し、細管をもってこれを吹く時に丸泡を生ず」なんて出ている。面白い面白い。これ従来前5冊で¥32,039だった。ありがたいと言う意味がおわかりかな、ワトソン君。
「西洋事物起源6 」
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ベックマンの本も昔はそろいで¥12,000〜1,3000はした、書名通りの内容役に立つ本です。
以上岩波4点「岩波は、いい仕事してますねえ」あれ、チョビヒゲの口ぐせうつったかな