第210回 猫の本4冊

`02.12月25日寄稿

いつぞや、と言っても室蘭工大にいた頃の話だが、初秋にお大雨が降った。大学のある水元町の地形を御存知の方には、先刻ご承知の事だが、室工大の官舎は大方が河川敷にある。そこで、雨が降り出すと、「水元湯」のある水元団地の方から、雨水が下流めざして流れ来るが如くに,官舎の方に下って来る。官舎と言えば聞こえはいいが、ーよくもないか?ー。これが昭和14.15年頃に、室蘭市が、室工大の前身たる高等工業専門学校を誘致すべく作った建物だから、私が住み始めた昭和40年代の初めには、ボロ屋とも言う得べくもない程のボロ屋だった。

さて、この初冬の大雨だが、午後になっても、降り止まないで、黄昏時にはむしろ、降りつのる感じとなって、結果河川敷にある官舎としては当然のことに、床下浸水はおろか、床上浸水的状況に相成らんとした。私は施設課の連中と一緒になって、生まれて始めて砂袋を積み重ねる作業をしていた。

何しろ、平屋二間の木造住宅の便所は、あたり前の事に、汲取式で、と言うことはそこに戦時中、町内各所に据えつけられた防水槽よろしく、コンクリート製の真四角い便槽が地上に首をだしていて、それに押し寄せる雨水が入ったら如何なことに相成るか...が一番心配だった

そこで、先述の如くに、砂袋を積んでいる私―雨合羽をきて、降りしきる雨にメガネを拭いながらの私ーの目に飛び込んで来た或る風景に私は我が目をうたぐった。

私の家の前は、背丈よりも一寸高い位のネコヤナギに周囲を囲まれた小公園で、ブランコが2期、遊動円木が一台あるだけのものだったが、その猫柳の枝と言う枝に、なにやら紡錐形をした、黒い物体が、いや黒い果実とも言うべきが、びっしりとなっていたのであある。

ハテナ?と思いつつ、近づいてみると、オドロクナカレその、黒っぽい果実と見えた黒い物体は、濡れそぼれて、一回り身体の小さくなったネズミ達なのであった。それらのネズミ達は、激しく揺れる枝々に必死になってしがみついて、小刻みにふるえているのであった。

こんなにもたくさんのネズミが一体何処から?と言う疑問が一瞬頭をよぎったが、それは不思議でも何でもない、その小公園の周囲は一段も二段も低くなって、どぶに囲まれていたのだから。このとき私の頭をよぎったのは“It   rains  cats  and  dogs “なる英語だった。

“猫と犬が降って来る”とは一体何なのか...これは実は大豪雨を指す表現なのだ。

これを動物行動学者のデスモンド・モリスに説明してもらうと、

....この言葉がよく使われるようになったのは、数世紀前のことで、当時街中の通りは狭くて、不潔で排水が悪かった。いつにない大雨が降ったりすると、たちまち水が出て急流になり、餌をあさりまわる沢山の飢えたイヌやネコを溺れさせた。土砂降りが過ぎると、人々は家から出て来て、これら運の悪い動物の死骸を見つけ、多くのだまされやすい人々は、これらの死骸が天から降って来たに違いない。文字通り、イヌとネコが降ったのだと信じた。...

そして、この後、モリスは、1710年に街(と言うのはロンドンのことでああろうが)をおそった豪雨を記録した。ジョナサン・スウィフトの文章を紹介している。スウィフトは勿論「ガリバー旅行記」の作者だ。

水元では。、このネコ、イヌの代わりにネズミが降ったのだった。しかし雨が止んだ後、ネズミの死骸が、目につくことはなかったから、あのドブネズミ達は、枝に止まることで、難を避けて〜無事暗いドブの世界に戻って行ったに違いない。

ところで、私は、過ぐる12月20日夜に市民会館で講演をした。「ワニワニクラブの仲間たちの会」主催の「読書に関する興味を伝える技術向上や子育て支援に」を目的とした講演会である。私は「猫」の話をした。何故、猫か?猫は、我が国では、動物の中でも一番文化的な動物だからである。何故、文化的か?

往古、猫は日本にいなかった。つまり、猫は日本に輸入された外来動物なのだ。入って来たのは奈良か平安初期だが、大陸の方が大雨になって、猫が逃げて来たのではない、つまり自分で来たのではない、明らかな目的を持って大陸から輸入されたのだ。では、その目的とは、??「猫の民俗学1

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それは書物をネズミから守るためであった。

この辺りをフランスの文学者アン・ヘリングは“〜いわば進んだ文化の象徴としての本と共に猫が日本に入って来たと言う事になる。これは猫にとっても、日本にとっても誇りと考えてよいのではないだろうか。〜

「ねこ2

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全くもってその通り。それなのにお釈迦さんの死に際にいなかったと言うだけで、猫は十二支に入れられず仏敵とされた。

しかし、これは猫にとっては、ヌレギヌの最たるもの、だって、お釈迦さんの時代、インドには日本同様、猫はいなかったのだから!!「猫のフォークロア3

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てなことを知りたい人は、これら4冊の本をどうぞ。私が所蔵する猫本50冊の中から選んだいい本だ。

「猫の王4

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  1. 大木卓.猫の民俗学.田畑書店(1979) []
  2. 木村喜久弥.ねこ.法政大学出版局(1966) []
  3. キャサリン・M・ブリッグズ (( キャサリン・M・ブリッグズ.猫のフォークロア.誠文堂新光社(1983) []
  4. 小島瓔禮.猫の王.小学館(1989) []

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