○月○日/世界のあちこちで独裁者が国民の自由を奪っている。フィリピンもその口で、”麻薬犯罪”の撲滅を口実にドゥテルテ大統領強権政治が続いている。
となると当然、メディアへの圧力も強まる訳で、と言うのは一寸でも政権批判をしようものなら、直ぐにトランプの真似ではないが「フェイクニュース」呼ばわりされて、放送停止やら、執筆停止となる。ドゥテルテ批判の先頭に立つのはネットメディアの「ラップラー」だが、その責任者のマリア・テレッサもドゥテルテ寄りの実業家の名誉毀損したとて有罪となった7月末に報じられた。この女性、マニラ生まれ、プリンストン大卒のジャーナリスト。ドゥテルテは目の上の瘤な訳だ。
○月○日/そのフィリピンでの麻薬のはびこり様とそれと結んでの警察の想像を絶する汚れた実態を描いた映画がある。ブリランテ・メンドローサ監督の「ローサは密告された」がそれ。麻薬密売で何とか生計を立てているスラムの女性の物語だ。主演のローサ役のジャクリーン・ホセはカンヌでフィリピン初の主演女優賞を受賞した。腐敗した警察の横暴にさらされ、悔し涙を流しながら生きる姿が観るものの胸に迫る。
○月○日/ドゥテルテは元ダバオの市長だが、その時も麻薬取り締まりと称して自衛団の過激な動きを容認した男。それが大統領となってその無茶振りが高じて、先記のマリア・レッサによると警察に殺された人の数は2万7000人なると言うから恐ろしい。此処に「アルファ〜殺しの権利〜」なる映画がある。これもメンドーサ監督。結末が思いもかけぬものなので筋は紹介できぬが、これまた警察の腐った実態を描いた秀作。然し麻薬の取り締まりが必要なのは勿論だが、それよりも大事なのは国民の生活を建て直すことではなかろうか。麻薬を扱うものは否応なく殺してもよしーだけではいつまでたっても本末転倒ではなかろうか。何にしてもこの二作、心ある人に是非見て欲しい映画だ。
○月○日/「男はつらいよ」の50作目が出た。「おかえり、寅さん」がそれ、観ていろんなことを思い出すが、その一つが知り合いの女性の話。この人が常々言うには「私は”男はつらいよ”だけは観たくない」と。その理由を昔聞いた時の答えが身にしみた。この人は6人兄弟だが、「直ぐ上の兄一人だけがはぐれ者、他は皆大学を出て普通なんだけど、この兄が”寅さん”にそっくりなの。どれ程家族が迷惑かけられたか!」どういう迷惑かまでは聞かなかったが、その口振りからして相当なものだと察しはついた。成程なあ、それじゃ「男はつらいよ」は身につまされて、それこそ「身内はつらいよ」だなあと納得した。
○月○日/「男はつらいよ」には寺男の役で佐藤蛾次郎が出る。この珍優で変わった思い出がある。「中島劇場」があったころだ。題も中身も大方忘れたが、蛾次郎がオートバイにまたがって登場する場面があって、暴走族か何か知らない連中から「お前どこの生まれだ」と絡まれる。その時の答えが「俺か、俺は室蘭の中島生まれだ」だったのだ。これには満場どっと湧いた。どこがどうしてこのせりふなのか。脚本した側に室蘭出身者でもいたのか。それはわからぬが、この映画のタイトルが思い出せない。
○月○日/そう言えば、8月15日映画監督の森崎東が92歳で亡くなった。「喜劇・女は度胸」などで知られているが、確か山田洋次の「吹けば飛ぶような男だが」の脚本を書いた人だ。さっき話した蛾次郎が出たのはこの作品だッタカもしれないが、今は確かめようがない。此処でまた妙なことを思い出した。
○月○日/室工大にいた時の事だが建築科の新任の助手が挨拶に来て「初めまして」と言う。その顔を見て、私は「否、初めてではないな」と言った。いぶかる彼に私は「○年前○○市の中心街の交差点で君に会っているよ」と言った。
○月○日/私はその時我妻さんの運転で道央の○○市を通過中、信号で止まった時、助手席からその青年が信号が変わるのを待っているのを見ていいたのだ。そう言うと彼も「その時母の用で一緒に◯◯市に行った〜」と思い出したと言う訳で「初めまして」ではなかったのだが、名を聞くと「島田」だと言う。「へえ、室蘭は島田さんという輪西の大盛館や中島の中島映劇を持っている人がいるよ」と言うと「あっ、それは私のお祖父ちゃんです」と言う。我ながらこの時は面白かったなあ。
○月○日/ここでまた思い出した。いつか我が家に遊びに来る工大生達10数人と東北旅行をしての帰りの青函連絡船に修学旅行中らしき高校生たちが乗っていた。それで近づいて「小樽からか」と聞くとそうだと言い「どうして分かるんですか」と聞く。それで「去年の夏、アーケード街、彼と歩いていたろう」と言って一寸離れた所にいる男を指差すと「あー、部活の帰りで確かに行きましたと言う。このかつては小樽一の繁栄を誇ったアーケード街も今はさびれにさびれて、先日はこれを逆手にとって「さびれ切った街です」みたいな幕を張って、逆に客を呼び込んでいる云々ニュースが出てたな。まあ、色々と面白いこともあるもんだ。
○月○日/「さびれにさびれて」を私はアーケード街と思っていたが、「逆手に取った町は」は正しくは境町通り商店街だと分かった。そのポスターは例えば「さかい町、盛り下がってるぜーつ!!」「元気です!空元気です!お客様来ないから、もう笑うしかありません!ワッハッハー!!」やるねえ!
