第337回花だいこんの話.大倉喜八郎の豪快なる生涯.尋問.触手

2013.11.11寄稿

幼馴染みの泰子と、その娘の直子は共に「ふくろう文庫」を支えてくれている。泰子は和本のつくろいをしたり、その和本を収めるうるし塗りの箪笥のカバーを、「ふくろう文庫」のマーク入りで縫ってくれたり、直子の方は「ふくろう文庫ワンコイン美術講座」のチケットを作ったり、私の代わりにネットで本の流れを追ってくれたりという具合。

で、11月7日泰子が友達の松本弘子女史が会長をつとめる「墨蘭会」の作品展を、と誘いに来たので、市民美術館に水墨画を見に出かけた。松本さんは「ふくろう文庫特別展」があると、必ず玄人はだしの弁当を差し入れてくれる人で、見た目も良ければ味もよしのその弁当はもっと食べたくて特別展を延長したくなるほどのものだ。泰子を介して松本さんと知り合って、私の長姉が松本さんと北海道立室蘭女学校(いわゆる庁立高女=現清水高)で同級生だったと分かった。但し私の姉は4年生で飛び級して日本女子大の英文科にすすんだので卒業生名簿には載っていない由。さて、会場に入って、松本さん力作の「虎」を初めとして順繰りに見ていくと、「諸葛菜(しょかつさい)」と題する絵があった。これ辞典風に説明すると「アブラナ科の一年草、観賞用。花は紫色、原産中国、別名、方言はオオアラセイトウ、ハナダイコン、ムラサキハナナ、紫金彩(しきんさい)江戸時代に渡来したが、第二次大戦後に特に増えた...となるが「諸葛」とは何か?。これ、三国志に出る諸葛孔明のことで、物の本には「孔明は軍を駐めた先々で兵達に専らかぶを作らせた。①これ、芽が出たら生ですぐ食べられる。②葉は煮て食べられる。③どんどんふえる...etcと来てその利用の道はなんと広いことよ、...で、今日に至っても三蜀の人はこのかぶ諸葛菜と呼んでいる。江陵でもそうである」とある由。そしてこの花の由来は正しいのか、諸葛菜イコールハナダイコンでこの同定は間違いないのか、戦後急に増えたのは何故か、又その渡来道はどこか,,,と来て「ルートは5つ」が現在の結論だが、如上の論議の輻湊きわまる話しは、とてものこと、ここにまとめることが出来ぬ...というような事をちょっぴり泰子に話しつつ私は会場を出たが、乞う!このまとめること不可能なところを「紫の花伝書1 」によって辿られんことを!ロマンあふれる花物語だ。


ケン・ローチ監督の最新作「天子の分け前」を観た。イラク戦争を扱った「ルートアイリッシュ」アイルランドの問題をテーマにした「麦の穗をゆらす風」の名匠だ。今回のも人間味あふれる快作で、粗筋を述べたい所だが、痛快な落ちがあるのでそこは語れぬ。その落ちのために登場するのが、1樽100万ポンド(約1億4500万円)を上回る最高級のスコッチウイスキー.,,,で、 ケン・ローチのコメントがある。希少なウイスキーは,バカみたいに高いだが高いからおいしいに決まってる、と思い込んでいる人もいる。

