第324回行平と地獄とジャガイモの話

2012.10寄稿

9月末、新聞で芸能欄の邦楽「第3回長唄伝承曲の研究会ー江戸のしゃれた音色ー」を読んでいると、「〜この会らしく埋もれた名曲を選んでの演奏だった」の文のあとに「〜謡曲の松風。物狂いの霊となって行平を助ける松風の哀れさがにじむいい曲だ」とあるのを読んで、とたんに50年も前に読んだ本を思い出した。寺西五郎著「語理語源1 」いかなる連想か?

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読者は「ゆきひら行平」を御存知か?、左様「つぎ口、取っ手、ふたのある、薄い褐色の土鍋』(新明解国語辞典)。左様、風邪ひいて頭が痛い,喉にタオル巻いてコンコンしながら食べる「おかゆ」を作る鍋。この「ゆきひら」の語源を教えてくれたのが、この本だった。

曰く、平安初期の歌人にして、かの美男業平(なりひら)の兄、阿呆親王の第二皇子たる行平は、清和天皇の皇子、雨夜皇子(名前からして何やら陰気な奴だ)の企みで,須磨の浦に流されるが、その地で海女の松風、村雨の姉妹を「ちょうあい」する。この「ちょうあい」とは帳簿合わせの「帳合」ではなくて、特別かわいがる「寵愛」のことだぞ。

この行平が海女に命じて、潮を汲ませて塩を焼く。この塩を焼く道具が行平朝臣(あそん)の名をとって「行平」となったのだそうな。舞台の方は、旅僧が須磨の浦で潮引車を引きながら戻って来た2人の村娘に宿を請い、今、行平の霊を弔って来たと語ると、〜この2人、実は松風、村雨の霊で、となって〜。と言う訳で、この本「行平」のみならず、言語や名称の起源を種々論じて、まこと面白く、かつ、ありがたい本だった。それにしても人間の記憶というものは、不可思議なものだて=まあ、月並みな感想!!

我が家系には、と御大層なことを言っても、祖父・祖母の代からしか知らぬし、関心もないが、碁、マージャンをする者がいない。ついでに言うとタバコも。前三者を「かけごと」とくくっては何やら悪い気がするが、気持ちは「金を賭けてする遊び」と言った所だ。だから碁石を握ったこともなければ、将棋倒しをしたこともない。

そういう者から見て、理解不能、全く正視にたえぬのは、大王製紙の世に言うティッシュ王子。ラスベガスでのカジノでの話。昔は、この間死んだハマコーがバカラとやらに熱中して、1880年代、一晩で150万ドル、当時の日本円で4億6千万円すった。

私はトランプも全く興味ないから、バカラもポーカーも意味が分からぬ。山中季石なるジャーナリストがラスベガスで調査したあげくの報告によると、このギャンブルにはまる、はまらないは、完全に「病気」であって、「薬」はないそうで、米国の統計では成人の16人に1人は自制心があろうがなかろうが、必ずハマル由。ハマコーモ名前が悪かったかも知れんな。

それで思い出すのがトルストイやドストエフスキーの日記。ドストエフスキーなんぞ、新婚旅行で妻の「アンナ」(だったか)をほっぽり出して、カジノから宿に帰らぬ。読んでいて本当にイライラしたが、この病のすさまじさを知ったのは高2の時。シュテファン・ツヴァイクの角川文庫の「女の24時間」(映画にもなった)を読んだ時、ギャンブルのすさまじさに身の毛がよだったのはいいが、ツヴァイクなる、まことに素晴らしい作家にハマッテ、今に至ってる。ここに書影を挙げたいが文庫本は押し入れの中、「ツヴァイク全集」の方はこれが載っているいる②が欠けていて行方が分からぬので、代わりに伝記の「シュテファン・ツヴァイク2 」を挙げておく。

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室蘭のライトアップには色々な人が色々な思い出のために点灯費を寄付している。

しかし、気になることが一つ。縁のある人が死んで−となって、寄付をする人が綴る文章が皆「天国にいる○○さんに」となっていること。

この天国が気になる。と言うのは、「天国」なる語は、キリスト教他に使う言葉で、仏教のものではない。仏教でこれに当ては余るのは、せいぜい「極楽」だ。まさか室蘭の人皆がクリスチャンである筈がないから、この言葉はもう少し厳密に使って欲しいものだ。

ところで目下,風涛社(ふうとうしゃ)の「絵本地獄3 」が売れているらしい。と言うのは、この本千葉は千葉の南房総にある延命寺が所蔵する、江戸時代の絵巻の中から「地獄絵」を抜いて、独自のストーリーをつけた絵本だが、これを、いじめだ何だと悪いことをすると、これ、このような地獄に落ちるぞ−...と、育児期の子供に見せると、効果テキメン、子供の素行が直るらしいと言うものだ。それは結構だが、

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「天国」と「極楽」の違いも分からぬ、お父さん、お母さん方に、それではと薦めたい本がある。「地獄の真実4 」がそれ。これ読んで「地獄」とは何かについて正確な知識を持ってもらいたい。中に北野天満宮所蔵の「北野天神縁起」から「大焦熱地獄」「焦熱地獄」「大叫喚地獄」が引かれているこの「天神縁起』、実は香川妙女の寄金で買えた完全復刻版が「ふくろう文庫」にあって、これ、先頃「モルエ」で全巻開陳したが、この「地獄」の箇所は、そう言えば馬鹿に人気があったなあ。

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9月中旬、室工大卒業生で、27才で癌にやられて亡くなった水野君の33回忌の墓参りに仙台まで行って来た。序でに水沢の「高野長英記念館」に寄った。此所、開館当日に行った所だが、それが実に41年前、イヤハヤ。

中の資料を見て、この41年間に増えた長英文献を点検してみると、私が読んでないのが2点あった。中で同行の連中に、長英の飢饉対策の本「救荒二物考 」を説明した。「荒」とは飢饉のこと。「二物」とは、ソバとジャガイモ。すると、福島出身の阿部君が、私の所では、年寄りは皆ジャガイモと言いませんカンプラと言います」と言う。初耳だから、帰宅してから上に記載の本の他、ジャガイモ関係に当ってみたが、言及ナシ。「ジャガイモの世界史5

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小学館の「国語大辞典』には福島他数カ所の地名が挙げられて、「ジャガイモの」方言である、と。「北海道方言辞典』には更に秋田仙北では「アンプラ」とも、と。但し、両者とも語源は出ておらず。???知らなかったなあ。

  1. 寺西五郎.語理語源.雪華社(1962) []
  2. 河原忠彦.シュテファン・ツヴァイク.中央公論新社.(1998) []
  3. 白仁成昭.絵本地獄.風涛社((1980) []
  4. 村越英裕.地獄の真実.宝島社(2012) []
  5. 伊藤章治.ジャガイモの世界史.中央公論新社(2008) []

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