○月○日/9月末、サッカーのフランス一部リーグのパリ・サンジェルマンのブラジル代表FWネイマール選手が、対戦相手のマルセイユ日本代表DFの酒井宏樹に対して「くそ中国人め」とののしった、との報道があった。酒井の見事な動きに自分が封じられて腹が立ったらしく、,この「ののしり」を2度繰り返したそうな。その上、自分もマルセイユのアルバロ・ゴンザレスから「猿」とやられたと言う。まあ、白、黒、黄と入り乱れてという図でまるで馬鹿だ、結果、ピッチ内のモラルの低さに世間が呆れている、と。
○月○日/これで又思い出した事がある。随分昔、画家ギュスターヴ・モローの旧居を訪ねようと、道を聞きながらパリを歩いていた時の話。向こうから30代とおぼしき母と5歳ぐらいと見えた息子が手をつないでやって来た。その男児が私を見ると母親に「あの人は中国人?」甲高い声で聞いた。母親は一瞬困惑した顔で立ち止まった。私は近づいてその子に「僕は中国人じゃなくて、日本人だよ」と言った。すると母親は「ごめんなさい」と言って微笑んだ。私も微笑みを返した。この質問、何の気にもならなかったが、ひょっとすると母親の意識、或いは知識の中に「差別」の知識があって、息子を恥じたのかも知れない、と今は思う。きれいな人だった。それはともかく、「サッカーと人種差別」なる陣野俊史のいい本がある(文春新書)¥750)サッカーファンにも読んでもらいたいものだ。また誰ぞ翻訳してヨーロッパ、否、世界中のサッカー選手にとどけてほしいものだ。
○月○日/本屋に菅の「政治家の覚悟」が山積みになっている.2012年に自費出版で出たものの改訂版で今回は「文春新書」として出た。改訂版と銘打ったのはいいとして、その中身が問題だ。と言うのは旧著には「政府があらゆる記録を克明に残すのは当然で、議事録は最も基本的な資料です。その作成を怠ったことは国民への背信行為です」なる部分があって、これは当時与党の民主党について野党の立場から述べたもの。日系には言う迄もないが、東日本大震災に対する民主党の態度のまずさがある。
○月○日/しかし、森友だ、桜を見る会だ、ナンダカンダで先の言い出しっぺの菅が、どれほど全部隠し続け、嘘を吐き続けたかは今、国民の皆知るところとなって、となると、先の「議事録」云々の主張なぞよくも言えたもんだわとなる。
そこへ持ってきて、今度の学術会議介入の問題だ。目下のところ、国民の大方は菅は嘘をつく人間、自分に都合の悪いことは平気で隠す人間と、認識していることだろう。
○月○日/ところが、世の中捨てる神あれば拾う神もいる訳で、その拾う側に美輪明宏が出てきた。知り合いの話では、その又知り合いの娘が美輪のファンクラブに入っているのだが、その会報に美輪が「菅さんの目を見ると嘘をつけいない人だと分かります」と言うことを言ったと出た由。その娘は菅が嫌いななので、この一言に呆れて脱会したと言うのだ。知り合いも聞いて腹が立ったと言うが、私も呆れて腹が立った。
○月○日/私は会う人ごとに菅の印象を聞くが、今のところ好きだという人はいない。共通した返事は「あの目が嫌だ」だ。あのドンヨリと濁って冷酷、無慈悲で笑いのかけらもない目には大方がゾッとするという。美輪がよりによってその目をほめるとは、美輪も老女になって視力が落ち「心眼」の方の技能も下降気味になっているのじゃないか。嘘を言わない男なら、何故、先記の改訂版でかつての発言を消し去らねばならぬのか。
○月○日/土台、美輪は森カケ、桜を見る会etcの菅が嘘をつきまくった場面を見ていないのか。又聞きだが美輪は自分で「私は天草四郎の生まれ変わり」と言っている由。しかし幕府に反抗した天草四郎なら菅の目を見て、これは「インチキ、陰険以外の何物も表していない目だ」と言うのではなかろうか。つまり、本物の天草四郎はそれほど馬鹿じゃなかろうと言うこと。
○月○日/前号で、反トランプだった女性弁護士ルース・ベイダー・キングズバーグがハーバード大學に入った時女性用トイレがなかった話をしたが、似た話をもう一つ思い出した。キャサリン・ジョンソンと言えば数学者で有人宇宙飛行計画「マーキュリー計画」の軌道計算をした女性だが、彼女を含む女性だけの計算係の活躍を描いたのが映画「ドリーム」だ。中でキャサリン達は屡々仕事中に居なくなる。これをとがめるのが上司のケビン・コスナー。サボッテイルのかと疑う彼にキャサリンはトイレの都度、別棟の有色人種用トイレに行かねばならぬのだと訴える。事の次第に呆れ怒ったコスナーはとなる訳だ。ここまで書いて男性優位のトランプが今住むホワイトハウスには女性トイレはちゃんとあるのか。今度確かめに行ってこよう(ナンテネ、マサカー)
○月○日/「ふくろう文庫ワンコイン美術講座」の予告ポスターを一緒に持って新聞に出てくれていたF女が病で昇天した。字がきれいで仕事の正確なこと無類、気分に波がなく、真に頼りになる女性だった。韓国語も勉強していた。先日妹さんが来て姉は「私が死んで保険が下りたら10万円届けて!!色々教わって世話になったから」と言ったとてそのお金を「ふくろう文庫」に出してくれた。病室から新築近い図書館をいつも見下ろしていたそうだ。聞いて私は心中泣けた。私は悲しい。2020.10.21