さて、このせりふがキーワードになるやもしれぬと思うのが当節の「誤表示問題」「枚挙に遑(いとま)なし」とはこう言うこと...と言いたい位。出てくるわ,出てくるわ、それにしても「誤表示」とはよくも言いもいったり。「差額がもうけ」と明言した方がいいと思うくらいのものだ。阪急阪神ホテルに始まり,高島屋と続き末ホテルオークラに至った時、私の知り合いが言うには、「オークラはなにしろ、日露戦争で,缶詰に石ころを入れて軍に収めてもうけした人間だからなあ」と。オークラの名が出た時、私も「ブルータス、お前もか!」と思いはしたが、この知人の言い分には間違いが2つあるのでオークラをかばう気は毛頭ないが、ここで反論する。この戦地に送る牛肉のカンヅメに石がつまっていたと言うのは,世に言う「石ころ缶詰事件」これ広く信じられて政商大倉喜八郎は悪辣きわまる男となった。この事件,そもそもは,東京の三陽堂なる業者が広島の工場で作った牛缶を中国に送った。時は日清戦争(で、日露戦争と言うのが一つ目の間違い)その牛缶から石が出たーので、当局が調べたところ、荷物は1.2kg、24缶入り。その中12個が抜きとられ,代わりに汽船のドラスト石と荷造り用の縄が詰められていた。缶を開けたら石、ではない。しかもこれは、業界によくある「荷抜き」で山陽堂にとっては,ヌレギヌ。ましてや大倉は何の関係もなしで、これまたヌレギヌの最たるもの。しかし、どこがどう間違ったのか「帝国軍人に牛肉ならぬ石ころを食わせるとは!!」との悪評が大倉責任の名で一挙に広がった。広めるのに一役買ったのは,例えば人道主義の作家として高名な木下尚江,又岩波新書のその名も「死の商人」なる一書で名をあげた岡倉天心の息子,古志郎、それに経済学者の楫西光速(かどにしみつはや)、そして歴史の和歌森太郎(わかもりたろう)などなど。

「大倉喜八郎の豪快なる生涯2 」

これが全くの誤りである事を指摘したのは東京経済大学の図書館司書中村道冏(みちあき)。この大学実は大倉が若者養成のために私費で作った大倉高等商業学校の後身で,創始者の大倉の冤(えん)を雪(そそ)いだことになる、と言う訳で大倉は無関係でこれ2つ目の間違い。ところで、20年もの昔、私の次姉の娘はホテルオークラで結婚式をやったので、兄弟皆して出かけた。終宴後、寝る前にもう一杯どうだ、と新郎新婦を誘って我等夫婦と4人でホテル内で2次会?をした。植木等ではないが、「一寸一杯のつもりで〜と軽く(でもなかったか)飲んでうまかった後日、我妻さんに聞いたら「8万円払ったわよ」と。ケン・ローチではないが「高いから美味しーいと思った訳ではけれど、これやっぱり高いよな。

この夏、アンリ・アレツグが91歳で死亡した。「アルジェ・レピュブリカン」なるフランス日刊紙の元編集長。1830年来、フランスはアルジェリアを植民地としたが、その間アルジェリア人の民族独立運動は絶える事なく続き、それに対するフランス側の弾圧も同じように続いた。かつて、カミュも記者をしていた名高い新聞の編集長たるアレッグも植民地支配を批判したとて、捕まり「気が狂いそうになった」ほどの拷問を受けた。その時の記録が、私の大好きな長谷川四郎が訳して「尋問3 」。フランスでは発禁。かつてナチスの拷問を指弾したフランスが、今度はアルジェリア人を拷問する事の矛盾。大学生だった私は読んで暗澹たる気持ちになったものだが、サルトルに激賞された本書、再読される価値がある。因みに日本憲法36条には「拷問」を「絶対」に禁ずるとあるが、自民党は改正案で「絶対」にを削ったそうな。

老いて尚さかんなる瀬戸内寂聴が自分の作家生涯に多大の影響を与えたとてこのごろしきりに口にする小田仁二郎ー今回全部この作家でまとめようと思ったが、数冊所蔵の中から、集大成的一冊を出してがまんする。不倫相手の寂聴を小説家に仕立てあげた鬼才小田のエロスの傑作「触手4 」読むべし。

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〒051-0015 室蘭市本町2丁目2-5市立図書館「ふくろう文庫」山下敏明宛

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  1. 細川呉港.紫の花伝書 .中国書店(2012) []
  2. 砂川幸雄.大倉喜八郎の豪快なる生涯.草思社文庫(2012) []
  3. 長谷川四郎訳.尋問.みすず書房(1958) []
  4. 小田仁二郎.触手.深夜業書社(1979) []

「第337回花だいこんの話.大倉喜八郎の豪快なる生涯.尋問.触手」への2件のフィードバック

  1. 私は、上記中村道冏(記述は道問となっていますが、正しくは道冏です)の長男です。父はすでに他界しましたが、父の名前が残っていることにびっくりし、コメントを残させていただきました。

  2. ご指摘ありがとうございました。早速訂正いたしました。
    山下さんの原文を確認いたしましたら、こちらの打ち間違いでありました。改めてお詫び申し上げます。

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