`93.6.16寄稿
「貴方が着ているパジャマはどんな柄ですか?」と聞かれたら「えっ、どうして」といぶかることでしょうが、まあ、私のパジャマの話しを聞いて下さい。
もう,20数年も前の映画ですが,スティーブ・マックイーン主演の「ネバタ・スミス」という西部劇があります。悪漢3人に両親を殺された16歳の少年マックイーンが,親の仇(あだ=かたき)を討つ、と言う筋です。ナイフ使いの1人目を倒したあと、次に,別の悪事で刑務所入りしている男を追って、マックイーンは、自分も刑務所入りすべく、熊と,銀行強盗をしでかします。
この刑務所と言うのが,広大な沼地の、中之島に設けられていて,小舟でもなければ到底、脱走不可能と言うところです。
さて、首尾よく囚人となったマックイーンが、矯正(きょうせい)労働を課せられて囚人仲間と登場します。その場面で、私と女友達とは、思わず顔を見合わせて、ふきだしました。
何故って、....マックイーンを先頭にした囚人諸君が着ていた囚人服が、太い横縞模様のもので、当時、私が愛用していたパジャマと柄も色も全く同じでああったからです。
そのパジャマはその頃G社が新発売したもので、メリヤス仕立てでしたから着るにも楽な上、縞柄も、はっきりしていて、私は気に入っておりましたから、これにはおどろきました。
映画館を出てから、「どうして、俺のパジャマと囚人服が同じなんだ?」と私がボヤクと、女友達も「G社のデザイナーは気がついていないのかしらね、と答えました。
この囚人服=パジャマ=縞(しま)がきっかけで、二つの事が私の記憶によみがえってきました。
一つはナチによって、アウシュビッツなどの強制収容所に送られた人達が着せられた衣服です「そういえば、あれはたて縞だったなあ」と今迄読んだナチ関係の本のなかの写真や絵が思い出されました。もう一つは、サーカスなどで道化師達が着ている服です。
話しは一寸変わりますが、私は大学に入って直ぐの頃、語学と美術の勉強に一挙両得を考えて片方の頁に画、片方の頁に解説のついた小型の画集を(洋書)をか買って、一冊づつ、大学ノートに訳出した事があります。
その中の一冊「ピカソ」に「曲芸師の一家」と題する画がありました。左端の若い曲芸師が着ている服は、菱形を組み合わせた、いわば格子縞(こうしじま)です。
ドイツの詩人リルケが、この画から詩想を得て、有名な「ドウイノの悲歌」の「第五番」を作ったとの解説があり、高校時代に「マルテの手記」を読んでいた私は、この「ピカソ」を訳したあと、「ドウイノの悲歌」を読みにかかったという思い出は今はおくとしてー
それから気を付けていると、サルタンバンク(=軽業師=かるわざし)とか、アルルカン(=道化師=どうけし)とか呼ばれる人達がきているものはみな、各種の縞模様なのです。
囚人−芸人−縞模様ーこれは一体なんなのでしょう。
ところで、先日「悪魔の布1 」なる本を見つけました。副題が、「縞模様の歴史」です。「おっ、しめた、縞だ!!」と手に取ると、帯には「縞模様の衣服は、中世には売春婦、死刑執行人、旅芸人などが身につけ異端のシンボルであったー」とあります。
そうか、そうだったのか、と思いつつも、それならば安らかにねむりたいとて着るパジャマに、なんで、そんな縁起でもない柄を使うんだ...と積年の疑問が甦って来て、私はすぐに読みにかかりました。
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ありました、ありました。84頁に「我々のパジャマに縞がついているのは....」さて答えは...?いや面白い「縞のどこが悪いんだ」という単純な疑問を基に、こんなにも面白い論を展開出来るのか、と感服させられます。全く持って、脱衣、いや脱帽です。とここまで書いたら「何を書いているんです?」
と声がして淳子、夕美子、二君の来訪です。「ヒャー!!」淳子は白と青、夕美子は白と黄色の横縞のTシャツを着ています.90㎝をほこる2人の胸の所だけは「横帯」が「波形横帯」になっています。
「あー、おどろいた。こんな時に、こんな柄のシャツで来るなんて、何と可愛い、いや何て横縞(よこしま)な女なんだろう!!」
- ミシェル・バストゥロー.悪魔の布.白水社 (2004) [↩]