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私は,室蘭工業大学在任中に,図書館に,もはや不要だからと返却されて来た和洋書合わせて3.000册余の中から,1825年に,オランダ東部のジュトフェンで刊行された全3巻の「軍事百科」他の貴重書を発見したことがあります。この「軍事百科」は,我が国で,6セット目の発見でした。10年程,前の話です。
今度は「気海観瀾」の発見です。30年余の司書生活中にこのような機会を2度も味わえるとは・・・ と嬉しい限りです。この物理学書を読んでみたい人は「文明源流叢書」の第二巻所収のものを,どうぞ!! 漢文ダメと言う人は,「日本科学古全集」第6巻所収の,和文に直したものをどうぞ!! 両書とも,ちゃんとした図書館なら持っている筈です。
以下は新聞から。
日本初の物理学書発見(1998年7月17日金曜日 室蘭民報)
【気海観瀾(きかいかんらん)】
日本で最初に出版された物理学書で江戸時代末期の物理学教科書。著者は青地林宗。「国史大辞典」(吉川弘文館)などによると,青地が西洋の理科書を広く読み,別に記述編集した「格物綜凡」の中から,適宜に章を選び,再編集した。内容は体性,引力,気重,気化,精気,雲,雨,力学,諸気体,熱現象論など 40章。著者は自然を「気海」,つまり気が満ちている世界として把握していたと考えられ,当時の日本の自然認識観として注目する論もある。
道内初,全国で30冊 「玉襷」「集古十種」も同時に
江戸時代末期に日本で初めて出版された物理学書として知られる青地林宗(1775-1833年)著の「気海観瀾(きかいかんらん)」がこのほど,市立室蘭図書館(井上方大館長)の書庫から見つかった。全国で3.000冊しか確認されておらず,道内では初めて。このほか,やはり幕末時代に編集された,平田篤胤の思想を説く「玉襷(たまたすき)」9巻,松平定信が編集した古武具類などの木版図集「集古十種(しゅうこじっしゅ)」21巻も同時に見つかった。特に「気海観瀾」については「学術的評価が定まっている貴重な書物」(y山下敏明副館長)とあって,全国的にも注目されそうだ。
古書1千冊 整理を急ぐ
「気海観瀾」は著者の青地が1825年に原稿を仕上げ,27年に木版,刊行された。物性をはじめ光,電気,気象,潮汐など40項目について,多方面にわたる物理的知識が漢文で解説されている。日本で書かれた最初の物理学の刊本。理科の名に値する初めて広く世に紹介されたことにより,その後の研究に大きな影響を与えた。
現在,国内では国立国会図書館,各大学図書館などで30冊が確認されている。東北大学以北では初の発見で,31冊目となる。縦26cm,横 17.5cm,表紙はえび茶色,各ページは和紙1枚を2ページに折った袋とじ,全99ページの和本。とじ糸が切れるなど表紙は多少傷んでいるが,中のページに汚れはなく,しっかりしている。
「近代物理学の基礎を築いた書として,歴史的にも学術的にも評価が定まっている。室蘭市の貴重な文化財となるだろう」と山下副館長も驚いている。
「玉襷」は,江戸末期の国学者・平田篤胤が自選して門人たちに与えた「毎朝神詞」を詳細に解説した書物。1811年に成立し,32年に初出版。69年 (明治2年)に10巻目が追補刊行された。篤胤の思想が平易に説かれ「平田学の縮図」とも評されている。室蘭図書館で見つかった9冊は最初の9冊本セット。
「集古十種」は,江戸時代後期,松平定信が編集した。古書画,古器物,古武具類の実測原寸図や縮尺図など,大型袋とじの木版図集全85冊。広く刊行されたのは1902年(明治35年)から1904年(同37年)にかけて。図を二分の一に縮尺した十冊本と,さらに半紙型袋とじの縮刷21冊本が出されている。室蘭図書館で見つかったのは21冊本セット。
これらの古書は,山下副館長が同館三階の非公開書庫を整理中に,スチール製のロッカー内から見つかった。「玉襷」と「集古十種」んの30冊には,表紙の裏に朱の蔵書印が押されていた。「倶楽部図書館蔵」の印が消され,別に「室蘭区教育会図書館」の印が押されている。
室蘭に区制が敷かれたのは1918年(大正7年)。現図書館の前身の公立図書館時代からの蔵書と思われるが,現図書館の蔵書目録には記載されていないという。同時代の図書は他に1.000冊近くがまだ未整理のまま同館書庫に眠っており,これまで30年以上は手が付けられていないという。同館では整理,分類を急ぐ方針。「見つかった貴重な本については市民に公開する方法も検討したい」(山下副館長)としている。
日本初の物理学書発見(1998年7月18日土曜日 北海道新聞朝刊 前道版)
【室蘭】江戸時代末期に物理学書として日本で初めて出版された「気海観瀾(きかいかんらん)」が17日までに,室蘭市の市立室蘭図書館(井上方大館長)の書庫で発見された。また幕末の国学者,平田篤胤の思想を解説した「玉襷(たまたすき)」9巻,松平定信が編集した古書画などの図集「集古十種(しゅうこじっしゅ)」21冊も見つかった。いずれも道内で初めてという。
江戸末期の「気海観瀾」
「気海観瀾」は蘭学者で物理学の祖とされる青地林宗(1775-1833年)が著し,1827年刊行。縦26cm,横17.5cm,99ページ。物性,電気,気象など40項目を漢文と絵を交えて解説している。また「玉襷」は1832年出版,「平田学の縮図」ともいわれている。「集古十種」は江戸後期 1800年の木版図集を縮小・復刻し,1902年(明治35年)から1904年にかけ刊行された21冊セット。
古代から幕末までの古書物の収蔵先などを収録する「国書総目録」(岩波書店)によると,国立国会図書館など全国で,「気海観瀾」は30冊,「玉襷」9巻そろいは24セット,「集古十種」は45セットしか確認されていない。
いずれも山下敏明副館長が同館三階非公開書庫を整理中に,スチールロッカー内から発見した。表紙裏に「倶楽部図書館蔵」「室蘭区教育図書館」の印があり,室蘭の区制は1918年(大正7年)から4年余で,所蔵の経緯などは不明。
山下副館長は「これだけ質の高い書物がそろうのは難しい。製鉄所の技術者などの集まりで,持ち寄ったものではないか」と推測。同図書館には未整理古書がなお約1.000冊もあるという。
‘98.7.30(木)