第417回(ひまわりno233)「それでも日本人は戦争を選んだ」「チベットわが祖国」「バンクシーアート・テロリスト」

2020.11.1寄稿

老女2人を見ていて、「年は取りたくないもんだな」とつくづく思う。その一人は作家と称する瀬戸内寂聴だ。今98歳。

この老女、2015年安保法制論議の時、辻元清美の質問中「早くしろ」と野次を飛ばした安倍について、「この平和憲法を手にするまでどれだけの同胞が死んだと思うんです。その犠牲があって、もらった憲法じゃないの」と言い「アンタ、なんでこんなばかなことをするのと叱るわ」とも言い、更に「家庭内野党とか言っていたヨメさんに期待したけど、賢くなかったわね」と足す。それがどうだろう。安倍が体調不良を理由に前回同様全てを無責任に放り出した後、寂聴が言ったせりふはこうだ。「安倍がいなくなると「あんな見栄えのする首相もそうあるものじゃなかったなあと、なつかしくなる」とほめ、更に「何よりもあの方は、在来の日本のどの首相よりもスタイルがよかった」と持ち上げる。政治家をそのなした仕事で評価せずスタイルでほめるとは!これ、ファッション批評か!おまけに「在来」は「在来工法」とか「在来線」とか使われる例は見たことがあるが、人に対してこんな使われ方は初めてだ。作家ならもうちょっと普通の形容が出来ぬものか。何にせよ、5年前の辛辣な言葉と今回の甘ったるげな言葉の違い!!変節通りこしてこれやっぱり「耄碌」かなと思わざるを得ない。

さて、もう一人の老女は昔丸山、今は美輪明宏。私は大学時代、銀座のシャンソン喫茶「銀巴里」で歌っていたのを見たことがある。とがった顔、やせて肋骨丸見えの全身黒のボディスーツ(というのか、タイツというのか)姿で、私は三島由紀夫と違って美少年趣味はないから、変わったのが出て来たなあと思っただけだ

その美輪がファンクラブの会報で「あの目は嘘をつける目ではない」と言った意味の発言で菅を褒めたと聞いた。嘘と聞けば菅を連想するこの頃の私はこれには呆れた。菅は先日自著「政治家の覚悟」の改訂版を出した。それは前著の2章34ページを削除したものだ。その部分で菅は「公文書、殊に議事録を政府の基本的資料」として、それの「作成を怠ることは国民への背任行為」とまで言って民主党を非難していた。又菅はこれより先、記者会見で「自著で記録を残すことを主張した政治家がいましたが、誰ですか」と皮肉な質問をされると、「知りません」の一言で逃げていた。モリ、カケ、サクラを持ち出すまでもない。どれほど政治にウトイ人でも、菅が安倍を支えて万事嘘を突き通して来たことを知らぬ者はいなかろう。その菅を褒めるに事欠いて、「あの目は嘘をつかぬ目だ」とほめるとは美輪のの霊感とやらもあやしいものだ。オカルト的な体質が衰えてきたのだろう。年は取りたくないものだ。

序でだから寂聴の菅観を見よう。「菅首相は立ち居振舞いもお行儀のいい紳士に見える。容貌も整っていて、品もあり、立派な首相面をしている」だと。何の必要あってこう褒めちぎるのか。寂聴は尼だてらに肉が大好きだというがひょっとして神戸牛2.3頭丸毎もらったか?

その菅が首相になって、あろうことか「日本学術会議」をいじくり出して又々嘘を連発している。その嘘の一つは「多様性を重視した」だが、そう言いながら実際は東大から只1人選ばれた女性、日本近現代史専攻の加藤陽子教授をはねた。「女性が少ない」と言っているくせにだ。名簿から外された6人の中の1人だ。片寄った説を展開する人ではないが、「戦争する国作り」を目指す菅の思想とは対立する立場の人だから、菅には目の上のコブな訳だ。加藤には小林秀雄賞受賞の「それでも日本人は戦争を選んだ1 」(朝日出版社、2009年1¥1,700+税、今新潮文庫¥810)なる中高生向けの講義録がある。いい本だ。「止められなかった戦争2 」と共に薦めたい(文春文庫、2017年、¥550+税)。加藤の思想がよく分かる。

習近平は今なお内モンゴル自治区や新疆ウイグル自治区やチベットなどで住民に圧政を強いている。外にいる我々にすれば、例えば何で平均高度4,000mという高原のチベットに大きな面積を持つ中国が固執するのかと思う。加賀美光行の名著「中国の民族問題3 」を見ると、その答えはこうだ。中国人にとって「中国」とは「世界」だ。その一部たる「チベット」がそこから離れるとなれば、それは「世界」の「全崩壊」が始まることを意味する。よって「中国」が「中国」たり得るためには「チベット」は「中国」に含まれていなければならぬ。云々。ところで過グル8月3日、アデ・タポンツアなる女性が88歳で没した.1999年に日本にも来た人だが、すさまじい人生を送った人だ。というのは中国の圧政に抗する抵抗運動に身を投じたため捕まって1958〜85年までの実に27年間も牢獄生活だった。南アのマンデラ顔負の人生だ。因みに世界一貧しいウルグアイの前大統領ホセ・ムヒカは投獄13年間だった。収容所にブチ込まれたアデはブタの飼育係しながら同時に看守たちの性の相手をさせられた。横道にそれるがドイツでも赤軍派の女性活動家たちが看守たちにひまなしにレイプされた。

アデに戻って、彼女は釈放後は世界各地を回って習近平の党の圧政ぶりを語っていた。思えば「チベット仏教」も不思議なものだが、その理解のためにここでは「チベット我が祖国ーダライ・ラマ自叙伝ー4 」(中公文庫)を出しておく。

中学一年の頃「白毛女」という中国映画を観た。強欲地主に犯された村娘が深山に逃れるもつらい体験から頭が白髪、白毛女になってしまう。やがて婚約者が解放軍=共産党軍と現れ、助けられた娘は”毛沢東”と叫ぶーといった映画だったが、あれ、舞台はチベットだったのかな(この記憶、ちょとあやしい)

作家の島田雅彦が新作を語る中で「日本の国会はまるで猿の国会ですよ」というのを聞いてバンクシーの作品を思い出した。「英国の地方議会」(Devolved Parliament)と題する250×420cmの油彩画で2009年作これ2009年のオークションで13億円の値がついた。「地方議会」となっているが議場に並ぶのはチンパンジー達。つまり当時問題だったEU(欧州連合)から離脱するのか、しないのかーで揉める議会と、議員を愚かな猿達を並べることで諷刺したもの。言われてみりゃ菅以下同じ答弁を繰り返す議会は正しく猿芝居だわ。東京都港区にも現れた覆面画家バンクシーについては毛利嘉孝「バンクシーーアート・テロリスト5 」がいい(光文社新書、2019、¥980+税)又雑誌「時空旅人」別冊「BANKSY」ー覆面アーティストの謎ー」(三栄、2020/10、¥1,091+税)も私には役立った。

  1. 加藤陽子.それでも日本人は戦争を選んだ.朝日出版社(2009) []
  2. 加藤陽子.止められなかった戦争.文春文庫(2017) []
  3. 加賀美光行.中国の民族問題.岩波現代文庫(2008) []
  4. ダライ・ラマ.チベット我が祖国ーダライ・ラマ自叙伝.中公文庫(2015) []
  5. 毛利嘉孝.バンクシーーアート・テロリスト.光文社新書(2019) []

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