第058 国立大学図書館の閉鎖性

`94.9月20日寄稿

8月30日、朝日新聞の朝刊「声」の欄を読みながら,私は思わず、「やっちょりますなあ」と声を出しました。「声」の欄は、いわゆる読者の投書欄ですがあ、そこに川崎在住の大学助教授(38才)が、会議出席のため東大に出かけた際、図書館を利用しようとした所、入館を断られた。としてそのいきさつを述べ,「大学の図書館は一般市民にも開放し。勉学の助けを行うべきだと思う」と結んでいます。「やっちょりますな」と言った私が居る室蘭工業大学は図書館は,昭和61年から市民に開放していて、これを書いている9月13日現在では,1200余名の市民が登録して,本を借りています。

ですから、「やっちょりますなあ」とは「相も変わらず,時代に逆行して,閉鎖的な事をやっとるなあ,呆れたもんだなあ」と言う意味で,決して讃嘆の意味ではありません。

私が「やっちょりますなあ」と呆れかえるのには,呆れかえる理由があります。と言うのは,昭和60年(だったと思いますが)やはり「朝日」紙上に、アメリカから帰国した国立市の一市民が,アメリカ在住の間は、行った先々で近くの大学の図書館を利用していたので、帰国後、近くの国立大学へ赴いたところ、門前払いを食った。これはどういうことであるか、と投書したのです。

国立市の国立大学と言えば、まあ間違いなく一橋大学でしょう。

この投書に対して、文部省は、国立大学の図書館は市民の利用を拒絶していない、いないどころか、文部省としては一般開放を促進するよう、各大学を指導してきた、と言うものでした。???

この文部省の答えが、逃げ向上なのか、本音なのかはともかく、室工大図書館は、昭和61年(1986)に年齢、地域の別なく、名前、住所電話番号を聞くのみで、一般市民への開放に踏み切りました。

それから8年余たった訳ですが,そうした身から見ると,東京大学がいまだに,種々の条件を付けて,結局のところ市民の利用を拒む型になっているのは,呆れる他はなく,これが「やっちょりますなあ」の真の」思いなのです。

懲(こ)りない面々は,何も刑務所ばかりに居るわけではないらしい、

さて,先の投書のあと,今度は45才の会社員の投書が続いて「国立大学の図書館、資料館の閉鎖性には困っております。国民のためのものである筈の施設が、なぜこのように一般社会人には利用しにくくなっているのでしょうか」との前書きで、「大学教官の紹介、研究実績の提出(資料の)原所有者の許可取得...繁雑な手続きのために断念したのは一度や二度ではありません」と指摘されました。

大学図書館の司書たる私でさえ、これには全くもって同感々々!!

大学教官だってだらしのない人間は沢山いますから、そんなひとの紹介だの,保証だのは,図書館にとって何の意味もありません。

又研究実績云々などと言われたら,普通の人々はいったいどうすればいいのでしょう?

私の所はでは無条件ですから,研究者のみならず,実に多様な人達が来ます。

目の不自由な人のために朗読奉仕を続けている人達は,朗読する作品に出てくる人名,地名、その他を実に丹念に調べに来ます。

又,こんなにも多くの人が通信教育で学んでいるのかと,驚く程沢山の社会人、主婦が,レポート作成のためにやって来ます。専攻も、宗教学、社会福祉、法学と様々です。

又近くの短大や,専門学校、看護学校の生徒達もやって来ます。大学の直ぐそばの小学校からも,社会科の授業でクラスごと図書館見学に来て、わたしから「本の話」を聞いて帰りますが,その小学生たちも来て図書館を使います。

例えば、「シンドラーのリスト」を観て,ナチの事をレポートしたいと来る高校生も何人もいます。

こうした普通の人達に何の必要があって,ヤレ身分証明所だの,ヤレ運転免許証だの,ヤレ教授の紹介状だの、と要求する必要がありましょうか?

国立大学は,税金で成り立っているのだから市民にたいしては...などと原則的な,或いは野暮(やぼ)な議論は今早めときましょう。

そんなことより小学生から老人まで,知りたい,学びたい、という欲望にかられて図書館に来る人々に対して,司書たるものがどうしてこれを拒む事が出来るのか?

私はこれが不思議でなりません。知識を求める人々に対して,或いは協力し,或いは手助けし,時には(いや,殆どの場合)知を得る事の楽しさを共にするのが,司書本来の役目と喜びではないのか!!

ありもせぬ権威によって、大学図書館の門を閉ざすのは,時代遅れのおろかな司書がとる道です。

それよりは,一般開放にして,学内、外の人々と「知」の楽しさを味わうべきです。

さて,室工大図書館はこの9月1日に新装オープンしました。月〜金までは朝9時から晩9時まで,土曜日は9時から4時半まで開いています。日、祝祭日は休みです。昨日日には2200名余の来館者がありました。忙しい〜.

と、まあこんな状態の時に東大図書館に対する投書をみて、この文章と相成りました。「本」の話が一つも出て来なくて,何だか変ですが,次回からは「本」の話に戻りましょう。


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