第117回  差別の原点

室蘭工業大学にいた時の事です。給料日に、会計課から戻って、アシスタントの優子に、私が「俺の給料とかけて、インドの都市名と解く。心は??」と問うと、間髪入れず(すかさず)「カルカッタと解く」ニヤッと笑って優子が答えたには、「やっぱり、そう思うか?」とまことに、まことに参りました。

これが、私にとっての「カルカッタ・ショック」で、それはかように一場の笑いですむのですが、そうはいかぬ「カルカッタ・ショック」があります。それは,・・・・

「〜道を歩く人々の服装や住居を通して見える人々の暮らしむきは想像を超えた貧しさであり、これが同じ20世紀に生を受けた人々耐えなければならないことなのだろうかと胸の痛む思いがした。我々一行は、ただ黙して窓から外から凝視するばかりであった。これが言われるところの「カルカッタ、ショック」である。」と言うものです。

このカルカッタの悲惨、外国人がインドの中の「貧者の宮殿」と皮肉るカルカッタの貧困を世に知らしめたのは、先日亡くなったマザー.テレサでした。

一般人としては異例の国葬を受けることとなったマザー.テレサ、やがては聖人に列せられることになったマザー.テレサのことをラジオや新聞で知りながら、私は先に引いた文章のあとに続く文章を思い出していました。

「マザー.テレサが運営している病院に隣接した一軒の建物に案内された。これは学校であって、現在は西ベルリン州公認の学校になっているが、有志が力を合わせて建設して開校にこぎつけたのだという。アウトカーストの人々が子供達の教育にかける情熱が伝わってきた。〜中略〜学校といっても小さな教会が3つ続いた長屋であり、床も天井もない薄暗い土間に木の長椅子並べられたという教室で、壁に黒板があるので、はじめて学校らしいことがわかる。といった有様だ。

理事最教授長、先生、生徒達の熱烈な歓迎に、我々ははるばるやって来た甲斐があったことを喜んだ。校長の説明では、教室が暗いので、すぐ隣のマザー.テレサの病院に支線で電線をひかせて欲しいと何度もたのみに行ったが、彼女は聞き入れてくれなかったという。

彼女は世界的には有名になっているらしいが足元の問題を避けていると激しい批判の訴えをされた。我々一行も、みずからの問題と照し合わせ、教えられるところが多々あった。」

カルカッタの英字新聞、「テレグラフ」は「〜市民はカルカッタのイメージ悪化の賠償をマザーに求める権利がある。」と断じて、マザー.テレサの「功罪」を論じたそうですが、先の文章の下線の部分と読み合わせると、うなずけなくもありません。

ところで、先の2つの文章は、いずれも、「大阪同和問題企業連絡会」なる団体が編刊氏他「差別の原点を求めて—インド.カースト制度の研修の旅—」(昭和58年6月)から引用したものです。①1

この連絡会は大阪府下に事業所を置くメーカーや、金融機関や、商社、学校など、百十数社が加盟して、昭和53年に発足したもので、差別問題の理解を深めようとして、その活動の結果として、まとめたものだが、「差別の原点を求めて」の他に、(私の持っているものでは)2点あります。

・は「冬の大地に春を—「アイヌ問題」を現地を見る—」昭和59年11月刊

・は「慟哭(どうこく)—差別戒名—」1987年3月刊

この2冊を是非読んでいただきたいとは思いますが、残念ながら、この連絡会のその後の動きが私にはわかりませんし、これらの2冊も、市販されたものではなくて、全部、新聞で知って、個人で申し込んだものなので、残部があるかどうかも判然(はっきり)しません。と云う訳で、かわりに同じ事柄に関して、容易に入手出来るものを2点紹介します。

最初のものは、友永健三「部落地名総鑑事件—その教訓と課題—」です。②2

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この事件は、1975年全国に5,300はあるとされる被差別部落の名前と住所、そして、戸数や職業を都市別に編集した「部落地名総鑑」なる名鑑が、1989年現在で8種類もつくられ、それが日本有数の企業に例えば、トヨタ、ニッサン、マツダ、ダイハツ、日本生命、大同生命、キリンビール、サントリー、田辺製薬などによって購入され、人事、たとえば、社員採用の際に、被差別部落の出身者をチェックするためにつかわれた・・・・というものです。

英文学者で、沖縄問題にも深い関心を示した中野好夫は「この問題は、現在大問題となっているロッキード事件以上の問題である。この問題は日本人なり、日本企業の持つ根深い差別体質を露(あら)わにしたものだ」と指摘しました。

紹介したいもう一つは、松根鷹「差別戒名とは」です。③3

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「戒名」=かいみょう=戒を授ける時に付ける名=法名(新明解国語辞典)お布施の額で、戒名に違いがあるのは常識ですが、被差別部落の人たちには、並の人間ならば想像も出来ないことが行なわれていた・・・・ということをこの本で知って下さい。

  1. 大阪同和問題企業連絡会.差別の原点を求めて.部落解放研究所(1983) []
  2.   友永健三.部落地名総鑑事件—その教訓と課題.部落解放研究所 (1989) []
  3. 松根鷹.差別戒名とは.解放出版社(1990) []

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