第134回 貴重な和本と復刻版紹介

`98.9.10寄稿

第132回では「気海観瀾」の話を,第133回では,このニュースに刺戟された市立伊達図書館で見付かった「気海観瀾 広義」の話をしました。今回は先づ,「和本情報」第3弾とでも言うべき記事をのせておきましょう。

貴重な和本 続々発見(1998年8月24日月曜日 室蘭民報朝刊)

市立室蘭図書館(井上方大館長)の書庫から,江戸時代から明治にかけて木版刊行された全国的にも貴重な和本が数々発見されている。日本初の物理学書「気海観瀾(きかいかんらん)」(青地林宗著)に続き,このほど国内初と思われる1695年(元禄8年)刊の「三体詩」(著者不明)3冊や,わが国古来の人物五百余人の像を描いて1868年(明治元年)に出版された「前賢故実(ぜんけんこじつ)」(菊池容斎著)全10巻20冊なども見つかり,まさに「宝の山」の観を強くしている。書庫に眠っていたこれら書物は約1.000点。その来歴などを探ってみた。(高木忍記者)

■ 国内新発見?

このほど新たに確認された「新版改正三体詩」は3巻3冊。「元禄8年」の発刊と記され,著者は不明。「三体詩」の注釈書は1500年代から数種出されているが,「日本古典文学大辞典1

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「前賢故実」は,幕末から明治時代前期にかけての日本画家,菊池容斎(1788-1878年)が,古来の忠臣,義士,烈婦など五百余人の像を描き,1868年に木版出版された。従来の歴史人物画に新生面を開いた労作として知られている。国内で10巻20冊がそろっているのは大学図書館など26 件。室蘭が27件目となり,道内では初めて。

このほか江戸時代後期の儒者,斉藤竹堂(1815-52年)の「竹堂文鈔 」(1879年刊),江戸時代の安全な旅の心得を説いて,昭和47年にも復刻されている八隅景山著「旅行用心集」(1810年刊)など貴重な書が多い。

調査を続けている山下副館長は「注目すべき古書はまだまだ出そうだ。戦後,西洋的なものに流されて希薄となった日本固有の歴史観,文化史をうかがう上で貴重な資料と言える」と興味を示している。

■ 所有者名も

これらの書物はどのような経緯をたどって今に残っているのだろうか。同館の蔵書目録には一切記録されないまま,書庫に眠ってきた。書には朱色の図書館蔵書印がいくつか見られる。1冊に複数押されているケースもある。最も古いと思われるのが「倶楽部図書館蔵」,次いで「室蘭区教育会図書館」「室蘭図書館」など。

倶楽部図書館は,明治43年11月に結成された室蘭倶楽部(服部慶太郎代表)の私設図書館と思われる。同倶楽部は大正2年,旧室蘭駅前に建設された公会堂の社交団体で,政財界人らが集っていた。有志らが蔵書を持ち寄り,できた図書館と思われる。

故・平林正一さん著の「室蘭史話紀行」(室蘭図書館奮闘史)によると「室蘭区教育会図書館」は大正10年5月,当時の在郷軍人分館建物(旧海運町5,現山手町2)内に仮開館。その際,室蘭倶楽部が蔵書,書架などを寄贈し準備が整えられたことが記されている。さらに翌11年8月の市制施行により,同12年4月をもって「室蘭図書館」に名称変更された。

「当時,本は高価だった。これら古書のほとんどは有志の寄贈本だろう。かつての所有者の個人名が書かれた本も少なくない。中には骨とう品的趣味で集めたと思われる人の名も見受けられる」と山下副館長は推測している。

■ 不幸中の幸い

こうした貴重な本が,戦後五十数年もなぜ未整理のままになっていたのか。これら古書は,スチール製の靴箱2基にギッシリと納められ,同館3階の書庫に無造作に置かれてきた。「25,6年前にほかの新しい本と区別されて整理された」(井上館長)というが,図書目録などは作られなかった。

これほど貴重な書物が交じっているとは,歴代の館長,司書をはじめ,館職員の誰もが気付かなかったというのが真相。昨年6月から同館に勤めた山下副館長が目を通し”宝の山”であることが初めて分かった。焼却処分されずに”放置”されてきたのは,不幸中の幸いと言える。

「古書はその分野の本の中でどういう位置を占めているのかが分からなければ価値判断できない。書名をみてピンとくるには,その分野に興味を持ち,頭の中にかなりのデータを蓄積していなければ難しいかも知れない」と山下副館長。

調査の参考書としては,5万4.000項目を収めた今世紀最大の歴史大辞典といわれる「国史大辞典」(全15巻17冊),本の評価や全国的な所蔵状況が分かる「国史総目録」(全9冊)がある。「国史総目録」は,同館では山下副館長就任後に購入したばかりだった。

古書1.000冊の精査・整理については,「各書物の解説を含めて今年度いっぱいかかりそう。その上で目録も作りたい。一般公開の方法も考えたい」(同副館長)としており,通常業務の時間を縫っての調査作業が続けられている。

和本の話はこれ位にして,今年4月,長野県岡谷市に「イルフ童画館」(JR岡谷駅より徒歩5分/開館時間 10:00〜19:00/休日 木曜日 12月31日 1月1日/入場料 ¥800/TEL 0266-24-3319)なる美術館が出来ました。「イルフ」は武井武雄の造語で「古い=フルイ」の反対語で,つまりは「新しい」と言うことです。武井武雄は「童画」なる言葉を作り,自らの作品で,それを世間に定着させた人です。彼は又,挿絵,版画にも興味と才能を示し,結果,「刊本作品」と呼ばれる「豆本」を作り続けた人でもあります。私は幼稚園の時から「キンダーブック」で,彼の作品になじんで来ましたがありがたいことに,大正15年にでた『ラムラム王2

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なる童話が復刻されました。全くのナンセンス童話ですが,まあ,武井の世界がどんなものかを知るには,うってつけの作品です。童心に戻れるか・・・の・・・テストにもなるかも。

もう一点,ありがたい復刻をお知らせします。小学館文庫の「そば通の本3 」です。

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浅草のそば屋「やぶ忠」の村瀬忠太郎の語り下ろしで,昭和5年に出たものの復刻で,かつて「そば,うどん名著選集」にも入っていた「そば」の古典です。「そば,寿司,うなぎ」さえあればと言う和風派の私には,これ又ありがたい本です。

‘98.9.10(木)

  1. 古典文学編集委員会.日本古典文学大辞典.岩波書店; 〔簡約版〕版 (1986) []
  2. 武井武雄.ラムラム王.銀貨社(1997) []
  3. 村瀬忠太郎.そば通の本.小学館(1998) []

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